過失割合に納得できないとき ― 決まり方と、動かすための手立て

道路を見下ろす位置に取り付けられた監視カメラと、行き交う車 交通事故

相手方の保険会社が示す割合は、話合いの出発点です。何をそろえれば動くのかを順に見ていきます。

「あなたにも2割の過失があります」。相手方の保険会社からそう言われて、納得できないまま話が進んでいる方がいます。過失割合は、認められた損害の総額をそのまま何割か削るものですから、金額への影響がとりわけ大きい項目です。

もっとも、示された割合はあくまで話合いの出発点です。動かせるかどうかを大きく左右するのは、後から見て確かめられる資料が残っているかどうかです。この記事では、割合がどのように決まるのか、そして納得できないときに何をそろえるのかを整理します。

過失割合は、受け取る金額を直接削る

民法第七百二十二条第2項は、被害者にも過失があったときは、裁判所がこれを考慮して賠償額を定めることができると定めています。これを過失相殺といいます。過失割合とは、この考慮の程度を数字で表したものです。

仮に、認められる損害の総額が1000万円で、こちらの過失が2割とされたとしましょう。ほかに考慮すべき事情がないものとして単純に計算すると、相手方に請求できる額は800万円です。これが1割で済めば900万円になります。1割の差が、この例では100万円の差になります。慰謝料の額や休業損害の日数を争う前に、まずここを確かめる意味はそこにあります。

触れられていないことは、ないことではありません

事故の当初は過失の話が出ず、治療が終わって金額の提示を受ける段階で初めて「実はこちらにも過失があります」と言われることがあります。95対5や90対10のように、こちらの過失が小さいとされる事案でも起こります。提示された金額の内訳を見るときは、割合が引かれているかどうかを最初に確かめてください。

割合は「事故の型」を基に、個別の事情を加えて決まる

最初に決めるのは、どういう事故だったのかということです。後ろから追突されたのか、信号機のない交差点で直進する車同士がぶつかったのか、進路を変えた車と直進してきた車がぶつかったのか。この型が定まらないと、割合の議論には入れません。

実務では、事故の型ごとに基本となる割合を調べ、修正要素、つまり割合を動かす個別の事情を加えて調整します。そこで、示された割合については、まずどの事故の型を前提にしたものかを確かめることになります。

争うときに述べるべきことは、「私は悪くない」ではありません。当てはめている型そのものが違うのか、型は同じでも修正要素の評価が違うのか、どちらなのかをはっきりさせることになります。この本には、相手方の運転が通常より危険といえる場合に割合を動かす仕組みも用意されています。速度の大幅な超過や信号無視などがそれで、「著しい過失」「重過失」と呼ばれます。当てはまりそうな事情があれば、それを裏づける映像や写真とともに、保険会社へ具体的に伝えることになります。

型を定めるために要る情報

  • 信号機があったか、あったとして双方の信号は何色だったか
  • 一時停止などの道路標識があったか
  • それぞれの道路の幅
  • 双方の進行方向と、おおよその速度
  • 車体のどこがどこにぶつかったか

本に載っていない型の事故のとき

自転車同士の事故など、似た事案の裁判例を探して過失割合を検討する必要がある事故もあります。

自転車同士の事故などでは、弁護士が判例のデータベースを使って似た事故の裁判例を探すことになります。

なお、インターネットで検索すると、弁護士が裁判例を紹介している記事に行き当たることがあります。手がかりとしては役に立ちますが、紹介記事だけで判断しない方がよいところです。判決の原文を確かめるか、専門家に中身を見てもらってください。

割合を動かすのは、言い分ではなく資料

相手方の保険会社に「そちらの言うような事故ではありません」と述べるだけでは、割合は動きにくいものです。効いてくるのは、当事者の記憶に頼らずに事故の様子が分かる資料です。その手立ては、思っているよりいくつもあります。

事故の様子を裏づける資料

  • 自分の車のドライブレコーダーの映像 ― 衝突の瞬間が写っていれば、少なくとも事故の型については争いになりにくくなります
  • 事故現場付近の防犯カメラの映像 ― 店舗のものであれば、直接お願いするか、弁護士会を通じた照会で開示を求めます
  • 刑事記録 ― 警察や検察庁などが持っている事故の記録です。現場を見分した記録や、当事者から聴き取った内容が書かれており、事故の様子を知る手がかりとして力があります
  • 目撃者の話 ― 連絡先を交換していれば、記憶が薄れる前に事情を聴いて書面にします
  • 車の損傷の写真 ― 押し込むような凹みなのか擦った痕なのかで、一方が止まっていたのか双方が動いていたのかがある程度分かります
  • 事故現場の状況 ― 信号や標識の有無、道路の幅は、地図の情報でも確かめられます

刑事記録は、いつでも見せてもらえるわけではありません。取れる時期も、求める先も、刑事手続がどこまで進んでいるかによって変わります。多くは弁護士を通じて求めることになります。

刑事記録の取り方(手続の段階ごと)

  • 捜査が続いている間 ― 必要な記録を取れないことがあります
  • 不起訴になったとき ― 検察庁へ、弁護士会を通じた照会
  • 起訴され、第一回の公判期日を終えてから事件が終わるまでの間 ― その裁判所へ、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第三条による閲覧・謄写の申出
  • 判決が確定した後 ― 検察庁へ、刑事訴訟法第五十三条による申請
  • 少年事件として家庭裁判所で扱われ、所定の決定があった後 ― その家庭裁判所へ、少年法第五条の二による閲覧・謄写の申出。対象から外れる記録もあり、相当でないとされれば認められません
  • 物損だけの事故 ― 警察署へ、弁護士会を通じた照会(物件事故報告書を求めます)

民事の訴訟を起こした後であれば、裁判所を通じて記録の送付を求める方法もあります。

けがのない事故は、資料が薄くなります

物損だけの事故では、実況見分調書は通常作られません。残るのは物件事故報告書だけというのが一般的で、書かれている内容は簡素です。そのため、割合を争う資料としては足りないことも多くあります。ドライブレコーダーなどの映像もない場合には、事故の状況を調べる調査会社に依頼し、報告書を作ってもらう方法を検討します。費用は頼む内容によって数万円から数十万円ほどです。この費用が弁護士費用特約の対象になるかどうかは契約によって違いますので、依頼する前に保険会社へ確かめてください。

早く動くことに、はっきりした意味がある

ドライブレコーダーや防犯カメラの記録は、時間がたつと新しい映像で消えてしまいます。目撃者の記憶も、日がたつほど薄れます。過失割合が問題になりそうだと感じた時点で、まず資料の確保に手を着けるのは、そのためです。

相手方の車にドライブレコーダーが付いていると分かっているときは、その映像を見せてもらえないか、相手方の保険会社に尋ねてみる価値があります。ただし、相手方が開示に応じないこともあります。

道路を走る車
映像は放っておくと上書きされます。気付いた時点で残しておいてください。

運転していなかったのに、割合を持ち出されたとき

同乗していただけの方に対して、相手方の保険会社が「運転していた方の過失も考慮されるべきです」と述べてくることがあります。これは被害者側の過失と呼ばれる考え方で、実務では定着しています。

夫が運転する車に妻が同乗していて、第三者の車と衝突した事案について、最高裁判所昭和51年3月25日第一小法廷判決・民集30巻2号160頁は、被害者本人と身分の上でも暮らしの上でも一体とみられる関係にある人の過失も考慮に入れられるとしました。そして、夫婦の関係が既に壊れかけているといった特別の事情がなければ、夫の過失を考慮することができると判断しています。

では、どこまでが一体とみられる関係なのか。実務では、被害者と暮らしの財布を一つにしているかどうかという見方で、これまでの裁判例を説明できると考えられています。ですから、同じ車に乗っていたという事実だけで決まるものではありません。

被害者側の過失を否定した裁判例

  • 保育園の保母の過失を、その園に通う子どもの側の過失として扱わなかった例 ― 最高裁判所昭和42年6月27日第三小法廷判決・民集21巻6号1507頁
  • 職場の同僚 ― 最高裁判所昭和56年2月17日第三小法廷判決・交通事故民事裁判例集14巻1号1頁
  • 同居していない恋愛関係にある男女 ― 最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・交通事故民事裁判例集30巻5号1281頁
  • 別居して生計も別の姉 ― 大阪地方裁判所平成10年5月18日判決・交通事故民事裁判例集31巻3号666頁
  • 血縁上の祖父と同居していても、経済的に一体ではなかったため、祖父の過失を被害者側の過失として扱わなかった例 ― 東京地方裁判所平成20年3月11日判決・交通事故民事裁判例集41巻2号261頁

逆のことも起こります。財布を一つにして同居している夫婦のように、この考え方が働きそうな事案でも、保険会社が交渉の段階では持ち出してこないことがあります。訴訟になってから改めて主張される可能性はありますので、交渉の段階の提示で和解すべきかどうかを考えるときには、その見込みも計算に入れておくことになります。

どこで折り合うか

双方が資料を示して話合いを行い、割合が決まったら、ほかの条件と併せて示談書を作ります。双方に損害がある物損の事案では、それぞれの損害額と割合に応じた額を互いに支払う方法と、損害の大きい側が差額だけを受け取る方法があります。対物保険を使うかどうかによって手取りが変わることがありますので、示談書を作る前に、それぞれの方法での受取額と保険の取扱いを確かめてください。

どうしても折り合わないときは、割合以外の争点で譲る形の解決もあります。例えば車の時価額や、修理しても価値が下がったこと(評価損)の請求について、資料と認められる見込みを見比べたうえで譲り、その代わりに割合についてはこちらの数字を受け入れてもらう、という進め方です。

反対に、金額の開きが大きく、資料もそろっているのであれば、訴訟を起こして裁判所の判断を求める方法もあります。どちらを選ぶかは、資料の強さと、どれだけの時間をかけられるかを見比べて決めることになります。

よくある質問

保険会社が示した過失割合には、従わなければならないのですか。

いいえ。示された割合は相手方の見方であって、決定ではありません。事故の型の当てはめが違うのか、修正要素の評価が違うのかを整理して、資料とともに主張することになります。折り合わなければ、訴訟で裁判所の判断を求めることもできます。

ドライブレコーダーを付けていません。それでも争えますか。

争うことはできます。ただし、割合を動かせるかどうかは、事故の状況と残っている資料によります。事故現場付近の防犯カメラの映像、刑事記録、目撃者の話、車の損傷の写真、現場の道路の状況など、ほかにも手立てがあります。物損だけの事故で映像が全くない場合には、調査会社に事故状況を調べてもらう方法も検討します。

刑事記録はいつ取れますか。

捜査が続いている間は開示されません。不起訴になった後は検察庁へ、起訴されて第一回の公判期日を終えた後は事件が終わるまでその裁判所へ、判決が確定した後は再び検察庁へ、それぞれ定められた方法で閲覧や謄写を求めます。少年事件なら、所定の決定があった後に家庭裁判所へ申し出ます。段階によって窓口も根拠も変わりますので、今どの段階かを確かめることが先になります。

私は助手席に乗っていただけです。運転していた夫の過失で減らされてしまうのですか。

身分の上でも暮らしの上でも一体とみられる関係にある場合には、考慮されることがあります。最高裁判所昭和51年3月25日第一小法廷判決は、夫婦の事案でその考え方を示しました。もっとも、職場の同僚や、同居していない恋愛関係にある方などについては、これを否定した裁判例があります。生計を共にしているかなど、ご自身と運転していた方との具体的な関係が判断材料になります。

調査会社に頼むと、費用はどれくらいかかりますか。

頼む内容や、裁判所に出すことを前提とするかどうかによって、数万円から数十万円ほどです。弁護士費用特約が付いていれば、実費として保険から出ることも少なくありませんので、まず証券をご確認ください。

割合が1割違うと、金額はどれくらい変わりますか。

認められた損害の総額の1割です。総額が1000万円であれば100万円、300万円であれば30万円です。損害の総額が大きい事案ほど、割合を争う意味は大きくなります。


弁護士に相談する前に、そろえておくもの

弁護士に相談する前に、そろえておくもの

まず、事故の様子が分かる資料が手元にあるかを確かめてください。ドライブレコーダーの映像と、事故直後に撮った写真です。映像は上書きされることがありますので、別に保存しておくと確実です。あわせて、事故の日時や当事者を確かめるための交通事故証明書と、相手方の保険会社から届いた書面も用意しておくと、話が早く進みます。

本稿は、相手方の保険会社から示された過失割合に納得できない方に向けて、一般的な考え方と手立てを整理したものです。実際の割合は、事故の型、道路の状況、双方の運転の内容などによって異なります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

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