書面に書かれた額がそのまま認められるとは限りません。事実と当時の夫婦の様子を確かめてください。訴状が届いたら必ず対応してください
不貞(いわゆる不倫)の慰謝料を求める書面が届いても、書かれた額がそのまま認められるとは限りません。裁判になれば、婚姻の期間や交際の長さなどを踏まえて、裁判所が額を決めます。
ただし、裁判所から訴状が届いたのに何もしないでいると、請求どおりの判決が出ることがあります。この記事では、請求を受けた人が書面を受け取った後に確かめることを、順に整理します。なお、以下では、請求してきた人(不貞をされた配偶者)を「請求者」、あなたと関係を持った既婚者を「交際相手」と呼びます。
この記事の結論
- 書面に書かれた慰謝料の額は請求者が求める額で、裁判では事情に応じて決まります。500万円の請求に150万円や80万円とした例があります。一方、300万円の請求が全額認められた例もあります。
- 慰謝料の請求では、肉体関係を持った当時の夫婦関係に加え、破綻していると信じた理由も問題になります。相当の理由があれば過失が否定されることがあります。
- 交際相手の側が既に慰謝料を支払っているときは、その支払が考慮され、請求を受けた人の支払うべき額が減ることがあります。
- 訴状が届いたのに答弁書(訴状に対する言い分を書いた書面)を出さず、裁判の日にも行かないと、請求者の主張を認めたものとみなされ、判決が出ることがあります。
まず届いた書面の種類を確かめます
最初に見るのは、その書面が請求者(又はその代理人の弁護士)からの通知なのか、裁判所から届いた訴状なのかです。どちらなのかで、急ぐ度合いが違います。
内容証明郵便は、いつ、誰が誰に、どのような文面を送ったかを郵便局が証明する仕組みです。郵便局が証明するのは、その内容の文書を差し出したことです。書かれていることが本当かどうかを証明するものではありません。
請求者からの通知は、請求者の言い分と要求を伝える書面で、裁判所の判断ではありません。これに対し、訴状は裁判所を通じて届きます。裁判所が決めた裁判の日(口頭弁論の期日)に呼び出されるので、その日に向けて対応しなければなりません。
| どういう書面か | 受け取った人がすること | |
|---|---|---|
| 内容証明郵便・通知書 | 請求者やその代理人が、言い分と支払の要求を伝える書面 | 書かれた事実と額を確かめ、どう答えるかを考える |
| 訴状 | 裁判所を通じて届き、裁判の日への呼出しが付く | 裁判の日を確かめ、答弁書を出すなどして必ず対応する |
請求の前提となる四つの点を確かめます
書面を読んだら、次の四つが本当に当てはまるかを、自分の記憶と手元の記録で確かめます。どれかが欠ければ、請求そのものが成り立たないことがあります。
請求が成り立つかを分ける四つの点
- 交際相手と肉体関係を持ったか…判例は、肉体関係を持った人に慰謝料を支払う義務を認めています
- 交際相手が結婚していると知っていたか、注意すれば知ることができたか…知らず、知らないことに落ち度もなければ責任は生じません
- 肉体関係を持った時点で、交際相手の夫婦関係が既に破綻していなかったか…破綻していれば、特段の事情がない限り責任を負わないとされています。ただし、破綻が認められるのは難しいとされています
- 時効にかかっていないか…請求者が損害と加害者を知った時から3年、又は不法行為(ここでは不貞の行為)の時から20年がたつと、時効で請求できなくなります(民法第七百二十四条)
実際の破綻とは別に、夫婦関係が破綻していると信じた理由も問題になります。最高裁判所令和8年6月5日第二小法廷判決(令和7年(受)第933号)は、この点も検討する必要があるとしました。離婚したと思い込んだ理由が十分でなくても、それだけで不注意と判断することはできないとしました。破綻していると信じたことに相当の理由があれば、過失が否定されることがあります。
額は事情によって大きく変わります
認められる額は、事案ごとの事情で大きく違います。東京地方裁判所が平成27年10月から1年間に言い渡した判決を調べた分析があります。請求が認められた95件のうち最も多いのが150万円から199万円、次が100万円から149万円で、おおむね150万円が真ん中に当たるとされています。
書面にはこれより大きな額が書かれていることがあります。裁判例を見ても、500万円の請求で150万円、300万円の請求で150万円、500万円の請求で80万円が認められたものがあります。
反対に、請求どおりの額が認められた例もあります(次の節で取り上げる最高裁判所の事件です)。請求額より低くなるとは限らないことも、知っておいてください。
| 裁判例での扱いの傾向 | |
|---|---|
| 不貞が始まるまでの婚姻期間 | 平穏な婚姻が長く続いていたほど、額を上げる方向に考慮されやすい |
| 交際の期間と回数 | 期間が長いほど高くなる傾向がある。回数が3回にとどまり、その後は続いていないことを額を下げる事情とした例がある |
| どちらが関係を主導したか | 交際相手の側から持ち掛け、請求を受けた人は受け身だったことを、額を下げる事情とした例がある |
| 夫婦のその後 | 離婚や別居に至った場合は、婚姻が続いている場合より額が上がる傾向がある |
| 子の有無 | 未成熟の子がいる夫婦が破綻した場合は、額を上げる方向に考慮されやすい |
このほか、夫婦の生活の状況、請求者の側の落ち度、裁判での態度なども考慮されます。また、不貞相手の責任は不貞をした配偶者より副次的なものだとして、配偶者より低い額にとどめた裁判例もあります。
関係が1回だけだったから軽い、とも言い切れません。裁判所がはっきり認めた関係は1回だけでも、600万円の請求に対し180万円が認められた例があります。約19年続いた夫婦の関係を壊すきっかけになったことなどが重く見られた事案です。
交際相手が既に払っていればその分が考慮されます
不貞は、交際相手と請求を受けた人の二人で行った不法行為として扱われ、二人は連帯して責任を負います(民法第七百十九条第1項)。そのため、どちらかが支払って損害が埋まれば、その範囲で、もう一人の支払うべき額も減ります。
支払われた額が損害の全部を埋めるほどでなくても、額を決める事情として考慮されることがあります。例えば、夫が離婚の際に元の妻へ慰謝料150万円を支払っていた事案があります。夫の交際相手が300万円を請求されたところ、夫が先に支払ったことや、夫の方から積極的に誘って交際が始まったことが、額を下げる事情とされました。認められたのは150万円でした。
ただし、減るのは慰謝料が実際に支払われた場合です。請求者が交際相手の支払を免除しただけでは、原則として、請求を受けた人の額は減りません。
最高裁判所平成6年11月24日第一小法廷判決・裁判集民事173号431頁の事件がその例です。夫婦は離婚調停で、調停で定めたもののほかは互いに一切請求しないと定めていました。平成元年に、妻が夫の交際相手の女性に300万円を求めて訴えました。
最高裁判所は、調停の定めは夫の分を免除しただけで、女性には及ばないと判断しました。その結果、女性に300万円の全額の支払を命じた第一審の判決が維持されました。
なお、支払った側は、もう一人の側にその負担分を求められる場合があります(求償)。この仕組みは別の記事で取り上げます。

訴状は放っておかないでください
裁判所から訴状が届いたら、必ず対応してください。答弁書は、訴状に対する自分の言い分を書いた書面です。答弁書などを出さないまま最初の裁判の日に出頭しないと、請求者の主張する事実を認めたものとみなされます(民事訴訟法第百五十九条第3項)。その結果、その日のうちに請求どおりの判決が言い渡されることがあります。いわゆる欠席判決です。
一方で、答弁書を出しておけば、最初の裁判の日に行けなかったとしても、裁判所が、書いた内容を述べたものとして扱ってくれることがあります(民事訴訟法第百五十八条)。争いたい点があるなら、まず答弁書で争うことを示すのが出発点です。
話合いで解決するときに合意書で確かめること
示談で解決するときは、金額だけでなく、合意書の条項を確かめてください。後になって別の請求が来ないように、また守れない約束を背負わないようにするためです。
合意書で目を通しておきたい条項
- 清算条項…この件について、合意書に定めたもののほかには、お互いに払うべきものも受け取るべきものもないことを確かめる条項です
- 接触禁止と違約金…交際相手と私的に接触しない約束と、破ったときに払う違約金です。違約金が重すぎると、社会の常識に照らして許されない約束(公序良俗に反するもの)とされ、相当な額を超える部分が無効とされることがあります
- 求償権の放棄…支払った後に、交際相手の側へ負担を求めない約束です。その代わりに額を低くして示談する、という使い方があります
違約金の額について、一部の実務書には、メールやLINEでの連絡1回につき数万円から10万円程度が合理的とされやすい、との記載があります。同じ本は、「LINE1通で100万円」のような定めは無効とされる可能性が高いとしています。署名する前に、自分が守れる内容か、額が釣り合っているかを確かめてください。
要点の整理
この記事で確かめたこと
- 届いたのが通知書か訴状かをまず確かめる。訴状なら裁判の日に向けて必ず対応する
- 肉体関係の有無、既婚と知っていたか、当時の夫婦関係、時効の四つを自分の記録で確かめる
- 額は請求額どおりになるとは限らない。婚姻期間、交際の期間や回数、主導の別、離婚の有無、子の有無などで上下する。請求どおり認められた例もある
- 交際相手の側が既に払った分は考慮される
- 示談では、清算条項・接触禁止の違約金・求償権の放棄の条項を確かめる
よくある質問
不貞の慰謝料を請求されたら、言われた額を払わないといけませんか。
書面の額がそのまま認められるとは限りません。裁判では、婚姻の期間、交際の期間や回数、離婚に至ったかなどの事情を踏まえて額が決まります。請求額より大幅に低い額が認められた裁判例があります。一方で、請求どおりの額が認められた例もあります。
内容証明郵便が届きました。無視するとどうなりますか。
内容証明郵便は、その内容の文書を差し出したことを郵便局が証明するもので、それだけで支払う義務が決まるわけではありません。ただ、話合いが進まなければ、請求者が裁判を起こすことも考えられます。届いた書面は残し、事実関係を確かめてから答え方を考えてください。
訴状が届いたのに放置したらどうなりますか。
答弁書を出さずに最初の裁判の日にも出頭しないと、請求者の主張する事実を認めたものとみなされます。その結果、請求どおりの判決が出ることがあります。訴状が届いたら、裁判の日と答弁書の期限を確かめ、必ず対応してください。
関係を持ったのは一度だけです。それでも慰謝料を払いますか。
回数が少ないことは、額を下げる事情として考慮されることがあります。ただし、裁判所がはっきり認めた関係が1回だけでも、180万円が認められた例があります。一度だけなら払わなくてよいとは言えません。
「夫婦はもう終わっている」と聞いていました。それでも払いますか。
肉体関係を持った時点で夫婦関係が既に破綻していれば、特段の事情がない限り責任を負いません。実際には破綻していなくても、破綻していると信じたことに相当の理由があれば、過失が否定されることがあります。聞いた言葉だけでなく、その説明を裏付ける資料も確かめてください。ただし、破綻が認められることは多くありません。

不貞(不倫)の慰謝料を請求された方へ
弁護士に相談するときは、届いた書面と封筒、交際が始まった時期と終わった時期、交際相手が結婚していると知った時期とその経緯を書いたメモ、手元にあるやり取りの記録を用意してください。訴状が届いているときは、裁判の日と答弁書の提出期限も確かめておいてください。
本稿は、不貞(不倫)の慰謝料を請求された場合の一般的な考え方を整理したものです。挙げた金額は裁判例の一例や傾向であり、実際の額は、婚姻の期間、交際の経緯、夫婦のその後などの事情によって変わります。個別の事案については資料に基づく検討が必要です。

