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額の目安、支払が始まる時期、払われないときの手段を解説します
別居していても、夫婦は生活費を分担する義務を負います。相手が分担しないときは、婚姻費用として生活費の分担を求められます。
この記事の結論
- 婚姻費用は、夫婦と未成熟の子の生活に必要な費用です。民法第760条により、別居中も夫婦が分担します。
- 額の目安は、裁判所が公表する算定表で、夫婦双方の年収と子の人数・年齢から求めます。
- 請求より前の分は認められにくいため、内容証明郵便などで請求した日を残します。
- 話合いがまとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立て、不成立なら審判で額が決まります。
婚姻費用とは何か
婚姻費用とは、夫婦が共同生活を送るのに必要な一切の費用です。民法第760条は、夫婦が資産や収入などを考えてこれを分担すると定めています。
夫婦の衣食住の費用のほか、子の監護や教育の費用、医療費なども含まれます。
夫婦には、自分と同じ程度の生活を相手にも保たせる義務があるとされています。最低限の生活を支えれば足りる、というものではありません。
この義務は、離婚などで婚姻関係が終わるまで続きます。別居中の夫婦も、家庭裁判所に分担を定める調停を申し立てられます。
額の目安は算定表で出す
裁判所は、標準的な婚姻費用を簡単に求めるための算定表を公表しています。令和元年12月23日に公表された改定版が使われています。
表は、子がいない夫婦のものと、子の人数(1〜3人)と年齢(14歳以下か15歳以上か)に応じたものに分かれています。
縦軸で支払う側の年収、横軸で受け取る側の年収を探し、交わる欄が標準的な月額です。欄の額には1万〜2万円の幅があります。
| 給与所得者 | 自営業者 | |
|---|---|---|
| 年収として使う数字 | 源泉徴収票の「支払金額」(控除前の額) | 確定申告書の「課税される所得金額」 |
| 加える額 | 確定申告していない別の収入 | 基礎控除や青色申告控除など、実際には支出していない控除の額 |
児童手当や児童扶養手当は子のための給付なので、受け取る側の年収に含めません。
裁判所の説明書にある計算例
子のいない夫婦で、受け取る側の年収が約243万円、支払う側の年収が約739万円(いずれも給与)の例です。
夫婦のみの表で250万円と750万円の欄を見ると、標準的な額は月8万〜10万円の枠内になります。
最終的な額は、個別の事情も考えて決まります。ただし、通常の範囲の事情は表の幅で考慮済みとされ、幅を超えるのは特別な事情がある場合に限られます。
いつからの分を払ってもらえるか
家庭裁判所の実務では、請求した時以降の分を認める例が多数です。別居した時までさかのぼるとは限りません。
ここでいう請求には、調停の申立てだけでなく、その前に相手へ求めたことも含まれます。内容証明郵便で分担を求めた時を始まりとした審判例もあります(東京家庭裁判所平成27年8月13日審判・判例時報2315号96頁)。
請求より前の分がさかのぼって認められるのは、相手が生活に困る状態を知りながら請求を妨げた場合などです。認められる場合も、計算上の額から減らされるのが一般的とされています。

請求は口頭ではなく、内容証明郵便など日付の残る方法で送ると、いつ求めたかを後で示せます。配達証明を付ければ、相手に配達された事実も証明されます。
請求の手順 ― 話合いから調停・審判へ
請求の進め方
- 相手と話し合い、月額と支払方法を決める
- 応じないときは、内容証明郵便などで請求の意思を伝える
- 家庭裁判所に婚姻費用の分担請求調停を申し立てる
- 調停が成立しなければ審判に移り、裁判官が額を決める
調停は、原則として相手の住所地を受け持つ家庭裁判所に申し立てます。夫婦で合意すれば、別の家庭裁判所にすることもできます。費用は収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手です。
申立書とその写しのほか、夫婦の戸籍謄本、申立人の源泉徴収票や確定申告書などの写し、事情説明書を出します。
話合いで決めて約束どおり払われるなら、裁判所の手続を使わなくても構いません。払われないときに履行勧告や強制執行を使えるようにしたい場合は、調停などの手続を検討します。
決まった額が払われないとき
調停や審判で決まった額が払われないときは、家庭裁判所に履行勧告を申し出られます。口頭でも申し出られ、手数料はかかりません。
家庭裁判所は支払の状況を調べ、相手に支払を勧告します。勧告に応じないときは、履行命令を申し立てられます。裁判所の履行命令に正当な理由なく従わない相手は、10万円以下の過料に処せられます(家事事件手続法第290条第5項)。
支払を定めた調停調書や確定した審判があれば、相手の給料などを差し押さえる強制執行を申し立てられます。婚姻費用では、給料の手取額の2分の1まで差し押さえられます(民事執行法第152条第3項)。手取額が月66万円を超えるときは、33万円を残した額が上限です。
一部でも支払が滞れば、期限がまだ来ていない将来の分についても差押えを申し立てられます(民事執行法第151条の2)。対象は、それぞれの支払日より後に支払われる給料などです。
子の監護の費用を含む婚姻費用について、毎月の額と支払日を取り決めた場合、月8万円に子の数を掛けた額までは先取特権があります(民法第308条の2)。この部分は、当事者同士の合意書面しかなくても差押えを申し立てられます。対象は令和8年4月1日以降に生じた分です。
不倫をした側が請求するとき
別居の原因が主に請求する側の不貞にある場合、自分の生活費の分は認められず、子の生活費の分に限られるとした裁判例があります。
東京家庭裁判所平成20年7月31日審判(家庭裁判月報61巻2号257頁)は、別居の主な原因が妻の不貞であるとして、妻自身の生活費の分の請求を権利の濫用としました。認めたのは、同居する子の監護費用の分だけです。
離婚したら婚姻費用はどうなるか
婚姻費用を分担する義務は、離婚が成立すると原則としてなくなります。離婚後の子の生活費は、養育費として別に求めます。
婚姻費用の分担を家庭裁判所に申し立てた後に離婚しても、離婚までの分の請求権は消えません(最高裁判所令和2年1月23日第一小法廷決定・民集74巻1号1頁)。
請求しないまま離婚した場合、払われなかった過去の分は、財産分与の中で清算を求めることになります。分けるべき財産がなければ、この方法では清算できません。
よくある質問
子どもがいない夫婦でも婚姻費用はもらえますか。
子がいないことで請求できなくなるわけではありません。算定表には夫婦のみの表があり、双方の年収から目安を出します。
自分から離婚を求めていても婚姻費用を請求できますか。
できます。離婚が成立するまでは分担の義務があり、離婚を求めていること自体は分担の義務に影響しないとされています。
婚姻費用はいつまで払ってもらえますか。
離婚が成立するか、別居をやめて同居に戻るまでです。調停や審判では、この時点を支払の終わりとして定めるのが通常です。

請求の前に用意するもの
夫婦それぞれの源泉徴収票又は確定申告書の写しと、生活費を求めた日が分かる書面を用意してください。
本稿は一般的な制度の説明です。個別の事案については資料に基づく検討が必要です。

