支払った人がもう一人に負担を求める仕組みを求償といいます。請求できる額と示談書の条項を確かめます
不貞(いわゆる不倫)の慰謝料を支払った人は、一緒に不貞をした既婚者へ負担を求められる場合があります。これを求償といいます。不貞をした二人は、被害を受けた配偶者に対して共同で賠償責任を負うからです。
ただし、求償できる範囲は、二人の負担の割合によって決まります。また、示談書に「求償権を放棄する」という条項を入れていれば、後から求めることはできません。この記事では、求償の考え方と、示談のときに確かめることを整理します。
この記事の結論
- 不貞は、不貞をした配偶者と不貞相手が共同で行った不法行為とされ、被害を受けた配偶者は、二人のどちらにも慰謝料の全額を請求できます。
- 不貞の慰謝料を一人で全額支払った場合には、求償権を放棄していなければ、もう一人の負担分を求められる場合があります。
- 求償できる額は事案ごとに検討します。必ず半分になるとは限らず、不貞に至った経緯や二人の役割も考慮されます。
- 示談書に求償権を放棄する条項を入れると、後から求償はできません。その代わりに示談金を低くする、という使い方がされています。
不貞は「二人で行った不法行為」とされます
不貞をした配偶者と不貞相手は、被害を受けた配偶者に対し、共同で不法行為をしたものとして扱われます(民法第七百十九条第1項)。二人は、損害の全部について連帯して賠償する責任を負います。
そのため、被害を受けた側は、二人のどちらを相手にするかを選ぶことができ、選んだ一人に慰謝料の全額を請求することもできます。不貞をした配偶者の責任は問わずに、不貞相手だけに請求することもできます。
全額を請求されても、不貞相手が最終的な負担を全て負うとは限りません。不貞をした二人の間で、どの程度ずつ負担するかを別に考えます。
一人が支払って損害が埋まれば、その範囲で、もう一人が支払う額も減ります。
全額を支払った後はもう一人への求償を検討します
ここで参照する平成10年の判決は、不貞ではなく共同不法行為についての事件です。
慰謝料を全額支払った後は、一緒に不貞をした人へ負担を求められる場合があります。最高裁判所平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁も、共同で損害を与えた人どうしの求償を認めています。
例えば、慰謝料の全額を支払い、二人が半分ずつ負担すべき場合を考えます。求償権を放棄していなければ、一緒に不貞をした人へ支払額の半分を求められます。
一部だけ支払った場合は別に検討します
現行の民法第四百四十二条第1項では、連帯債務者が一部を支払った場合も求償を認めています。しかし、共同不法行為で同じ扱いになるかには、見解の違いがあります。
最高裁判所平成10年9月10日第一小法廷判決・民集52巻6号1494頁は、改正前の判断です。自分の負担分を上回る支払があった場合に求償を認めました。記事では全額を支払った場合を中心に説明します。
| 求償の扱い | |
|---|---|
| 不貞相手が全額を支払った | 一緒に不貞をした既婚者の負担分について求償を検討する |
| 被害を受けた配偶者が不貞をした配偶者だけを免除した | 不貞相手の責任が当然になくなるわけではない。全額を支払えば求償を検討する |
| 求償権を放棄する条項がある | 放棄した範囲では後から負担を求められない |
負担の割合は事案ごとに決まります
求償できる割合は、必ず半分とは限りません。不貞に至った経緯や、二人がそれぞれどのような役割を果たしたかを考えて決めます。
誰からどのように関係を持ち掛けたかも、判断材料になります。示談書だけでなく、交際が始まった経緯の分かる記録も残しておいてください。

不貞をした配偶者だけを免除しても請求は残ります
被害を受けた配偶者が、不貞をした配偶者の責任を免除しても、そのことは、原則として不貞相手の責任には影響しません。
最高裁判所平成6年11月24日第一小法廷判決・裁判集民事173号431頁の事件では、夫婦が離婚調停で互いへの請求をしないと定めました。妻は、その後、夫の不貞相手の女性に慰謝料を求めました。最高裁判所は、夫の分を免除したことは女性の責任に影響しないと判断しました。これは改正前の判例です。
現行の民法第四百四十一条でも、一人について生じた事情は他の人に効力を及ぼさないことが原則です。ただし、別の意思を示した場合の定めがあります。示談では誰のどの責任を免除するのかを明確にしてください。
示談書に「求償権の放棄」を入れることがあります
不貞相手と被害を受けた配偶者が示談するとき、求償権を放棄する約束を入れることがあります。この約束をした不貞相手は、一緒に不貞をした既婚者に後から負担を求められません。
例えば、夫婦が離婚していない場合です。不貞相手が妻に払った後で夫に求償すると、夫婦の家計から不貞相手へお金が戻ることになります。そのため、求償をしない約束と引換えに、示談金を低くする場合があります。
示談書で確かめておきたい点
- 求償権を放棄する条項が入っているか。入っているなら、その分、額が考慮されているか
- 支払う額が、不貞をした二人の責任の全部についてのものか、自分の負担部分についてのものか
- 三人で合意するか。被害を受けた配偶者と不貞をした二人が、残る請求の有無を明確にしておく
不貞をした二人の一人が相当額を全て支払うのであれば、もう一人も合意に参加する方法があります。ただし、三人が署名するだけで全ての請求が消えるわけではありません。誰と誰の間の請求を終わらせるかを、合意書で確認してください。
要点の整理
この記事で確かめたこと
- 不貞をした二人は共同で賠償責任を負う。ただし被害者が損害を重ねて受け取れるわけではない
- 一人で全額を支払った後は、もう一人の負担分について求償を検討する
- 一部を支払った場合の求償は見解が分かれるため、個別に検討する
- 負担の割合は必ずしも半分とは限らない。不貞に至った経緯などを考慮する
- 求償権を放棄した範囲では後から請求できない。示談書の条項を確かめる
よくある質問
不貞の慰謝料を全額払いました。一緒に不貞をした人へ請求できますか。
その人の負担分を求められる場合があります。ただし、求償権を放棄する約束をしていれば、その範囲で求められません。まず示談書と支払の記録を確かめてください。
求償できる割合は半分ですか。
必ず半分ではありません。不貞に至った事情や、どちらから関係を持ち掛けたかなどを考慮します。二人の経緯が分かる資料をそろえて、求められる割合を検討します。
求償権の放棄とは何ですか。
慰謝料を支払った人が、一緒に不貞をした相手に後から負担を求めない、と約束することです。夫婦が離婚しない場合に、お金が夫婦の家計と不貞相手の間を行き来するのを避けるため、示談金を低くする代わりに入れることがあります。
妻は夫を許して慰謝料を請求しないと言っています。それでも不貞相手は全額を払うのですか。
不貞をした配偶者だけを免除した場合、不貞相手の責任が当然になくなるわけではありません。不貞相手が全額を支払った場合には、一緒に不貞をした既婚者への求償を検討できます。ただし、求償権を放棄した場合は別です。

慰謝料を払った後の負担に悩んでいる方へ
弁護士に相談するときは、取り交わした示談書や合意書、支払った額と日付の分かる振込の記録、交際が始まった経緯と続いた期間を書いたメモを用意してください。示談の前であれば、示された示談書の案を持参してください。
本稿は、不貞の慰謝料を支払った後の求償について、一般的な考え方を整理したものです。求償できるか、どの割合で求められるかは、二人の関係の経緯や示談書の条項などによって変わります。個別の事案については資料に基づく検討が必要です。

