後遺障害が残っても給料は減っていない ― それでも逸失利益が認められる場合があります

オフィスで、机に向かって仕事をしている三人 交通事故

「減収がないから補償はない」と言われたときに、何を示すのか

後遺障害の等級が認定されたので賠償額の提示を待っていたところ、逸失利益(将来の収入が減ることへの補償)がゼロで計算されていた。理由は「事故の前後で収入が変わっていないから」だという。こうした提示を受けても、そこで諦める必要はありません。

収入が減っていないという事情だけで、この項目が直ちに否定されるわけではありません。もっとも、最高裁判所は、後遺障害が比較的軽く、就いている職業の性質からみて現在も将来も収入の減少が認められないという場合には、特段の事情がないかぎり、労働能力の一部を失ったことを理由とする財産上の損害を認める余地はないとしています(最高裁判所昭和56年12月22日第三小法廷判決・民集35巻9号1350頁)。裁判例には、その「特段の事情」に当たる事情を示して逸失利益を認めたものが数多くあります。何を示せばよいのかを、順に整理します。

逸失利益は「これまで」ではなく「これから」の話

この項目は、後に残った障害のために働く力が落ち、将来、収入の面で不利益が生じる可能性を金銭で埋めるためのものです。ですから、今の給料の額だけでなく、仕事にどう差し支えているか、将来にどう響くかまでを見て判断されます。

ところが実務では、治療を続けても症状がこれ以上よくなりにくいと判断された時点(症状固定)の後に収入が減っていないと、保険会社がこの項目を落として計算してきたり、大幅に低い額を示してきたりすることが多くあります。事故の前後で収入額が変わっていないことを理由に挙げられる形です。

裁判例の傾向

収入が変わらないことを理由にこの項目を認めなかった裁判例もあります。しかし、数のうえでは認めたものの方が多数を占めます。ただし、等級に応じて目安が設けられている「働く力が失われた割合」(労働能力喪失率)より低い率にとどめた例も多くあります。

減収がなくても認められる、四つの筋道

減収がない場合でも、次のような事情は、この項目が認められることを支える材料になります。裁判例が理由として挙げてきたものを整理すると、大きく四つに分かれます。

四つの筋道

  • 仕事に差し支えが出ている
  • 昇進や昇給で不利になるおそれがある
  • 本人が無理をしているから減収を免れている
  • 勤め先や同僚が気を遣ってくれているから減収していない

今の給料が変わっていないとしても、仕事にどう差し支えているか、将来の昇進や昇給にどう響くか、本人の無理や職場の配慮で保たれていないかを、具体的に説明することが要点になります。裁判例には、これらのそれぞれについて逸失利益を認めたものがあります。

机が並んだ事務所の様子
同じ職場に居続けられているのは、周りの配慮のおかげかもしれません。それも示すべき事情です。

自分の事案では、どう当てはめるか

四つの筋道に、具体の事情を当てはめていきます。心当たりのあるものを書き留めてみてください。

仕事に差し支えが出ている

キーボードを打つのに時間がかかる。痛みで集中が途切れる。痛みのために体の動きが制限される。車の運転が短い時間しかできない。重い物が運べない。残業ができなくなった。仕事で使う機械をうまく扱えなくなった。

昇進・昇給で不利になるおそれ

上のような差し支えがあること。事故の後に社内での評価が下がった。契約の件数が減った。任される仕事の量が減らされた。仕事の内容が変えられた。欠勤や遅刻が増え、処分を受けるおそれがある。同期と比べて昇給や昇進が遅れている。

本人が無理をしている

事故に遭う前よりも長く働いている。痛みを抱えながら、休まずに勤めを続けている。

勤め先や同僚の配慮

仕事の内容が軽くされた。作業を担当する人が増員された。本来なら自分がやる作業を、上司や同僚が引き受けてくれている。

さらに言い返されたときの備え

こちらが事情を示すと、保険会社から次のような再反論が来ることがあります。あらかじめ備えておくと、話が進みます。

「残っているのは神経の症状だから、数年でなくなる」

症状がどれだけ強いか、通院を続けていること、レントゲンやCTなどの画像検査で骨の変形などが確認されており、その変形が長く残ると考えられること、長期間症状が残ると考える旨の医師の意見。こうしたものを示していきます。

「診療の記録を見ても、症状が残っているとは思えない」

事故の規模、続けている投薬や注射などの治療について、その目的と症状との関係を、診療の記録や医師の意見と併せて示していきます。

「事故から数年たつが減収はない。職種上、減収する可能性も低い」

職種のうえで減収する可能性が低いという反論で、公務員などについて主張されることがあります。減収していない理由が本人の無理と職場の配慮にあることを改めて示し、併せて昇進・昇給への影響についても述べていきます。

示せる事情を全て伝えたうえで、保険会社から最後の答えをもらいます。この項目を認めるのか、認めるならどれだけか。そこを見てから、示談で終えるか裁判に進むかを決めることになります。

よくある質問

収入が減っていないと、逸失利益は請求できないのですか。

将来の収入の面で不利益が生じる可能性を具体的に示せる場合には、認められることがあります。今の給料が変わっていないという一点だけで結論が出るものではありません。裁判例でも、認めたものの方が多数を占めます。

どのような事情が、認められることを支える材料になりますか。

仕事に差し支えが出ている、昇進や昇給で不利になるおそれがある、本人が無理をしているから減収を免れている、勤め先や同僚の配慮で減収していない、といった事情です。

等級に応じた割合が、そのまま使われますか。

そうとは限りません。等級に応じた割合(労働能力喪失率)より低い率で認定する裁判例も多くあります。

公務員なので減収しないと言われました。

職種を理由にした反論です。減収していないのは本人の無理や職場の配慮によるものだという事情を改めて示し、昇進・昇給への影響についても述べていくことになります。

何を用意しておけばよいですか。

仕事のどの場面でどう困っているかの記録、職場での配慮の内容、続けている治療の内容、画像の所見や医師の意見です。これらが逸失利益を認めてもらう材料になります。


「減収がない」と言われた方へ

「減収がない」と言われた方へ

後遺障害の等級の認定結果が書かれた書面と、保険会社から届いた賠償額の一覧をご用意ください。併せて、仕事のどの場面でどう困っているか、職場でどんな配慮を受けているかを具体的に書き留めておいてください。認められるかどうかは、症状や仕事への影響、本人の努力、職場の配慮といった具体の事情を踏まえて判断されます。

本稿は、後遺障害が残ったものの収入が減っていない方に向けて、逸失利益についての一般的な考え方を整理したものです。実際の判断は、症状の内容、仕事への影響、職場の状況などによって異なります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

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