通院の回数が少ないと慰謝料は減るのか ― 「実通院日数の3倍・3.5倍」という考え方

白衣を着た医師が、患者の話を聞きながら手元の書類に記入している 交通事故

保険会社が通院日数を持ち出してきたときに、どこを見て反論するのか

けがの治療を終え、保険会社と賠償額について話し合う段階に入ると、「実際に通われた日数が少ないので、慰謝料はこの額になります」と言われることがあります。実際には半年間通院したのに、3か月ほどしか通っていないものとして計算された金額が示される、といった形です。

この計算には、実務で使われている考え方の裏付けがあります。もっとも、いつでも当てはまるものではありません。この記事では、その考え方の中身と、当てはまらないと言える場合を整理します。

慰謝料は、まず治療期間を目安に考える

事故によるけがや治療の負担に対する慰謝料(傷害慰謝料)は、裁判で使われる基準では、事故が起きてから治療が終わるまで、あるいは症状固定、つまり治療を続けても大きな改善が見込みにくいと医師が判断する時期までの期間をもとに、金額の目安が決められています。通院した回数だけで決まるものではなく、治療にかかった期間が基本の目安になります。

慰謝料の算定では、けがの種類によって目安が異なります。原則として用いる目安と、むちうちや打撲のように検査で異常が見つからない場合に用いる目安があります。

目安の例

骨折で入院1か月・通院6か月であれば、149万円。むちうちで通院6か月であれば、89万円が目安になります。同じ通院6か月でも、入院があるかどうか、けがの種類によって、目安の額は変わります。

「実通院日数の3倍」とは何なのか

ところが、通院した期間に比べて、実際に病院へ行った回数がとても少ないことがあります。たとえば、やけどの跡が薄くなるのを皮膚科で見てもらっている場合、受診は1か月に1回、あるいは3か月に1回ということもあります。骨折の治療で、骨を固定する金属製のプレートを体内に入れ、その後は経過を見るために数か月に1回だけ受診する、という場合もあります。

こうした場合に、毎週きちんと通った人と同じ金額でよいのかについては、評価が分かれます。そこで、通院が長期にわたる場合には、症状や治療の内容、通う頻度を踏まえて、実際に通った日数の3倍から3.5倍程度を、慰謝料を計算するための期間とすることがあるとされています。

計算の例

骨折の治療で1年間に50日通院した例を考えます。日数を3.5倍すると175日となり、約6か月に相当します。この期間を使って計算すれば、別表Ⅰの目安は116万円です。1年分で計算した154万円より低くなります。

通院が長期にわたり、通う回数が少ない場合は、けがの内容などに応じて、慰謝料の算定に使う通院期間を、実際に通った日数の3倍又は3.5倍程度として扱うことがあります。検査で異常が見つからないむちうちや打撲の場合は3倍程度、それ以外は3.5倍程度が目安です。

肩や首の動きを確かめている診察の様子
通う回数が少なかった理由は人によって違います。医師の指示と治療の内容を確かめるところから始めます。

この考え方が当てはまらない場合がある

ここが大事なところです。保険会社から、実際に通った日数を重くみた低い金額が示されることがあります。しかし、この考え方の前提は「通院が長期にわたる場合」です。

そして、どういう場合が「長期にわたる」といえるのかについて、はっきりした基準は定められていません。ですから、保険会社に対して、なぜ長期にわたると判断したのかを尋ねたうえで、診療の記録を示して計算し直すよう求める方法が考えられます。

この置き換えは、必ず行うものではありません。通院の期間や症状、治療の内容、通った回数を踏まえ、個別に判断する余地があります。

この変更が意味すること

書き方が変わった経緯を踏まえると、置き換えをするかどうかは、あくまで個別の判断であると読むことができます。「日数が少ないから自動的に減る」という性質のものではありません。

通院の回数が少なかった理由を、どう説明するか

確かめるのは、通院の回数が少なかった理由です。分かれ目は、治療の内容や医師の指示からみて、頻繁に通う必要がなかったのだと説明できるかどうかにあります。

説明の材料になること

  • ギプスで固定され、安静にするよう指示されていた
  • 骨折の後にプレートを入れた状態の経過を見ていた
  • 治療の内容そのものが、頻繁な通院を必要としないものだった
  • 通院した期間が、そのけがからみて長期とはいえない
  • やけどの後の経過を見る段階に入っていた

たとえば骨折で、当初はギプスで固定して安静にするよう指示されていたために受診の回数が少なかったのであれば、実際に通院した期間そのものを基礎として計算するのが相当だと述べていくことになります。

こうした事情は、診断書や診療の記録から読み取れることがあります。保険会社から日数を持ち出された段階で、まず通院先の医療機関から診断書や診療の記録を取り寄せ、通う頻度についての医師の指示が書かれていないかを確かめることになります。

よくある質問

通院の回数が少ないと、慰謝料は必ず減るのですか。

必ず減るものではありません。慰謝料は本来、治療にかかった期間をもとに計算されます。実際に通った日数の3倍から3.5倍程度を期間とする考え方は、通院が長期にわたる場合について「することもある」とされているもので、自動的に適用される決まりではありません。

倍率は何倍になるのですか。

けがの内容などに応じて、慰謝料の算定に使う通院期間を、実際に通った日数の3倍又は3.5倍程度として扱うことがあります。検査で異常が見つからないむちうちや打撲の場合は、3倍程度が目安です。

「通院が長期にわたる」とは、どのくらいですか。

はっきりした基準は定められていません。ですから、保険会社に対して、なぜ長期にわたると判断したのかを尋ねたうえで、診療の記録を示して計算し直すよう求める方法が考えられます。

回数が少なかったのは、医師の指示によるものでした。

その事情は、反論の材料になり得ます。診療の記録から理由を説明できれば、実際に通院した期間を基礎として計算するよう求めることを検討できます。

けがの種類で金額が変わるのですか。

変わることがあります。骨折などの場合と、むちうちや打撲のように検査で異常が見つからない場合とで、別の表が使われます。骨折で入院1か月・通院6か月なら149万円、むちうちで通院6か月なら89万円が目安です。ただし、金額は入院があるかどうかや治療にかかった期間によっても変わります。

何を用意すればよいですか。

診断書と診療の記録です。通院の回数が少なかった理由をうかがわせる記載があるかどうかを、まず確かめます。保険会社から日数を持ち出された段階で取り寄せてください。


通院日数を理由に減額された方へ

通院日数を理由に減額された方へ

保険会社から届いた賠償額の提示書と、通院先の診断書をご用意ください。あわせて、通う回数が少なかった時期に、医師からどのような指示を受けていたかを思い出して書き留めておいてください。まずは、通院日数をどのように計算したのかを保険会社に尋ねるところから始めます。

本稿は、交通事故のけがで通院された方に向けて、傷害慰謝料と通院日数の関係についての一般的な考え方を整理したものです。挙げた金額は目安であり、実際に算定される額は、けがの内容や治療の経過によって異なります。また、実際に受け取れる額は、被害者側にも事故についての責任がある場合に、その割合に応じて賠償額を減らす過失相殺や、既に支払われた分の差引きによっても変わります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

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