目安より上がるのはどんなときか。「謝罪に来なかった」は理由になるのか
相手が飲酒運転だった。現場から逃げた。事故の後、一度も連絡がない。こうした事情があるとき、慰謝料は増えないのかと疑問に思われる方もいるでしょう。
交通事故の慰謝料には、傷害、後遺障害、死亡という損害の種類ごとに一定の目安があります。もっとも、いつでも目安どおりになるわけではありません。増額が認められる場合があります。この記事では、どういう事情が増額につながるのか、逆に増額の理由になりにくいのはどこかを整理します。
慰謝料に目安があるのはなぜか
慰謝料は、被害者ご本人が受けた精神的な苦痛に対するものです。苦痛の大きさは人によって違いますから、本来は一律に決められるものではありません。
それでも、けがの分の慰謝料、後に残った障害の分の慰謝料、亡くなった場合の慰謝料には、いずれも一定の目安があります。事案によって額に大きな不均衡が生じないようにするためです。
とはいえ、画一ではありません
目安があるからといって、まったく機械的に決まるわけではありません。事情によっては、目安より上の額が認められることがあります。増額につながり得る事情は、主に三つの類型に整理できます。
一 加害者の責任が重い場合
酒を飲んで運転していた。ぶつかっておいて逃げた。免許を持たずに乗っていた。信号を承知のうえで無視した。制限をはるかに超える速度で走っていた。こうした事情があり、わざと、あるいは重い落ち度があったと認められる場合には、増額につながり得ます。
ここで押さえておきたいのは、危険運転致死傷罪が適用された事案に限られないということです。その罪名が付かなかったからといって、増額の余地が閉じるわけではありません。飲酒運転やひき逃げなど、加害者に故意又は重い落ち度が認められる事情は、検討の対象になります。
材料になる事情
- 酒を飲んでいたこと(呼気の検査結果や捜査の記録)
- 現場から立ち去ったこと
- 免許を持っていなかったこと
- 信号を無視したこと
- 制限速度を著しく超えていたこと
事故と被害の状況を示す資料が手元にあれば、整理しておいてください。刑事事件の記録をどこまで見られるかは、事件の処分や進み具合によって変わりますので、弁護士に尋ねてください。
二 事故の後の対応が著しく不誠実だった場合
何が起きたのかを覆い隠そうとした。事実と違う申告をした。被害者の側に責任があるかのように言い立てた。こうした事故の後の対応が著しく不誠実であったときにも、増額につながり得ます。
「謝罪に来なかった」は、それだけでは難しい
ご本人やご家族が、「事故の後に謝罪に来なかった」「連絡の一本もない」ことを不満に思われるのは自然なことです。もっとも、これが直ちに増額の理由になるわけではありません。近年は直接の謝罪そのものが減っており、当事者の間でもめることを防ぐために、保険会社が加害者本人へ「被害者に直接電話や連絡をしないように」と伝えている場合も多いのです。連絡がないことの背景には、加害者の意思とは別の事情があり得ます。
整理すると、謝罪や連絡がなかったことだけで、直ちに増額されるわけではないということです。事故の原因を覆い隠した、事実と違う申告をした、被害者に責任を押し付けたなど、事故の後の対応が全体として著しく不誠実であったかどうかを見ていきます。
三 被害者側に重大な事情が生じた場合
事故をきっかけに、被害者の側の暮らしが大きく変わってしまった場合も、増額につながり得ます。
認められ得る事情の例
- 手術を何度も受けることになり、その途中で合併症が起きた
- 入院が長引いた結果、学校で進級できなくなった、あるいは学校を辞めた
- 事故が原因で流産した
- 勤め先を辞めざるを得なくなった
- 子どもの事故によって、両親がうつ病を患った
ここで正直に申し上げておきます。どれほど軽い事故であっても、遭った方の苦しみは他人が測れるものではありません。暮らしが何一つ変わらずに済むことも、まずありません。それでも、増額として認められるのは、影響が重いと言える場合に絞られます。ここは期待と食い違いやすいところですので、初めにお伝えしておきます。

どう述べていくか
増額を求めるときは、加害者の運転や事故の後の対応、そして被害者の暮らしに生じた重い影響を、具体的に説明していくことになります。
たとえば、飲酒運転が発覚するのを恐れ、被害者をその場に残して事故現場から走り去った。その後、飲酒運転が発覚してからも「人にぶつかったとは思わなかった」と述べ、事故そのものを認めなかった。ここまでの事情があれば、身勝手さと悪質さを並べて、目安どおりの額では釣り合わないと述べていくことになります。
事故と被害の状況を示す資料があれば、整理しておいてください。刑事事件の記録については、事件の処分や進み具合によって、閲覧できる範囲が変わります。
よくある質問
相手が飲酒運転でした。慰謝料は増えますか。
増額につながり得ます。酒を飲んで運転していた、ぶつかって逃げた、免許を持たずに乗っていた、信号を承知で無視した、制限速度を著しく超えていたなど、故意又は重い落ち度があったと認められる場合が対象になります。
危険運転致死傷罪にならないと、増額されないのですか。
そうではありません。増額の余地は、危険運転致死傷罪という重い罪が適用された事案だけに残されているのではありません。飲酒運転やひき逃げのように、わざと、あるいは重い落ち度があったと認められる事情は、いずれも検討の対象になります。
事故の後、一度も謝罪がありません。増額の理由になりますか。
それだけでは難しいところです。近ごろは直接の謝罪そのものが少なくなっており、当事者の間でもめることを避けるため、保険会社が加害者本人に「被害者へ直に連絡しないように」と伝えている場合も多いからです。事故の原因を覆い隠した、事実と違う申告をした、被害者に責任を押し付けたなど、事故の後の対応が全体として著しく不誠実であったかどうかを見ていくことになります。
事故が原因で仕事を辞めることになりました。
増額につながり得る事情です。何度も手術を受けて合併症を起こした、入院が原因で留年や退学に至った、事故が原因で流産した、勤務先を退職することになった、子どもの事故によって両親がうつ病を患ったといった場合が挙げられます。
日常生活が大変でした。それも増額の理由になりますか。
どれほど軽い事故でも苦しみはあり、暮らしが何一つ変わらずに済むことはまずありません。もっとも、増額として認められるのは、影響が重いと言える場合に絞られます。
何を用意すればよいですか。
事故と被害の状況を示すものです。手術、留年、退学、退職など、事故の後に暮らしがどう変わったのかを具体的に整理しておいてください。刑事事件の記録をどこまで見られるかは、事件の処分や進み具合によって変わりますので、弁護士に尋ねてください。

悪質な事故に遭われた方へ
事故と被害の状況を示す資料を、手元にある範囲で整理しておいてください。あわせて、事故の後に加害者側からどのような説明があったか、暮らしがどう変わったかを書き留めておいてください。刑事事件の記録をどこまで見られるかは、事件の処分や進み具合によって変わります。これらがそろっていると、慰謝料の増額を主張できる事情を整理しやすくなります。
本稿は、交通事故の慰謝料が目安より増額される場合について、一般的な考え方を整理したものです。増額が認められるかどうか、またその幅は、事故の内容、加害者の対応、被害者の側に生じた影響によって異なります。個別の事案では、刑事事件の記録や診療の記録に基づく検討が必要です。
