「身の回りのことはできています」と言われた ― 将来介護費が認められる場合

病室のベッドに横になった患者の額に、看護師が手を当てている 交通事故

5級以下でも認められるのか。高次脳機能障害で見守りが要るとき

後遺障害が残った家族の将来の介護費を請求したところ、保険会社から「身体の機能に問題はなく、身の回りのことはご自分でできています。介護の必要は認められません」と言われた。こういう場面があります。

けれども、体が動くことと、目を離せることは同じではありません。この記事では、後遺障害の等級が1級・2級でなくても将来介護費が認められる場合と、そのために何を示すのかを整理します。

等級によって、認められやすさが変わる

この項目は、障害が重いほど通りやすくなります。もっとも、5級以下なら一切だめ、というものではありません。

おおよその傾向

  • 高次脳機能障害の5級2号 ― 認めた裁判例が数多くあります
  • 7級4号 ― 認めた例もある一方、退けられた例も増えます
  • 9級以下 ― 日々の動作にはっきりした支障があるといった事情がなければ、退けられる傾向にあります

日常の動作とは

ここでいう日常の動作(ADL)とは、移動、食事、着替え、排せつ、入浴、起き上がりや寝返り、乗り移り、身だしなみを整えることをいいます。保険会社は、この動作が自分でできるかどうかを持ち出してきます。

体が動いても、認められた事案がある

身体の機能そのものに支障がなくても、将来介護費が認められた裁判例があります。ここが、この項目の要点です。

人柄が変わり、見守りが要るとされた事案

高次脳機能障害で5級2号となった方について、身体の機能そのものには支障がないものの、人格の変化によって見守りが必要であるとされました。介護にあたる妻に持病があることも考慮され、1日当たり4000円、20年分が認められています(名古屋地方裁判所平成23年9月16日判決・交通事故民事裁判例集44巻5号1176頁)。

声かけが要るとされた事案

同じく高次脳機能障害の5級2号で、日常生活の動作は自分でできるものの、中程度の知能の障害と記憶の障害があり、他人の指示や声かけが必要という事案です。1日当たり5000円、57年分が認められました(東京地方裁判所平成23年9月22日判決・交通事故民事裁判例集44巻5号1202頁)。

7級でも認められた事案

高次脳機能障害の7級4号の事案です。裁判所は、家族が見守らねばならない場面がないとはいえないこと、そして初めて通る道では帰り道が分からなくなってしまうため誰かが付いていなければならない状態であることを挙げ、月額1万5000円を31年分認めました(名古屋高等裁判所平成26年11月20日判決・自保ジャーナル1938号6頁)。

診察室で医師と患者が向かい合って話している様子
何ができて、何ができないのか。診療の記録に残っていることが手がかりになります。

否定された事案も知っておく

反対に、否定された例もあります。同じ高次脳機能障害の5級2号でも、食事、着替え、トイレといった動作に特段の支障がなく一人でできるなど、基本的な日常の動作が自立していると判断され、将来介護費が否定された事案があります(東京地方裁判所平成22年2月9日判決・交通事故民事裁判例集43巻1号123頁)。

つまり、等級だけでは決まりません。分かれ目は、身の回りのことが自分でできるかどうかではなく、そのうえで見守りや声かけ、指示が要る状態かどうかです。ですから、示すべきことも決まってきます。

何を示すのか ― 具体の支障を並べる

将来介護費を請求するときは、現に行われている介護の中身と、日常生活での具体的な支障を、証拠とともに述べていく必要があります。「大変です」では足りません。

介護の必要を示す事情の例

  • 自分で起きられない
  • 薬の管理が自分でできない
  • 買い物の場面で、何が要るのかを自分で決められない
  • 動作が性急で、見守りが要る
  • 暮らすことはできるが、自分からは動き出さない
  • 怒りやすく、暴力をふるうことがある
  • お金の計算ができず、電車やバスを使えない
  • 歩くと転びかねないので、移動のたびに家族が付いていなければならない
  • 意思の疎通に支障がある
  • 感情の起伏が激しく、他の人とぶつかってしまう
  • 食事や入浴、着替えのどこかに支障が出ている。あるいは、その都度の声かけが要る

こうした事情は、日々の記録に残していただくのが確実です。いつ、どの場面で、誰が、どう手を貸したのか。それが積み重なると、体が動くことと目を離せないことが別だと示せるようになります。

入院中の付添いについて

将来の介護とは別に、入院している間の付添いの費用が認められることもあります。裁判例では次のような例があります。

入院付添費が認められた例

  • 遷延性意識障害(1級1号)で母親が付き添った1593日について、1日8000円
  • 高次脳機能障害(5級2号)の事案。入院したばかりのころは落ち着かない状態で、看護師から付き添うよう勧められた。その164日分について、1日6000円
  • 足の関節が動かしにくくなった状態(10級11号)で、34日分について1日6500円
  • 左膝の関節の機能障害(12級7号)、事故のとき90歳の方について、入院した期間の三分の一である44日間、1日6500円

看護師から付添いを勧められた、ご高齢である、といった事情が、額と日数を左右しています。

よくある質問

5級以下でも将来介護費は認められますか。

認められた裁判例があります。高次脳機能障害の5級2号では数多くあり、7級4号でも認めた例があります。もっとも、9級以下になると、日々の動作にはっきりした支障があるといった事情がなければ、退けられる傾向にあります。

「身の回りのことはできている」と言われました。

体が動くことと、目を離せることは別です。身体の機能そのものに支障がなくても、人格の変化によって見守りが必要だとして認められた裁判例、日常の動作は自分でできるが他人の指示や声かけが必要だとして認められた裁判例があります。

どのくらいの額が認められていますか。

近親者が介護する場合の日額は、裁判の実務で使われる目安として1日8000円とされ、必要な介護の中身によって上下します。裁判例では、1日当たり4000円で20年分、1日当たり5000円で57年分、月額1万5000円で31年分といった例があります。額と期間は、症状の中身と介護の負担によって異なります。

否定されることもありますか。

あります。同じ高次脳機能障害の5級2号でも、食事、着替え、トイレといった動作に特段の支障がなく一人でできるとして否定された事案があります。等級だけで決まるものではありません。

何を示せばよいのですか。

現に行われている介護の中身と、日々の暮らしでの具体的な支障です。自分で起きられない、薬の管理ができない、歩くと転びかねないので移動のたびに付いていなければならない、意思の疎通に支障があるといった事情を、証拠とともに述べていきます。

入院している間の付添いの費用は請求できますか。

認められることがあります。裁判例では、遷延性意識障害の事案で母親が付き添った1593日について1日8000円、入院したばかりのころ看護師から付き添うよう勧められた事案で164日分について1日6000円が認められた例があります。


「介護は要らない」と言われた方へ

「介護は要らない」と言われた方へ

後遺障害の等級の認定結果が書かれた書面と、診療の記録をご用意ください。併せて、一日の中でどの場面に手を貸しているかを、日を追って書き留めてください。起床、服薬、外出、金銭の管理、感情の起伏。そこに書かれた具体の場面が、体が動くことと目を離せないことは別だと示す材料になります。

本稿は、後遺障害が残ったご家族の将来介護費について、一般的な考え方を整理したものです。挙げた金額と期間は裁判例に見られるもので、実際の判断は、症状の中身、日常生活での支障の程度、介護の負担によって異なります。個別の事案では、認定結果や診療の記録に基づく検討が必要です。

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