見た目には分からない高次脳機能障害 ― 申請の流れと、ご家族にできること

白衣を着た医療従事者が、聴診器を手に持っている 交通事故

暮らしの中でどんな支障が出ているか。ご家族の説明が、重要な判断材料になります。

頭を強く打った事故のあと、傷は治ったのに、以前とは様子が違う。約束を忘れる、些細なことで怒る。ご家族が気付かれることがありますが、その原因が何なのか分からないまま過ぎてしまうことがあります。

これは高次脳機能障害と呼ばれるもので、後遺障害として認定される道があります。ただし、その申請は、むちうちなどの申請とは手続そのものが違います。この記事では、何が違うのか、そしてご家族に何ができるのかを整理します。

高次脳機能障害とは何か

脳が傷を受けたことによって、物事を覚えられない、周りに合わせた行動がとれない、人柄が変わったように見えるといった症状が出て、仕事や日々の暮らしに支障が生じることがあります。これをまとめて高次脳機能障害と呼びます。なお、頭に強い力が加わったとき、意識を失っている期間が一定の長さにわたることがあります。この意識の状態は、後で述べるとおり、等級を認定する場面で重く見られる事情です。

頭に強い力を受けると、頭蓋骨や頭蓋底が折れることがあります。折れるほどの衝撃が脳に伝わることで、脳そのものが傷付く脳挫傷、脳を包む膜の間の隙間に出血が起こるくも膜下出血、脳の神経線維が広い範囲で傷付くびまん性軸索損傷といった傷を負うこともあります。

脳は、医学的にもまだ分かっていない部分が多い臓器です。傷んだ部分の回復の程度には個人差があり、リハビリによって働きの改善を図りますが、症状が残ることもあります。

どういう症状が出るのか

主なものを三つに分けて挙げます。ご家族が見ておられる様子と重なるものがあるかどうか、確かめてみてください。

覚える・注意を向けることが難しくなる

  • 昔のことを引き出せなくなる
  • 今日あったことが翌日には残っていない
  • 気が散りやすく、一つのことを続けられない
  • 先を見通して手順を組むことができない

その場に合った行動がとれなくなる

  • その場の様子を見て振る舞いを変えることができない
  • 二つのことを並行して進められない
  • 話が遠回りになる。本を読み通せない
  • 職場や社会の決まりから外れてしまう
  • 危ないと気付いて身を引くことができない
  • 思い付いたまま動いてしまい、自分で止められない

人柄が変わったように見える

  • 自分から動き出さなくなり、何にも気が向かなくなる
  • 自分のことばかりになり、すぐ腹を立てる
  • こらえがきかず、強い言葉が出る
  • 話し方や振る舞いが子どものようになる
  • お金の出入りを管理できない
  • 一つのことに執着して離れられない

この障害の難しさ ― 外から見て分からない

傷んでいるのが脳ですから、外から見て障害が残っているとは分からないことがあります。健康そうに見える方にも、先に挙げたようなことが起きています。事情を知らない人には、まず伝わりません。

事情を知っているご家族や職場の方でも、以前との違いに戸惑いながら、その原因が何なのかはっきり分からないまま過ごしていることがあります。まだ広く知られていない障害だといえます。

こうしたことが重く出ている方は、ご家族が支えなければ日々の暮らしが立ちません。折々に声をかける、予定を管理するといった手助けが要ります。

だからこそ、ご家族の説明が要になります

日々の暮らしでどのような支障が出ているのかについてのご家族の説明は、重要な判断材料になります。後で述べるとおり、それを書き込む書類も用意されています。医師は、患者と接する時間が限られています。ご家族が見ておられることは、ほかの誰にも代われない情報です。

病室で医師と看護師が話す様子
医師が接するのは診察のわずかな時間です。ご家族が見ておられることは、代わりのない情報です。

等級はどう決まるのか

等級は、介護が要るかどうか、要るなら常時か随時か、そして働けるかどうかという見方で定められています。当てはめるのは、原則として脳や神経の障害についての後遺障害等級です。

認定の基準(等級と、その目安)

  • 1級1号 ― 常に介護が必要なもの。体は動くものの、認知の機能が著しく落ちているために、身の回りのことに全面的な介護を要する状態
  • 2級1号 ― 随時介護が必要なもの。判断する力の低下や気持ちの不安定さがあり、一人で外出できず、生活の範囲が自宅の中に限られる。排泄や食事はできても、生命を保つのに必要な動作に家族の声かけや見守りを欠かせない状態
  • 3級3号 ― 生涯にわたり働くことができないもの。自宅の周りは一人で外出でき、声かけや介助なしに日常の動作は行える。しかし、記憶、注意、新しいことを学ぶ力、自分の障害を認識する力、対人関係を保つ力に著しい障害があり、一般の就労が全くできないか、極めて難しい状態
  • 5級2号 ― 特に軽い仕事以外はできないもの。決まった手順を繰り返す仕事であれば就ける。ただし、新しい手順を覚えられない、周りが変わると続けられないといった問題があり、こなせる量が著しく限られ、職場の理解と手助けを欠かせない状態
  • 7級4号 ― 軽い仕事以外はできないもの。一般の就労は続けられるが、手順が悪い、約束を忘れる、間違いが多いといったことから、ほかの人と同じ作業ができない状態
  • 9級10号 ― できる仕事が相当な程度に制限されるもの。一般の就労は続けられるが、問題を解決する力に障害が残り、作業の効率や能力に問題がある状態

主な認定の基準として置かれているのは、以上の1級、2級、3級、5級、7級、9級です。症状の程度に応じて、この中のどれかが検討されることになります。理論としては12級13号となる場合もあり得ます。なお等級は、数字が小さいほど重い扱いです。

申請の手続が、ほかの後遺障害とは違います

ここが最も大事なところです。この障害が疑われるときは、自賠責保険の側で専門の部署が調べることになっています。むちうちによる痛みやしびれを理由とする申請とは、全く別物だとお考えください。

ほかの後遺障害では、後遺障害診断書や検査の画像を中心に審査されるのが一般的です。もっとも、必要な資料は事案によって違います。そして高次脳機能障害に当たる可能性がある事案では、後遺障害診断書のほかに、次の書類の提出を求められます。

別に求められる三つの書類

  • 頭部外傷後の意識障害についての所見
  • 神経系統の障害に関する医学的意見
  • 日常生活状況報告書

そして、この障害では、どの段階で、どの医師に、どの書類を頼むのかを、あらかじめ組み立てておくことが大切です。症状と暮らしの支障を手続に正しく反映させるためです。ただ書類をそろえればよい、という話ではないのです。

なぜ段取りが要るのか

高次脳機能障害では、救急で運ばれた病院、その後に転院して治療を受けた病院、リハビリを行った病院が、それぞれ別であることが通常です。申請をする時期には、最初に運ばれた病院にはもう長く受診しておらず、今の状態が伝わっていないことがしばしばあります。

最初の病院には「頭部外傷後の意識障害についての所見」を書いてもらう必要がありますが、何の準備もなく突然頼めば、十分に検討がされないおそれがあります。リハビリを受けていた病院から介護施設へ移っている場合も同じです。

順番 ― 何から手を付けるか

実務では、次の順で進めます。ご家族には、二つ目のところで大きな役割があります。

**一つ目に、診断書と明細書を取り、カルテの開示を受けます。** 治療の経過と、最初に運ばれたときの意識の状態を確かめるためです。保険会社が治療費を直接払っている場合は、診断書や明細書の写しをその保険会社から受け取れることがあります。受け取れない場合は、病院に確かめます。カルテは病院から開示を受けます。まだ治療中の場合もありますので、どの病院まで開示を求めるかは考えておく必要がありますが、少なくとも最初に運ばれた救急の病院の分は取っておくべきです。

最初のカルテでは、運ばれたときの意識の水準、その後の変化、そして意識が戻ったのはいつかを確かめます。意識の程度を数字で表す方法には、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)とGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)の二つがありますので、どちらで書かれているのかも見ておきます。

意識の状態が、見通しを左右します

意識の落ち込みがどの程度で、どれくらい続いたか。これは、障害が残る可能性とその程度を判断するうえで重要な資料の一つです。ただし、それだけで結論が決まるものではありません。運ばれたときの意識がさほど落ちていなかった場合は、重い障害には至らないとみられ、そもそも発症していないと判断されることもあります。

**二つ目に、ご家族から聞き取り、日常生活状況報告書を作ります。** 治療の経過がつかめたところで、ご本人とご家族から、事故の前と後で暮らしがどう変わったのかを伺います。

ご家族に、ぜひ伝えていただきたいこと

  • 薬の飲み忘れが増えた
  • 近所の方や職場の方と、ちょっとした言い争いが増えた
  • 甘いものばかり食べるようになった
  • 以前は自分でしていた段取りが、できなくなった
  • 以前は自分でできていた金銭の管理ができなくなった

些細に思えることで構いません。この障害の症状は外から見えにくいため、こうした小さな出来事に現れます。反対に、こうした話はご本人やご家族の側からはなかなか出てこないことも多く、聞く側が生活の場面を細かく尋ねていく必要があるところです。

報告書は、ご家族だけで書かない方がよいです

日常生活状況報告書は、質問の項目に印を付けていく形式です。どこに付けるべきか迷う項目も少なくありません。ご家族だけで書くと、「そこまで影響はない」と控えめに書きすぎるか、反対に症状を重く伝えようとして実際より強く書きすぎるか、どちらかに寄りがちです。

カルテに書かれている症状と明らかに食い違う項目に印が付くと、かえって全体の信用を損ないます。ご家族から具体的な出来事を聞き取ったうえで、弁護士などと内容を確かめながら作る方法があります。書式に収まらない出来事があれば、日々の変化を具体的に書いた書面(陳述書)を別紙として添えることも考えます。

**三つ目に、どの病院にどの書類を頼むかを決めて依頼します。** 多くの事案では、後遺障害診断書と「神経系統の障害に関する医学的意見」は、症状固定のとき、つまり治療を続けても大きな改善が見込みにくくなった時点でかかっていたリハビリの病院に、「頭部外傷後の意識障害についての所見」は最初に運ばれた病院に頼むことになります。

このとき、ただ書類の作成を頼むのではなく、先に作っておいたものを一緒に渡すことが大切です。意識障害についての所見を頼む病院には、カルテから拾った意識の水準の推移を時系列にまとめたものを添えます。診断書と医学的意見を頼む病院には、日常生活状況報告書とご家族の陳述書を参考として渡します。

医師が患者と向き合えるのは、診察のわずかな時間だけです。入院を終えて通院に移った後は、その時間がさらに短くなります。その中で暮らしの実際を書き取るのは、医師の側にも難しいことです。ご家族がまとめた記録は、書く側にとっても手がかりになります。

示談の前に ― 後見・保佐・補助の検討

もう一点、押さえておきたいことがあります。重い高次脳機能障害のために、示談の内容を十分に判断できないおそれがある場合には、判断する力の程度に応じて、後見、保佐、補助という制度の利用を検討することになります。いずれも、判断する力が十分でない方を法律の面から支える仕組みです。

示談をするには、その内容を理解して決める力(意思能力)が必要です。高次脳機能障害は脳の損傷によって生じることがあるため、その力があるのかどうかに疑いが生じます。示談の意思表示をしたときに意思能力がなかった場合、その示談は無効です(民法第三条の二)。

必要かどうかは、等級やご家族の関係だけで決まるものではありません。ご本人が示談の内容を理解して判断できるのか、代理する人が要るのかという点から検討します。手続に費用がかかりますので、早めに説明を受けておくことには意味があります。

なお、後見人の候補について希望を整理しておくことはできますが、誰を選任するかを決めるのは家庭裁判所です。ご親族ではなく専門職が選ばれることもあります。裁判所の監督が始まるのは、後見を開始する審判がされて後見人が選ばれた後で、その後は後見人が家庭裁判所へ定期の報告をします。報酬についても、ご家族との取決めで決まるものではありません。後見人が報酬の付与を申し立て、家庭裁判所がその有無と額を決め、ご本人の財産から支払われます。

よくある質問

外から見ると元気そうなのですが、後遺障害として認められるのですか。

外から見て元気そうに見えることだけを理由に、認定が否定されるわけではありません。ただし、認定を受けるには、画像、受傷したときの意識の状態、症状の経過、暮らしの上の支障が分かる資料が必要です。ご家族の説明は、その重要な判断材料になります。

普通の後遺障害の申請と、何が違うのですか。

この障害が疑われるときは、自賠責保険の側で専門の部署が調べることになっています。後遺障害診断書のほかに、頭部外傷後の意識障害についての所見、神経系統の障害に関する医学的意見、日常生活状況報告書という三つの書類が必要です。

どの病院に何を頼めばよいのですか。

多くの事案では、後遺障害診断書と神経系統の障害に関する医学的意見はリハビリを行っていた症状固定時の病院へ、頭部外傷後の意識障害についての所見は最初に運ばれた病院へ頼みます。最初の病院にはしばらく受診していないことが多いので、意識の水準の推移をまとめた資料を添えて依頼します。

日常生活状況報告書は、家族が書くのですか。

ご家族が中心になって書くものですが、ご家族だけで書くと、控えめに書きすぎるか、反対に強く書きすぎるかに寄りがちです。カルテの記載と食い違う項目に印が付くと、全体の信用を損ないます。聞き取りをしたうえで一緒に作るのが望ましいところです。

意識を失っていた時間は関係しますか。

関係します。意識の落ち込みが深く、その状態が長く続いていた方ほど、障害が残る見込みもその重さも大きくなります。反対に、運ばれたときの意識がさほど落ちていなかった場合は、発症そのものを否定されることもあります。カルテでJCSまたはGCSという目安のどちらで記載されているかも確かめます。

どの程度の等級になりますか。

介護が要るかどうか、働けるかどうかという見方で、1級、2級、3級、5級、7級、9級の基準が置かれています。理論としては12級となる場合もあり得ますが、実際には9級10号か、それより重い等級になることがほとんどです。

示談をするのに、何か手続が必要になりますか。

示談の内容を十分に判断できないおそれがある場合には、判断する力の程度に応じて、後見、保佐、補助の利用を検討することになります。示談には内容を理解して決める力が必要で、脳の損傷がある場合はその力に疑いが生じるためです。なお、誰を後見人にするかを決めるのは家庭裁判所で、報酬もご家族との取決めではなく家庭裁判所が決めます。


ご家族の方へ ― 早い段階で記録を

ご家族の方へ ― 早い段階で記録を

事故の後の経過と暮らしの変化を早めに書き留めておくと、後で申請の資料を整えやすくなります。弁護士に相談するときは、これまでにかかった病院の名前と時期が分かるもの、保険会社から届いた書面を用意してください。あわせて、事故の前と後で変わったと感じることを、日付と出来事の形で書き留めておいてください。「薬を飲み忘れた」「言い争いになった」といった短い記録が、後で申請の資料になります。

本稿は、交通事故により高次脳機能障害が疑われる方とそのご家族に向けて、後遺障害の申請についての一般的な考え方を整理したものです。認定される等級や必要な手続は、けがの内容、意識の状態、治療の経過、暮らしの状況によって異なります。個別の事案については、診療記録などの資料に基づく検討が必要です。

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