給料を年単位や出来高・日単位で決めていても、法律の時間を超えて働けば割増賃金の対象になります
年俸制、歩合給、日給のどれであっても、原則として1日8時間・1週40時間を超えて働けば、割増賃金(残業代)の対象になります。給料を年単位で決めるのか、売上に応じて決めるのか、日ごとに決めるのかは、払い方の違いにすぎません。それだけで残業代の決まりが外れることはありません。
よくあるのは「年俸に残業代が含まれている」「歩合給に込みになっている」という説明です。ここでは、そうした説明が通るのはどんな場合か、そして年俸・歩合給・日給のそれぞれで残業代をどう計算するのかを整理します。
この記事の結論
- 年俸制・歩合給・日給でも、原則として1日8時間・1週40時間を超えて働けば残業代の対象です。給料の決め方だけを理由に、残業代を払わなくてよいことにはなりません。
- 「年俸に残業代が含まれている」という約束で払ったことになるには、給料のうちどの部分が残業代なのかを見分けられることが必要です。見分けられなければ、残業代は払われていない扱いになります。
- 歩合給の残業代は、歩合給の総額をその期間に働いた総時間で割って時間単価を出し、時間外の時間数と割増率(月60時間以内の時間外なら0.25・超えた分は0.5)を掛けて計算します。
- 日給の時間単価は、日給を1日の所定労働時間で割って出します。年俸制では、賞与の月に上乗せして払われる確定額も、時間単価の計算に含まれます。
給料の決め方が違っても残業代の決まりは同じ
労働基準法は、休憩を除いて1週40時間、1日8時間を超えて働かせることを原則として禁じ(労働基準法第三十二条)、この時間を延ばして働かせたときは割増賃金を払うよう会社に義務付けています(同法第三十七条第1項)。この決まりは、給料が月給か年俸か、歩合か日給かを区別していません。
年俸制は、賃金の額を1年単位で決める仕組みです。年俸を決めたことだけで、割増賃金の支払義務がなくなるわけではありません。
残業代の決まりが外れる場合は別にある
管理監督者に当たる場合や、裁量労働制などの労働時間のみなし制が正しく適用されている場合には、残業代の扱いが変わります。ただ、これは給料の決め方とは別の話で、それぞれに厳しい要件があります。管理監督者については「『管理職だから残業代は出ない』は本当か」の記事で扱っています。
「年俸に残業代が含まれている」と言われたら
この約束で残業代を払ったことになるには、給料のうち、通常の働きに対する部分と、残業代に当たる部分とを見分けられることが必要です。最高裁判所は、割増賃金が払われたといえるかを判断する前提として、この見分けができることを求めています(最高裁判所令和2年3月30日第一小法廷判決・民集74巻3号549頁〔国際自動車事件〕。この判決は、以前の最高裁判所の判決を引いてこの考え方を示しています)。
給料が高いことだけでも、残業代の支払義務はなくなりません。契約書に「年俸に残業代を含む」と書かれていても、通常の賃金と残業代の額を分けて確かめられる必要があります。給与規程と明細を見て、残業代として何円が支払われたのかを確認します。
| 書き方の例 | 扱いの目安 | |
|---|---|---|
| 残業代の部分が分けられていない | 「年俸600万円(時間外手当を含む)」 | どこが残業代か見分けられず、残業代は払われていない扱いになる |
| 残業代の部分が額で分けられている | 「月額のうち◯万円を時間外手当として支払う」 | 見分けはできる。法律どおりに計算した額に足りなければ、差額を請求できる |
残業代の部分が分けて書かれていても、それで終わりではありません。その額が、実際に働いた時間から法律どおりに計算した残業代に届いていなければ、足りない分を請求できます。手当として定額で払う形(固定残業代)の確かめ方は「給与明細の『固定残業手当』で残業代は本当に払われているのか」の記事で詳しく説明しています。
年俸制の時間単価 ― 賞与の月に多く払う分も計算に入る
年俸制でも給料は毎月払われるのが通常なので、時間単価は月給と同じように、月の額を月の所定労働時間で割って出します(労働基準法施行規則第十九条。月によって所定労働時間が違うときは、1年間の1か月平均の時間で割ります)。
注意したいのは、年俸を16等分して毎月16分の1を払い、夏と冬に16分の2ずつを上乗せする、といった払い方です。年俸の総額があらかじめ決まっているなら、夏冬の上乗せ分は残業代の計算から外せる「賞与」には当たらず、年俸の総額を12で割った額を月の額として時間単価を出すというのが行政の解釈です。
計算の例(割増賃金の基になる年俸部分が640万円の場合)
- 支給方法 … 月ごとの40万円を12回、80万円の上乗せを2回
- 時間単価の基になる月の額 … 40万円ではなく、640万円÷12=約53万3333円
- これを月の所定労働時間で割ったものが時間単価になる
- 計算から外れる手当や別に支払う固定残業代がなく、640万円全体を基礎にする例です
これに対し、年俸とは別に、成績によって額が変わる賞与が払われている場合は、その賞与は時間単価の計算から外されます。年俸の総額が決まっていて、その一部を賞与の月に回しているだけなのか、額が決まっていない賞与なのかを、契約書や給与規程で確かめてください。
歩合給の残業代 ― 総労働時間で割り割増分を払う
歩合給でも残業代は出ます。売上から計算された歩合給を払ったことだけで、時間外や深夜の割増分まで支払ったことにはなりません。「歩合給に含む」という説明を受けたら、通常の賃金と割増賃金の額を区別して確かめられるかを確認します。
歩合給の時間単価は、その期間の歩合給の総額を、その期間に実際に働いた総時間で割って出します(労働基準法施行規則第十九条第1項第6号)。月給の部分と歩合給の部分の両方があるときは、それぞれ別に計算して合わせます(同項第7号)。
行政の解釈では、残業した時間の通常の賃金(1.0の部分)は歩合給で既に払われていると扱われ、残業代として求められるのは、時間単価に割増率(月60時間以内の時間外労働なら0.25・超えた分は0.5)を掛けた分だけとされています。
| 時間単価 | 残業代 | |
|---|---|---|
| 固定給の部分(月平均の所定労働時間170時間) | 20万円÷170時間=約1176円 | 1176円×30時間×1.25=4万4100円 |
| 歩合給の部分(その月の総労働時間200時間) | 5万円÷200時間=250円 | 250円×30時間×0.25=1875円 |
| 合計 | 4万5975円 |
残業代の額をそのまま歩合給から差し引く仕組みにも、最高裁判所は歯止めをかけています。時間外に働くほど残業手当が増え、その分だけ歩合給が減って、歩合給が0円になることもある賃金規則について、名目だけを割増金に置き換えたもので、どこが時間外労働の対価なのか明らかでないとして、割増賃金が払われたとはいえないと判断しました(最高裁判所令和2年3月30日第一小法廷判決・民集74巻3号549頁〔国際自動車事件〕)。もっとも、歩合給の仕組みは会社ごとに違い、細かな違いで結論が分かれた裁判例もあるので、給与規程の計算式を一つずつ読む必要があります。

1か月の時間外労働が60時間を超えた分は、割増率が5割以上になります。令和5年4月以降は、中小企業も同じ取扱いです。表の例は時間外30時間で、深夜・法定休日の労働がない場合の概算です。 固定給の時間単価は、説明用に円未満を先に切り捨てています。端数を残して最後に丸める計算とは、合計額に差が出ます。
日給の残業代 ― 1日の所定労働時間で割る
日給制の時間単価は、日給を1日の所定労働時間で割って出します。日によって所定労働時間が違うときは、1週間の1日平均の時間で割ります(労働基準法施行規則第十九条第1項第2号)。時給制なら、時給がそのまま時間単価です(同項第1号)。
日給制では、1日の所定労働時間を8時間より長く決めていることがあります。法律の時間を超える部分の定めは労働基準法に反して効力がないので、8時間を超えて働いた時間は、原則として残業代の対象になります。ただ、こうした契約で、日給を何時間で割って時間単価を出すのかについては、裁判例の判断が分かれています。
手元で確かめておきたいこと
残業代が払われているかを確かめる手順
- 雇用契約書・労働条件通知書・給与規程で、残業代に当たる部分が額や時間数で分けて書かれているか
- 給与明細に、時間外手当などの欄があり、時間数や額が書かれているか
- 年俸制なら、賞与の月の上乗せが年俸の総額に含まれる確定額か、成績で変わる賞与か
- 歩合給なら、歩合給の計算式の中で残業手当の額が差し引かれていないか
- 実際に働いた時間の記録(手帳、業務メールの控え、運行の記録など)が残っているか
時間単価が分かったら、それに割増率と残業した時間数を掛け合わせれば、おおよその残業代が出ます。割増率の種類や計算の進め方は「残業代はどう計算するのか」の記事で扱っています。
要点の整理
この記事で確かめたこと
- 年俸制・歩合給・日給でも、原則として1日8時間・1週40時間を超えれば残業代の対象になる
- 年俸や歩合に残業代を含めるという約束は、残業代の部分を見分けられなければ通らない
- 年俸制の時間単価は、確定した年俸の総額を12で割った額を基に出す
- 歩合給は総労働時間で割って時間単価を出し、割増分(月60時間以内の時間外なら0.25・超えた分は0.5)を払う
- 日給は1日の所定労働時間で割って時間単価を出す
よくある質問
年俸制だから残業代は出ないと言われました。本当ですか。
給料を年俸で決めているというだけで、残業代が出なくなることはありません。年俸制は賃金の額を1年単位で決める仕組みにすぎず、原則として1日8時間・1週40時間を超えて働けば、割増賃金の対象になります。管理監督者に当たるなどの別の事情があるかどうかは、改めて確かめる必要があります。
契約書に「年俸には残業代を含む」と書いてあります。それでも請求できますか。
請求できる場合があります。年俸のうち通常の賃金と残業代の額を分けて確かめられなければ、割増賃金を支払ったとはいえません。区別できる場合も、法律どおりに計算した額に足りなければ差額を請求できます。
歩合給(完全歩合)の場合、残業代はどう計算しますか。
歩合給の総額を、その期間に実際に働いた総時間で割って時間単価を出します。歩合給の部分は、残業時間の通常の賃金が既に払われたと扱われます。月60時間以内の時間外労働では、この単価に0.25と残業時間数を掛けます。60時間を超えた分は0.5を掛けます。固定給もある場合は、その部分を別に計算して合計します。
日給制の場合、残業代の時間単価はどう出しますか。
日給を1日の所定労働時間で割って出します。日によって所定労働時間が違うときは、1週間の1日平均の時間で割ります。1日8時間を超えて働いた時間は、原則として残業代の対象になります。
年俸制で夏と冬に多めに払われる分は、残業代の計算に入りますか。
年俸の総額があらかじめ決まっていて、その一部を夏と冬に回しているだけなら、計算に入ります。この場合は、年俸の総額を12で割った額を月の額として時間単価を出します。成績によって額が変わる賞与は、計算から外されます。

弁護士に相談するとき用意しておくもの
弁護士に相談するときは、雇用契約書や労働条件通知書、給与規程や就業規則のうち手元にあるもの、給与明細(年俸制なら賞与の明細も)、歩合給なら計算の基になる売上の記録、働いた時間について残っている記録を用意してください。残業代の部分がどう書かれているかが分かれば、払われているといえるかの見通しを立てやすくなります。
本稿は、年俸制・歩合給・日給の場合の残業代について、一般的な考え方を整理したものです。残業代が払われているといえるかは、契約書や給与規程の書き方と実際の払われ方によって異なります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

