悪意の遺棄とは ― 生活費を渡さない、家を出て行ったときの離婚と慰謝料

花柄の布の上に置かれた鍵の束 離婚・男女問題

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当たる例と当たらない例、慰謝料の目安、別居中の生活費の求め方を解説します

正当な理由なく生活費を渡さない、家を出て戻らないといった行為は「悪意の遺棄」に当たり、相手が拒んでも裁判で離婚が認められる理由になり得ます。

ただし、単身赴任や、暴力から逃れるための別居のように、正当な理由のある別居は悪意の遺棄に当たりません。

この記事の結論

  • 悪意の遺棄は、民法第770条第1項第2号が定める離婚の理由です。夫婦の同居・協力・扶助の義務を、正当な理由なく果たさないことをいいます。
  • 単身赴任、親の介護のためにやむを得ずする別居、DVやモラハラから逃れるための別居、生活費が支払われている合意の別居は、悪意の遺棄に当たりません。
  • 悪意の遺棄を受けた側は慰謝料を請求できます。法律事務所の解説では、50万円から300万円程度が相場とされています。
  • 生活費が止まったら、離婚の前でも、家庭裁判所に婚姻費用の分担を求める調停を申し立てられます。

悪意の遺棄は、夫婦の義務を正当な理由なく果たさないこと

民法第770条第1項は、裁判で離婚を求められる場合を挙げています。その第2号が「配偶者から悪意で遺棄されたとき」です。

ここでいう遺棄は、民法第752条が定める夫婦の義務を果たさないことです。同条は、夫婦が一緒に暮らし、互いに協力し、互いの生活を支えることを求めています。

義務の中身果たさない例
同居義務同じ住まいで夫婦として暮らす正当な理由なく家を出て戻らない、同居を拒む
協力義務共同生活を助け合う働けるのに働かず、家事や育児にも協力しない
扶助義務相手に自分と同じ程度の生活をさせる収入があるのに生活費を渡さない
夫婦の三つの義務と、果たさない例

「悪意」とは、夫婦の共同生活が壊れると分かった上で、それでも構わないと考えていることをいいます。

正当な理由のある別居は、悪意の遺棄に当たらない

家を出たことや生活費を渡さないことに正当な理由があれば、悪意の遺棄にはなりません。

悪意の遺棄に当たらないとされる例

  • 単身赴任など、仕事上やむを得ない事情による別居
  • 実家の親の介護のため、やむを得ずする別居
  • DVやモラハラから逃れるための別居
  • 相手の同意を得た別居で、生活費が支払われているもの
  • 病気で働けない、失業して就職活動をしているなど、生活費を渡せない事情があるとき

別居の原因が離婚を求める側にあるときも、家を出た側の悪意の遺棄は認められにくくなります。

別居に同意していても、その後に約束した生活費の支払が止まると、悪意の遺棄に当たる可能性があります。

当たらないときも、別の理由で離婚できることがある

悪意の遺棄が認められなくても、一方的な別居が長く続いていれば、離婚が認められる可能性があります。同じ民法第770条第1項の第4号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たる場合です。

反対に、悪意の遺棄があっても、裁判所は一切の事情から婚姻を続けるのが相当と認めれば、離婚の請求を退けることができます(民法第770条第2項)。

慰謝料の目安は50万円から300万円程度

悪意の遺棄で受けた精神的な苦痛については、不法行為として慰謝料を請求できます(民法第709条、第710条)。

50万円から300万円程度を目安とする法律事務所の解説が複数あります。実際の額は事案ごとの事情で変わります。

慰謝料の額を高くする方向に働く事情

  • 婚姻期間が長い
  • 未成年の子がいる
  • 生活費が払われない期間が長い
  • 生活費を全く渡さない、ほとんど帰宅しないなど、経緯が悪質である

生活費が止まったら、婚姻費用の分担を求める

別居中の生活費は、夫婦が収入などに応じて分担します(民法第760条)。離婚するかどうかを決める前でも、収入の多い側に請求できます。

話合いでまとまらないときは、家庭裁判所に婚姻費用の分担を求める調停を申し立てます。調停が不成立になると審判に移り、裁判官が判断します。

過去の分をさかのぼって求めても、一般には、請求した時より前の婚姻費用は認められません。生活費が止まったら、早めに調停を申し立てるか、内容証明郵便で請求します。

裁判では、求める側が事実を証明する

悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料を求めるときは、求める側がその事実を証明する必要があります。

集めておくもの

  • 生活費の送金が止まったことが分かる通帳の写しや入出金の履歴
  • 相手が住民票を移したことが分かる住民票の写し
  • 相手が別に借りた住まいの賃貸借契約書
  • 相手とのメール、LINE、手紙のやり取り
  • 出来事を日付とともに書いた日記やメモ
机の上のノートにペンで書き込む手元
生活費が止まった日や相手とのやり取りを、日付とともに書き留めます。

よくある質問

家を出て行った配偶者に、戻るよう求める手続はありますか。

家庭裁判所の夫婦関係調整調停(円満)で、関係を回復するための話合いができます。同居を命じる審判を求めることもできますが、同居を強制的に実現することはできないとされています。

悪意の遺棄を理由に、すぐ離婚裁判を起こせますか。

原則として、離婚の訴えを起こす前に、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります(家事事件手続法第257条第1項)。調停が不成立になった後に離婚の訴えを起こし、その中で悪意の遺棄を主張します。

悪意の遺棄が原因で離婚した場合、離婚の慰謝料はいつまで請求できますか。

離婚に至ったことへの慰謝料は、原則として離婚が成立した時から3年で時効にかかります(民法第724条第1号)。


相談の前に用意するもの

相談の前に用意するもの

別居が始まった日と、生活費が止まった日を書き出しておいてください。

本稿は一般的な制度の説明です。個別の事案については資料に基づく検討が必要です。

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