不貞を理由に離婚するときの配偶者への慰謝料請求と証拠
不貞が分かり、離婚を考えているとき、慰謝料の額や証拠が問題になります。配偶者に離婚慰謝料を求める場合と、不貞の相手方に不貞行為の慰謝料を求める場合では、請求の内容や時効の起点が異なります。
この記事では、配偶者に対する離婚慰謝料を中心に、法律出版社の実務書で示された金額の目安と、不貞行為の証拠を集める際の注意点を説明します。
この記事の結論
- 実務書では、不貞行為が離婚の主な原因である場合の離婚慰謝料の目安として、150万円から200万円が示されています。認められる額は個別の事情によります。
- 慰謝料が認められるには、相手方の有責行為、その行為と婚姻関係が壊れたこととのつながり、損害の額の三つを示す必要があります。
- 法律上の不貞行為は配偶者以外の人との性交又はそれに類する行為を指し、二人での食事や頻繁な連絡だけでは不貞行為の証明になりません。
- 録音機器を忍ばせる、盗聴するといった違法な集め方をした証拠は使えないことがあり、こちらが別に訴えられるおそれもあります。
「離婚の慰謝料」には二種類あります
離婚に伴う慰謝料は、二つに分けて考えられています。一つは、離婚の原因になった不貞行為や暴力といった個々の行為そのものに対する慰謝料です。もう一つは、相手方の責めに帰すべき行為によって離婚せざるを得なくなったことに対する慰謝料です。
この二つのうち、後の方が前の方を包み込む関係にあり、認められる額も後の方が高くなります。そこで、実際の請求はほとんどが後の形で立てられます。この記事でも、以下ではこの後の方を離婚慰謝料と呼びます。
ここで述べる離婚慰謝料は、配偶者に対する請求です。不貞の相手方に対しては、離婚したこと自体についての慰謝料を、特段の事情がない限り請求できないとされています(最高裁判所平成31年2月19日第三小法廷判決・民集73巻2号187頁)。不貞の相手方には、不貞行為そのものについての慰謝料を求めることになります。
また、請求できる期間には限りがあり、誰に請求するかで数え始める時が違います。配偶者に対する離婚慰謝料は、原則として離婚が成立した時から3年で時効にかかります(最高裁判所昭和46年7月23日第二小法廷判決・民集25巻5号805頁)。離婚の損害は、離婚が成立して初めて分かるものだからです。
これに対し、不貞の相手方に対する慰謝料は、不貞の関係とその相手を知った時から3年で時効にかかります(民法第七百二十四条第1号、最高裁判所平成6年1月20日第一小法廷判決・裁判集民事171号1頁)。不貞を知った日を書き留めておいてください。
認められるために示すこと ― 三つです
この請求の根っこにあるのは、不法行為による損害賠償の考え方です(民法第七百九条)。ですから、離婚に至った点について相手方に不法行為が成り立つと言えなければなりません。かみ砕いていえば、相手方の責めに帰すべき行為のせいで離婚するほかなくなり、そのために精神的な苦痛を負った、という筋道を示すことになります。
主張と立証が必要な三つ
- 相手方の責めに帰すべき行為があったこと(有責行為)
- その行為と、婚姻関係が壊れたこととの間につながりがあること
- 損害の額
行為があったことを示すだけでは足りず、その行為が原因で婚姻関係が壊れたのだ、という筋道まで示すことになります。
「有責行為」に当たるのはどういう行為か
有責行為とは、類型として婚姻関係を壊すような、相手方の責めに帰すべき行為をいいます。具体例として挙げられているのは、次のようなものです。
有責行為の例
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 暴力
- 重大な侮辱
- 働かないこと
- 浪費
- 犯罪行為
実務でよく争われるのは、不貞行為と暴力です。
モラルハラスメントについて
モラルハラスメントや精神的虐待という呼び方だけで、当然に有責行為になるわけではありません。
有責行為として扱われるには、暴力に近い言動であるとか、重大な侮辱に当たるといえるほど、度合いがひどく、やり方も悪質でなければならないと考えられています。
配偶者への離婚慰謝料の金額の目安
『離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点』では、次の金額を目安として挙げています。現在の全ての裁判例に共通する基準ではありません。
実務書に示された金額の目安
- 不貞行為が破綻の主たる引き金になっている場合…150万円から200万円
- 暴力が破綻の主たる引き金になっている場合…100万円(治療が必要なけがを負わせるなど、度合いがひどい場合には、200万円から300万円まで認められることもあります)
- 暴力に近い言動や重大な侮辱が、破綻の主たる引き金になっている場合…100万円
- そのほかの類型…100万円を基本線として検討することになります
額は、有責行為の具体的な内容のほか、双方の年齢、婚姻期間、未成熟のお子さんの有無と年齢、双方の経済状況などを総合して決められます。
昔の出来事は額に響きにくい
有責行為と婚姻関係が壊れたこととの間につながりが必要ですから、あまり昔の事実を持ち出しても、そのつながりは認めにくく、額の算定にも影響しないことが多いとされています。
ですから、行為を主張していくときは、婚姻関係が壊れた時期にできるだけ近い時期の事実を取り上げることが大事になります。
そもそも「不貞行為」とは何を指すのか
法律上の不貞行為は、結婚している人が、自分の意思で、配偶者ではない相手と性的な関係を持つことを指します。
ここでいう性的な関係は、性交又はそれに類する行為を指します。つまり、そこまでに至らない交際は含まれません。二人で食事に行った、手をつないでいた、頻繁に連絡を取り合っていた、というだけでは、不貞行為を証明したことにならないわけです。
なお「自分の意思で」という部分が置かれているのは、性犯罪の被害に遭った場合をここから外すためです。

どうやって示すのか
性交渉は、通常、密室で行われますから、その場面そのものを写した写真があることはまれです。実務では、性交渉があったことを強くうかがわせる事実を積み上げていきます。
証拠になり得るもの
- 二人でラブホテルに入る場面と、そこから出てくる場面の写真…施設の性格から、性交渉を強くうかがわせます
- 配偶者が持っている携帯電話やパソコンなどに残っている不貞相手の裸体写真…性交渉の前後に撮られた可能性が高いことから、強い手掛かりになります
- 二人で写った旅行の写真…場所が特定できるものが写り込んでいること、宿泊施設の室内で撮られていることが大事です
- 二人で自宅に出入りする場面の写真…頻繁な出入り、長時間の滞在、宿泊を裏付けられれば強くなります
- 配偶者が不貞を認めた会話の録音
写真で決定的に大事な2点
一つ目は、二人の顔がはっきり写っていることです。写真がぼやけていると、写っているのが誰なのかを争われ、その点を補うのが難しくなることがあります。
二つ目は、入るところと出てくるところ、両方の場面を押さえておくことです。滞在時間を確かめられるようにします。
二人で写ったいわゆるプリントシール写真は、親密であることをうかがわせますが、それだけで性交渉まで推し量ることはできません。もっとも、相手方が出張などと偽って外泊した日に撮られたものであれば、外泊の事実と合わせて手掛かりになり得ます。
なお、デジタルカメラや携帯電話で撮った写真については、後から手を加えたのではないかと言われることがあります。元のデータには一切触らず、撮った状態のまま別に取っておいてください。
裸体写真を裁判に提出する際は、人格権を侵害しないよう局部を隠すなどの配慮が必要です。元のデータは別に保存し、提出する写しを用意します。
集めてはいけない証拠があります
小型の録音機器を配偶者のかばんや車内に忍ばせる、電話を盗聴する、といった集め方があります。しかし、その手段によっては、集め方が刑罰法規に触れる、あるいは公序良俗に反する強い違法性があると評価され、違法に集めたものとして、証拠として扱われないことがあります。
さらに、その行為そのものが不法行為に当たるとして、こちらが別に訴えられるおそれもあります。
証拠を集める前に確かめること
- その方法が、法に触れないか
- 相手方の私生活にどこまで踏み込むことになるか
- 集めたものを裁判で出せる形になっているか
- 写真や録音は、いつ、どこで、誰を対象に記録したものかが説明できるか
要点
配偶者に対する離婚慰謝料では、有責行為と離婚とのつながりが必要です。金額の目安だけで判断せず、事実の時期と証拠を整理し、時効と証拠収集の方法を確かめてください。
よくある質問
不貞の慰謝料はいくらぐらいですか。
実務書では、不貞行為が主な破綻原因である場合の配偶者に対する離婚慰謝料の目安として、150万円から200万円が示されています。双方の年齢、婚姻期間、お子さんの有無、経済状況などによって変わります。
メールのやり取りはありますが、写真はありません。不貞になりますか。
不貞行為といえるには、性交又はそれに類する行為があったことが必要で、そこまでに至らない交際は含まれません。ただし、やり取りの中身によっては、性交渉があったことをうかがわせる手掛かりになることがあります。まず、残っているものを消さずに全部取っておいてください。
何年も前の浮気を持ち出したいのですが。
有責行為と婚姻関係が壊れたこととのつながりが必要ですので、あまり昔の事実だとそのつながりは認めにくく、額にも響かないことが多いとされています。婚姻関係が壊れた時期に近い事実と、その関係を整理してください。
配偶者の携帯を勝手に見て撮った写真は使えますか。
写真そのものが手掛かりになることはあります。ただし、集め方によっては、違法に集めた証拠として価値を認められなかったり、その行為自体が不法行為に当たるとして別に訴えられるおそれもあります。撮る前、あるいは使う前にご相談ください。
モラルハラスメントを理由に慰謝料を求められますか。
そうした言動があれば当然に有責行為になる、というものではありません。暴力に近い言動であるとか、重大な侮辱に当たるといえるほど、度合いがひどく、やり方も悪質でなければならないと考えられています。言われた内容と回数を、日付とともに書き出すところから始めます。

不貞が分かって離婚を考えている方へ
弁護士に相談するときは、気付いた経緯を時間の順に書き出したもの、手元にある写真や記録、婚姻期間、お子さんの年齢、双方の収入が分かる資料を用意してください。これから証拠を集める場合は、予定している方法も伝えてください。
本稿は、離婚に伴う慰謝料の一般的な考え方を説明したものです。金額は実務書が示す目安であり、個別の事情によって変わります。請求の可否や証拠の扱いは資料に基づく検討が必要です。

