仕事のミスで会社から損害賠償を求められたら ― 払う範囲、給料からの天引き

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全額を払う必要があるのか、給料から差し引かれたらどうなるのかを解説します

仕事のミスで会社に損害を与えても、その全額を弁償する義務が当然に生じるのではありません。最高裁判所は、会社が従業員に請求できる額を、損害を公平に分け合う観点から相当といえる範囲に限っています。

この記事の結論

  • 会社が請求できる額は、事業の性格、仕事の内容、ミスの態様、会社の保険加入などの事情を踏まえて決まります。最高裁判所が損害の4分の1までとした事案があります。
  • 「ミスをしたら1回◯円」のように賠償の額をあらかじめ決める契約は、労働基準法第16条で禁止されています。
  • 会社が賠償金を給料から一方的に差し引くことは、賃金の全額払いを定めた労働基準法第24条第1項に反し、許されません。

会社が請求できるのは、相当といえる範囲に限られる

仕事のミスで会社に損害を与えると、会社から損害賠償を請求されることがあります。根拠は、労働契約上の義務に違反したこと(民法第415条)や不法行為(民法第709条)です。

会社は人を雇うことで事業を広げ、その事業から収益を上げています。そのため、事業の中で起きるミスの損失は会社も負担すべきだと考えられています。

従業員のミスで会社が取引先などに賠償金を払い、その分を従業員に求めてくる場合(民法第715条第3項の求償)も、同じ考え方で範囲が限られます。

法律上の扱い根拠
実際に生じた損害の賠償請求できる場合はあるが、相当といえる範囲に限られる民法第415条・第709条、最高裁判所の判例
「ミスをしたら◯円」という約束このような契約をすること自体が禁止されている労働基準法第16条
会社から求められることと、法律上の扱い

最高裁判所の判断 ― 損害の4分の1までとされた事案

判断の枠組みは、最高裁判所昭和51年7月8日第一小法廷判決・民集30巻7号689頁(茨城石炭商事事件)で示されました。

石油の輸送と販売を営む会社で、従業員がタンクローリーを運転中に事故を起こしました。会社は、自社が受けた損害と、事故の相手に払った賠償金を従業員に請求しました。

最高裁判所は、次のような事情を踏まえ、損害を公平に分担するという考え方から、信義則に照らして相当といえる額までしか請求できないとしました。

請求できる範囲を決めるときに考慮される事情

  • 事業の性格、規模、施設の状況
  • 従業員の仕事の内容、労働条件、勤務態度
  • ミスや事故の態様
  • 事故の予防や、保険などによる損失の分散について、会社がどれだけ配慮していたか

この事案では、会社が多くの車両を持ちながら対物賠償責任保険と車両保険に入っていなかったことなどが考慮されました。従業員は特命により臨時に乗務しており、勤務成績は普通以上でした。

結論として、会社が請求できるのは損害の4分の1までとされました。4分の1はこの事案の事情から出た数字で、どの割合になるかは事案ごとに判断されます。

机の上の図面と書類の上で電卓をたたく手
図面と書類の上で電卓をたたく手

軽い不注意なら責任を負わないこともあり、故意なら重くなる

軽い不注意によるミスでは、会社の損害賠償請求そのものが認められないこともあります。

反対に、会社のお金を横領するなど、わざと会社に損害を与えた場合は、責任が限られず、損害の全額の賠償が認められることがあります。

「ミスをしたら◯円払う」という約束は禁止されている

労働基準法第16条により、会社は、ミスや契約違反に備えて違約金や賠償額をあらかじめ決めておく約束を従業員と結ぶことができません。

「不良品1個につき100円を払う」といった定めは、この禁止に当たり、無効です。会社が賠償を請求できるのは、実際に損害を受けたことを証明した場合に限られます。

給料から勝手に差し引くことはできない

給料は、その全額を払うのが決まりです(労働基準法第24条第1項)。従業員に賠償の責任があるとしても、会社が賠償金を給料から一方的に差し引くことはできません。

従業員の同意を得て差し引く場合については、最高裁判所の判例があります。退職金から、住宅資金の借入れを返す費用を差し引いた事案です。

最高裁判所平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁(日新製鋼事件)がそれに当たります。

この判決は、同意が本人の自由な意思によるものだと認めるに足りる合理的な理由が客観的にあるときは、全額払いの決まりに反しないとしました。

同意書に署名していても、それだけで有効になるわけではなく、自由な意思によると認められる客観的な事情が必要です。差し引くことへの同意を求められても、応じる義務はありません。

請求されたら、その場で払う約束をしない

上司や会社との面談で弁償を求められても、その場で支払を約束したり、念書に署名したりせず、持ち帰って検討すると伝えてください。

「全額を弁償します」という念書や責任を全て認める発言は、後に裁判になったとき、従業員に不利な証拠として使われるおそれがあります。

よくある質問

仕事のミスで出た損害は、全額自分で弁償するのですか。

当然に全額を払う必要はありません。軽い不注意によるミスであれば、賠償の責任そのものが否定されることもあります。

ミスの弁償代を給料から差し引かれてしまいました。取り戻せますか。

取り戻せます。一方的に差し引かれた分は、支払われていない賃金として会社に請求できます。給与明細で、差し引かれた月と額を確かめてください。

会社から損害賠償を求める訴状が届きました。放っておいてもよいですか。

放置しないでください。答弁書を出さず、指定された日に裁判所へも行かないと、会社の言い分どおりの判決が出ることがあります。


弁護士に相談するときに用意するもの

弁護士に相談するときに用意するもの

会社から届いた請求の書面やメール、面談のメモ、入社時の誓約書や雇用契約書、給与明細を用意してください。

本稿は一般的な制度の説明です。個別の事案については資料に基づく検討が必要です。

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