物が壊されたときの慰謝料 ― 認められる場合と、認められない場合

高架の下の道路に、車が並んで走っている 交通事故

修理代などでお金の損害が埋め合わされれば、慰謝料は原則として認められません。それでも認められた事案があります。

車をぶつけられた。家に車が突っ込んできた。飼っている犬が事故に巻き込まれた。修理代や治療費のほかに、受けた苦しみに対するお金を払ってほしい。そう思うのは自然なことです。

しかし物の損害については、慰謝料は原則として認められません。修理代などが払われることで、埋め合わせは済んだとみられるためです。ただ、それだけでは収まらないと判断された事案もあります。この記事では、その分かれ目を裁判例で見ていきます。

原則は「修理代が出れば終わり」

物が壊された場合は、通常、修理代などの支払によってお金の損害が埋め合わされると考えられています。ですから、物を壊されたことによる精神的な苦しみに対する慰謝料は、原則として認められません。

この考え方を述べた裁判例があります。大阪地方裁判所平成12年10月12日判決・自保ジャーナル1406号4頁は、物について生じたお金の損害(財産上の損害)が埋め合わされることで回復されるのが通常だから、原則として慰謝料の請求は認められないとしました。そのうえで、ふつうの人であっても、お金の埋め合わせだけでは収まらない程度の苦しみが生じたと認められる場合には、慰謝料の請求も認めることができる、と述べています。

つまり、扉は閉まりきってはいません。問題は、どういう場合に開くのかです。

開くのは、こういう場合

認められるのは、壊されたものに対する特別な愛着が傷つけられたときや、その出来事が心の平穏を著しく害するようなときです。

東京地方裁判所平成元年3月24日判決・交通事故民事裁判例集22巻2号420頁は、この点について次のように述べています。財産上の権利を侵されたときに慰謝料を求められるためには、その物が、一般の人から見ても特別な愛着を持つのが自然なものである場合や、物を壊す行為が被害者に精神的な打撃を与えるような方法で行われた場合など、愛着や心の平穏を強く害する特別の事情が必要である、というのです。

この事案では、外国製の高級車が壊されました。しかし裁判所は、修理の期間中はタクシーで仕事に行かざるを得なかったことは認めながらも、その特別の事情があったとは認められないとして、慰謝料の請求を認めませんでした。

「自分にとっては大切なものだった」では足りません

ここは受け入れにくいところですが、慰謝料が認められるかどうかは、その人だけの特殊な思い入れだけで決まるわけではありません。最後は、世の中の一般の受け止め方に照らして判断されます。高級車であることだけでは、慰謝料を認める特別の事情には当たらないのが通常です。

実際に認められた三つの型

この記事で取り上げる裁判例は、大きく分けて次の三つです。

慰謝料が認められた場面

  • 自宅に車が突っ込んできた事故
  • 車が墓石を壊した事故
  • 飼っているペットが事故で死んだ、あるいは死亡に近い重い傷を負った場合

いずれも、壊されたものが単なる財産とは言い切れないところに共通点があります。順に見ていきます。

自宅に車が突っ込んできたとき

大阪地方裁判所平成元年4月14日判決・交通事故民事裁判例集22巻2号476頁は、店舗と住居を兼ねた建物に車が突入した事故について、一つ間違えば命の危険もあり、家庭の平穏を侵されたことによる損害は修理代の埋め合わせだけでは償いきれないとして、店の経営者に30万円の慰謝料を認めました。

岡山地方裁判所平成8年9月19日判決・交通事故民事裁判例集29巻5号1405頁は、深夜の午前3時半ごろに大型トラックが民家へ突っ込んだ事故について、建物と庭の被害に加えて、50万円の慰謝料を認めています。

神戸地方裁判所平成13年6月22日判決・交通事故民事裁判例集34巻3号772頁の事案では、大型の貨物自動車が家に衝突し、住み慣れた家を離れて約半年ものアパート暮らしを余儀なくされました。裁判所は、家屋の修復費用などとは別に、家の所有者兼居住者と同居の養母に対して慰謝料各30万円を認めています。高齢の方の心労や暮らしの不自由さ、修理のために借金をして事故後の対応に追われたことなどが考慮されました。

何が考慮されているのか

並べてみると、裁判所が見ているのは、命に及びかねなかったこと、長い期間よその場所で暮らさざるを得なかったこと、暮らしや家業に生じた不便といった事情です。事案ごとに、そのどれが重く見られるかは違います。もう一つ、大阪地方裁判所平成15年7月30日判決・交通事故民事裁判例集36巻4号1008頁の事案もあります。車が建物の玄関を壊し、相手方との交渉が難航したため、年末年始を含む1か月以上にわたり玄関にベニヤ板を打ち付けた状態で過ごさざるを得ませんでした。暮らしと家業に不便を受けたとして、20万円が認められています。

ですから、この型で請求するときは、修理代の見積りだけでは足りません。突入した位置と当時そこに誰がいたのか、修理までに何日かかり、その間どのような状態で暮らしたのかを、写真と日付で示すことになります。

墓石を壊されたとき

先に挙げた大阪地方裁判所平成12年10月12日判決・自保ジャーナル1406号4頁の事案です。レンタカーが墓石などに乗り上げ、墓石が倒れて、埋めてあった骨壺が外に出てしまいました。

裁判所は、墓地や墓石について、先祖や故人が眠る場所であり、持ち主が強く敬い慕う気持ちを向ける対象になるのがふつうだ、と述べました。そして、侵された物と場所のそうした特殊さからみて、それによって受けた苦しみに対する慰謝料も賠償の対象になるとして、10万円を認めています。

墓地や墓石という場所の性質に加えて、骨壺が外に出てしまったという被害の内容が重く見られた判断です。

ペットが事故に巻き込まれたとき

今では、犬や猫を家族の一人として暮らしている方が珍しくありません。ほかのものでは代わりにならない、という関係です。そうした動物が事故で命を落としたり、死亡に近いといえるほど重い傷を負って飼い主が苦しんだときは、世の中の受け止め方からみても、ふつうの人が受ける精神的な損害といえます。この場合は、治療費のようなお金の賠償では埋まらない苦しみがあるとみられます。動物との関係、けがの程度、介護の負担などによっては、慰謝料が認められる可能性があります。

ペットについて認められた裁判例

  • 事故で愛犬が死亡した事案 ― 火葬の費用2万5000円と、死亡による慰謝料5万円を認めた(東京高等裁判所平成16年2月26日判決・交通事故民事裁判例集37巻1号1頁)
  • セラピー犬として飼っていたパピヨンが死亡し、シーズーが傷を負った事案 ― 飼い主が精神的な打撃を受けて通院の日数が増えたとして、慰謝料10万円を認めた(大阪地方裁判所平成18年3月22日判決・判例時報1938号97頁)。事故の後の相手方の対応は、増額の理由としては認められませんでした
  • 飼い犬が事故で後ろ足がまひし、自力で排尿・排便ができなくなった事案 ― 飼い主2名にそれぞれ20万円の慰謝料を認めた(名古屋高等裁判所平成20年9月30日判決・交通事故民事裁判例集41巻5号1186頁)

三つ目の事案は、読んでおく価値があります。子のいない飼い主が我が子のように育てていた犬が、後ろ足のまひによって、膀胱を外から押して排尿させる手当てを日々繰り返し必要とする状態になりました。膀胱炎や床ずれ(褥瘡)も生じていました。裁判所は、こうしたけがの内容と程度、介護の内容と程度からみて、飼い主は犬が死亡した場合に近い苦しみを受けているとして、治療費や介護用具代とは別に慰謝料を認めています。

飼い主の側の落ち度に応じて、賠償額が減らされました

同じ事案で、裁判所は飼い主の側にも1割の落ち度があるとしました。車に乗せた動物は車内を動いて運転の妨げになったり、衝突の際に車外へ放り出されたり車内の設備にぶつかる危険が高い。この事案で裁判所は、動物を乗せて運転する人には、犬用のシートベルトなどで体を固定する措置をとる義務がある、と判断しました。

この事案では、犬を体の横に伏せさせ、助手席の家族が様子を見ているだけでした。措置をとっていれば衝撃をより和らげられたと考えられるとして、1割が引かれました。慰謝料20万円について1割を引くと、慰謝料に当たる分は1人当たり18万円です。動物を車に乗せるときは、この点を押さえておいてください。

他方、けがが比較的軽い事案では、認められないことがあります。大阪地方裁判所平成27年8月25日判決・交通事故民事裁判例集48巻4号990頁は、その犬が飼い主にとって代わりのない存在だったことは認めました。しかし、事故で負ったのは体の震えと食欲の落ち込みにとどまるとして、飼い主の苦しみは賠償によって慰められるべきものとまでは言い難いと述べ、慰謝料の請求を認めませんでした。

つまり、ペットの場合、死亡したか、死亡に近いといえる重い状態になったかが重要な事情です。これに加えて、その動物との関係や介護の負担なども考慮されます。

動物病院で診察を受ける猫
けがの内容と、介護にどれだけ手がかかったか。そこが分かれ目になります。

請求するときに、そろえるもの

以上を踏まえると、示すべきものは型ごとに違います。

型ごとにそろえる資料

  • 自宅への突入 ― 突入した位置と当時の在宅者が分かる写真や図。修理が終わるまでの日数と、その間の暮らしの状態
  • 墓石 ― 損壊の状況が分かる写真。骨壺など、中のものにまで及んだかどうか
  • ペット ― 診断書、治療の経過、介護の内容と手間が分かる記録。死亡した場合は火葬などの費用の領収書

共通して大事なのは、「つらかった」ではなく、何がどうなり、その後どういう日々を送ったのかを、日付とともに具体的に示すことです。原則として認められないものですから、慰謝料を請求する側が、写真、診断書、介護の記録などによって、例外に当たる事情を具体的に示す必要があります。

反対に、車を壊された、荷物が壊れた、というだけの事案では、慰謝料は認められないのが通常です。その場合は、修理代、代車の費用、修理しても価値が下がったことによる損害を漏れなく請求することが大切です。

よくある質問

車をぶつけられました。慰謝料は請求できますか。

慰謝料は、原則として認められません。修理代などのお金の損害が払われることで、埋め合わせは済んだとみられるためです。外国製の高級車が壊された事案でも、認めなかった裁判例があります。

長く大切に乗っていた車です。それでも認められませんか。

その人だけの思い入れでは足りず、最後は世の中の一般の受け止め方に照らして判断されます。高級車であることだけでは、慰謝料を認める特別の事情には当たらないのが通常です。

自宅に車が突っ込んできました。

認められた裁判例が複数あります。店舗兼住居への突入で30万円、深夜の民家への突入で50万円、家を離れて約半年のアパート暮らしを余儀なくされた事案で各30万円、玄関にベニヤ板を打ち付けた状態で一か月以上過ごした事案で20万円が認められています。命に及びかねなかったこと、その間の暮らしがどうだったかを示すことになります。

お墓を壊されました。

認められた裁判例があります。墓地や墓石は先祖や故人が眠る場所として、強く敬い慕う気持ちを向ける対象になるものだとして、10万円が認められた事案です。

事故で飼い犬が死にました。慰謝料は認められますか。

認められる可能性があります。事故で死亡した愛犬について、火葬の費用のほかに慰謝料5万円を認めた裁判例があります。その犬との関係だけでなく、死亡やけがの程度など、事案ごとの事情が考慮されます。

飼い犬がけがをしました。死んではいません。

死亡に近いといえるほど重い状態であれば認められる可能性があります。後ろ足がまひして自力で排尿・排便ができなくなった事案では、飼い主2名にそれぞれ20万円が認められました。他方、体の震えと食欲の落ち込みにとどまった事案では認められていません。

犬を車に乗せていて事故に遭った場合、こちらの過失を問われますか。

問われた裁判例があります。動物を乗せて運転する人は、犬用のシートベルトなど体を固定する措置をとる義務を負うという考え方から、1割が引かれた事案があります。


この項目を求めるときは

この項目を求めるときは

原則として認められないものですから、例外に当たる事情は請求する側が示すことになります。弁護士に相談するときは、壊れたものの写真、修理や治療の見積りと領収書、そして事故の後どういう日々を送ったのかを日付とともに書き留めたものを用意してください。ペットの事案では、診断書と、介護にどれだけ手がかかったかが分かる記録が要になります。

本稿は、交通事故で物を壊された方に向けて、慰謝料についての一般的な考え方と裁判例を整理したものです。認められるかどうか、またその額は、壊されたものの性質、事故の状況、その後の暮らしへの影響によって異なります。個別の事案については、写真や記録などの資料に基づく検討が必要です。

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