「完全看護なので付添いは要りません」と言われたら ― 入院中の付添費用

病室のベッドに横になった患者の額に、看護師が手を当てている 交通事故

断られやすい費目ですが、必要性が認められれば損害になります

家族が事故に遭って入院した。毎日病院に通い、身の回りの世話をし、声をかけ続けた。仕事を休んだ日もある。ところが相手方の保険会社に請求したところ、「今の病院は完全看護ですから、ご家族の付添いは必要ありません」と言われた。

この請求は、確かに保険会社から認められにくいものです。ただし、認められにくいことと、認められないことは違います。付き添う必要があったことを具体的に示せた事案では、裁判所も認めています。この記事では、何をどう示すのかを整理します。

なぜ、まず断られるのか

多くの病院では、必要な医療と看護は病院の側で行う体制が採られています。これを完全看護と呼びます。その体制があるのだから家族が付き添う必要はない、というのが保険会社の言い分です。この理由付けがあるため、この請求は簡単には認められない傾向にあります。

もっとも、それは出発点にすぎません。完全看護の体制が採られている病院であっても、付き添う必要があったと認められる事案では、入院付添費用が損害として認められます。ですから、争うべきなのは「完全看護かどうか」ではなく、「この人の状態で、家族の付添いが要ったのかどうか」です。

医師の指示がなくても、あきらめないでください

医師から「付き添ってください」と言われていれば、それは強い手がかりになります。しかし、そうした指示がなかったとしても、けがをした部位、その程度、本人の年齢といった事情を踏まえて付添いの必要性を認めた裁判例が複数あります(名古屋地方裁判所平成25年2月27日判決・自保ジャーナル1897号111頁、東京地方裁判所平成23年4月26日判決・自保ジャーナル1855号102頁など)。「指示がなかったから無理だ」と考える必要はありません。

金額はいくらで計算するのか

付添費用の目安は、付添いを職業として行う方に頼んだ場合は実際にかかった額、家族など本人と近い関係にある方が付き添った場合は、1日当たり6500円です。

ただし、これは動かない数字ではありません。裁判例では、付添いの内容や負担の重さ、本人の状態によって金額が異なっています。日額8000円程度が認められた例もあります。本人が重症又は幼い場合や、介護に大きな負担が掛かる場合などです(京都地方裁判所平成24年10月17日判決・交通事故民事裁判例集45巻5号1272頁)。

どういう事情が「必要だった」を支えるのか

「心配だったから通った」という説明だけでは、付添いが必要だったことが十分に伝わらないことがあります。その日、付添いとして何をしていたのかを具体的に挙げていきます。実務で挙げられている例を、状態ごとに並べます。

脳を損傷するなど、状態が重い場合

  • 意識を戻すために、繰り返し声をかける必要があった
  • 急に容体が変わることがあり、その都度看護師を呼ぶために見ている必要があった
  • 床ずれを防ぐため、体の向きを変える必要があった
  • 関節が固まってしまうのを防ぐため、手足をほぐす必要があった
  • 自分を傷つける行為や、歩き回ってしまう行動を見ている必要があった

骨折した場合

  • 手を骨折し、食事や排泄といった日々の動作が思うようにできず、手助けが必要だった
  • 足をギプスで固定してつっており、身の回りのことが自分でできなかった

幼い子どもの場合

  • 心も体もまだ育ちきっておらず、保護者が世話をする必要があった
病院の廊下
病院から「付き添ってもらった方がよい」と言われていたのなら、その言葉も記録に残しておいてください。

実際に認められた例

どの程度の状態でどれだけ認められているのか、裁判例を四つ挙げます。比較的低い等級が認定された事案でも、入院中の状態に応じて認められた例があります。

参考・入院付添費用が認められた裁判例

  • 京都地方裁判所平成24年10月17日判決・交通事故民事裁判例集45巻5号1272頁。認められた付添費用は日額8000円で、対象は1593日間でした。母親が付き添い、本人には遷延性意識障害という重い意識の障害(1級1号)が残った事案です
  • 前橋地方裁判所高崎支部平成18年9月15日判決・自保ジャーナル1688号17頁。記憶や注意力、感情の抑えなどに支障が生じる高次脳機能障害(後遺障害等級5級)で、入院した当初は落ち着かない状態にあり、看護師から付添いを勧められた事案で、164日分、1日当たり6000円を認めた
  • 東京地方裁判所平成23年4月26日判決・自保ジャーナル1855号102頁。付添費用として1日に6500円、対象期間は34日間と判断されました。本人に残ったのは、足の動く範囲が狭くなった10級11号の障害です
  • 京都地方裁判所令和3年8月10日判決・交通事故民事裁判例集54巻4号1093頁。左膝の機能の障害(12級7号)で、事故のとき90歳だった方について、入院した期間の3分の1に当たる44日分、1日当たり6500円を認めた

全期間でなくても、認められることがあります

最後の裁判例は、入院した期間の3分の1に当たる日数について認めたものです。「毎日通ったのに全部は認められないなら意味がない」と考える必要はありません。付添いの必要性が高かった時期がどこだったのかを、具体的に説明することが考えられます。

まず手元でできること

記録は、付添いの必要性と、その日にしていたことを具体的に説明するための資料になります。まだ入院中であれば、今日から始められることがあります。

残しておきたいもの

  • 付き添った日付(カレンダーに印を付けるだけでも構いません)
  • その日に何をしたのか(声をかけた、体の向きを変えた、食事を手伝った、など)
  • 医師や看護師から言われたこと(付き添ってほしい、目を離さないでほしい等)とその日付
  • 病院の面会の記録(受付で記入するものがあれば、その控え)
  • 仕事を休んだ日が分かるもの(勤務先の記録、有給休暇の届など)
  • 診断書や診療の記録(当時の状態がどう書かれているかを確かめます)

「完全看護ですから」と言われたときに返すのは、制度の議論ではありません。この人はこういう状態で、家族はこういうことをしていた、という具体の説明です。日付と内容が残っていれば、その説明が組み立てられます。

この記事で確かめた本

Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例

よくある質問

「完全看護だから付添いは不要」と言われました。それで終わりですか。

終わりではありません。完全看護の体制が採られている病院であっても、付き添う必要があったと認められる事案では、入院付添費用が認められます。争点は、完全看護かどうかではなく、その方の状態で家族の付添いが必要だったかどうかです。

医師から付き添うようにとは言われていません。

医師の指示がある場合はもちろん有利ですが、指示がなくても、けがをした部位や程度、本人の年齢といった事情を踏まえて付添いの必要性を認めた裁判例が複数あります。その日に何をしていたのかを具体的に挙げていくことになります。

いくらで計算されるのですか。

付添費用の目安は、付添いを職業として行う方に頼んだ場合は実際にかかった額、家族など本人と近い関係にある方が付き添った場合は、1日当たり6500円です。ただし、付添いの内容や負担の重さ、本人の状態によって上下し、日額8000円程度が認められた例もあります。本人が重症又は幼い場合や、介護に大きな負担が掛かる場合などです。

後遺障害の等級が軽い場合は無理でしょうか。

そうとは限りません。足の動く範囲が狭くなった障害(10級11号)の事案で34日分を認めた裁判例、左膝の機能の障害(12級7号)で事故のとき90歳だった方について入院期間の3分の1に当たる44日分を認めた裁判例があります。

入院した期間の全部について認めてもらえますか。

入院した期間の一部に限って認められた例があります。入院期間の3分の1に当たる44日分を認めた裁判例が、その例です。ですから、付添いの必要性が高かった時期がどこだったのかを、具体的に説明することが考えられます。


まとめ ― 断られたときに確かめること

まとめ ― 断られたときに確かめること

付き添った日付とその日にしたこと、診断書、医師や看護師から言われたことの記録をご用意ください。入院中であれば、今日から日付と内容を書き留めておいてください。後から具体的に説明できるよう、その都度記録しておくことが大切です。

本稿は、入院中の付添費用について、一般的な考え方と裁判例の傾向を整理したものです。認められるかどうか、認められる日数や金額は、本人の状態、年齢、付添いの内容、医療機関の体制などによって異なります。個別の事案では、付き添った日付と内容、診療の記録をもとに、請求できる日数と金額を検討することになります。

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