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取決めの書面ごとに使える手続と、相手の勤務先が分からないときの調べ方
養育費が払われないときは、相手の給料や預金を差し押さえて回収できます。
どの手続を使えるかは、養育費を何で決めたかによります。勤務先が分からなくても、裁判所を通じて調べる手続があります。
この記事の結論
- 家庭裁判所で決めた養育費なら、まず履行勧告を申し出る方法があります。
- 調停調書・審判書・強制執行を受け入れる文言のある公正証書があれば、地方裁判所に給料の差押えを申し立てられます。給料は、原則として手取額の2分の1まで差し押さえられます。
- 相手の勤務先が分からないときは、財産開示や、市町村などから勤務先の情報を得る手続を使えます。
使える手続は、養育費を決めた書面で決まる
最初に、養育費をどの書面で決めたかを確かめます。家庭裁判所での取決めか、公正証書か、父母だけの合意書かで、使える手続が違います。
| 家庭裁判所の履行勧告 | 給料などの差押え | |
|---|---|---|
| 家庭裁判所の調停調書・審判書 | 申し出られる | 取り決めた全額について申し立てられる |
| 強制執行を受け入れる文言のある公正証書 | 申し出られない | 取り決めた全額について申し立てられる |
| 父母だけで作った合意書 | 申し出られない | 取り決めた額のうち子1人当たり月8万円まで(令和8年4月1日以降の分) |
合意書による差押えは、令和8年4月から使える仕組みです。民法第306条第3号と第308条の2が、子の監護の費用に先取特権という優先権を認めています。
子1人当たり月8万円を超える部分を差し押さえるには、調停調書や公正証書などが必要です。
履行勧告をせずに、いきなり差押えを申し立てることもできます。
家庭裁判所の履行勧告と履行命令
調停や審判で決めた養育費が払われないときは、取決めをした家庭裁判所に履行勧告を申し出られます(家事事件手続法第289条)。
申出を受けた家庭裁判所は、支払の状況を調べたうえで、相手に支払うよう勧告します。申出は書面のほか、口頭や電話でもでき、費用はかかりません。
ただし、相手が勧告に従わなくても、支払を強制することはできません。
期限を定めて支払を命じる履行命令を申し立てる方法もあります(同法第290条)。命令を守らない相手には、正当な理由がない限り、家庭裁判所が10万円以下の過料を科します。
公正証書や父母の合意書で決めた養育費は、どちらの手続も使えません。
給料の差押えは、原則として手取額の2分の1まで
差押えの申立先は、原則として、相手が住む地域の地方裁判所です。相手の給料を差し押さえると、勤務先から直接支払を受けられます。
給料のうち差し押さえられるのは、税金などを引いた手取額の2分の1までです。手取額が月66万円を超えるときは、33万円を残した残りの全部を差し押さえられます。
借金の取立てなど一般の差押えでは、原則として手取額の4分の1までです。養育費は、その範囲が広く認められています(民事執行法第152条第3項)。
一度でも支払が滞れば、まだ支払日が来ていない将来の分も、併せて給料の差押えを申し立てられます(同法第151条の2)。差押えが続く間、毎月の養育費が給料から支払われます。
差押命令が相手に届いて1週間が過ぎると、勤務先から自分で支払を受けられます。給料のほか、預貯金を差し押さえることもできます。
調停調書や公正証書で申し立てるときに主に用意するもの
- 調停調書・審判書・公正証書の正本(審判書は確定証明書、公正証書は執行文も付ける)
- その書面が相手に届けられたことを示す送達証明書(家庭裁判所や公証役場で取得)
- 勤務先が会社などの法人なら、その法人の代表者事項証明書(発行から3か月以内)
- 住所や氏名が書面と変わっているときは、つながりを示す住民票や戸籍謄本など
- 手数料(原則として4000円)と郵便料
勤務先や財産が分からないとき
差押えを申し立てるには、勤務先や銀行など、差し押さえる財産を特定する必要があります。分からないときは、裁判所を通じて調べる手続が二つあります。
| 財産開示 | 情報取得(第三者から) | |
|---|---|---|
| どう調べるか | 相手を地方裁判所に呼び出し、財産を述べさせる | 市町村・日本年金機構、銀行、登記所などから情報を出させる |
| 分かる財産 | 相手が述べた財産 | 勤務先、預貯金口座、不動産など |
| 申立ての手数料 | 2000円 | 1件1000円(預貯金は銀行1行ごとに2000円の予納金も要る) |
財産開示の申立てには、調停調書などのほか、次のどちらかが要ります(民事執行法第197条)。一つは、申立て前6か月以内に終わった強制執行などで全額を回収できなかったことです。もう一つは、分かっている財産だけでは全額を回収できないことです。相手が3年以内に財産開示で陳述していると、原則として申し立てられません。
正当な理由なく期日に来ない相手や、財産について偽りを述べた相手は、刑罰の対象です(同法第213条)。刑は6か月以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金です。
勤務先の情報は、養育費などを請求する人に限って、市町村や日本年金機構などから得られます(同法第206条)。この手続は、財産開示の期日が開かれてから3年以内に限り申し立てられます。

令和8年4月からは、一度の申立てで差押えまで進む
令和8年4月1日から、養育費の回収では、財産の調査と給料の差押えを一度の申立てで行えるようになりました。裁判所の案内では「ワンストップ執行手続」という名前で紹介されています。
養育費に基づいて財産開示を申し立てると、相手が明らかにした給料の差押えも、同時に申し立てたものとみなされます(民事執行法第167条の17)。
相手が財産開示で財産を明らかにしなかったときは、裁判所が相手の住所のある市町村に、勤務先の情報を出すよう命じます。差し押さえる給料を特定できれば、差押命令の手続に進みます。
差押えまでは望まない場合は、申立ての際に反対の意思を示せば、調査だけを行えます。
よくある質問
公正証書を作らずに離婚しました。養育費が未払でも差し押さえられますか。
父母の合意書でも、令和8年4月1日以降の未払分は差押えを申し立てられます。上限は、取り決めた額のうち子1人当たり月8万円です。それより前の分や上限を超える部分には、公正証書や調停調書などが要ります。
履行勧告を無視されたら、どうなりますか。
次の手段として、履行命令を申し立てるか、地方裁判所に給料や預金の差押えを申し立てます。
相手が財産開示の呼出しに来なかったら、どうなりますか。
正当な理由のない欠席は、刑罰の対象です。また、ワンストップ執行手続では、裁判所が市町村に勤務先の情報を出すよう命じます。
未払の養育費に時効はありますか。
あります。毎月の養育費は、原則として、それぞれの支払日から5年で時効にかかります(民法第166条第1項第1号)。調停や確定した審判で支払義務が確定した未払分は、原則として、その成立や確定の時から10年です(同法第169条)。

相談の前に用意するもの
養育費を決めた調停調書・審判書・公正証書又は合意書と、入金が止まった月が分かる通帳などを用意してください。相手の住所や勤務先について分かっていることも書き出しておきます。
本稿は一般的な制度の説明です。個別の事案については資料に基づく検討が必要です。
