知り合いの車に乗っていて事故に遭った ― 減らされる場合と、減らされない場合

車の運転席から、山あいの道の先を見ている 交通事故

「無償で乗せてもらっていたのだから」という主張には、原則として応じる必要がありません。

友人や職場の方の車に乗せてもらっていて事故に遭った。そういう事案で、相手方の保険会社から「無償で乗せてもらっていたのですから、あなたにも何割かの負担があります」と言われることがあります。

この主張は、原則として通りません。ただし、通ってしまう場面もあります。また、運転していたのがご家族だった場合は、別の理屈で減らされることがありますし、その車の対人賠償が使えないという問題も起こります。この記事では、その分かれ目を整理します。

乗せてもらっていたこと自体では、減らされない

タクシーや運転代行のような有料の運行ではなく、無償で車に乗せてもらうことを、実務では無償同乗、あるいは好意同乗といいます。

この場合、運転者の好意で乗せてもらっているのだから、そこから生じた危険もある程度は引き受けるべきではないか、という考え方があり得ます。同乗した方にも落ち度があったとして賠償額を減らすことを、法律では過失相殺といいます。これが、無償同乗を理由とする減額の言い分の中身です。

しかし、実務の基本的な考え方は違います。無償で乗っていたということだけで直ちに賠償額を減らすことはしない、とされています。ですから、友人、恋人、職場の同僚、知人といった間柄で乗せてもらっていた場合、無償で乗っていたということだけを理由に減額を求められたのであれば、直ちに応じる必要はありません。過去の裁判例でも原則として認められていないことを述べ、ほかに減額の根拠となる事情があるのかを確かめることになります。

それでも減らされるのは、危険を引き受けたといえるとき

では、どういう場合に減らされるのか。事故が起こることが予想できるような状況で、あえてその車に乗った場合や、運転者をあおって危険を招いた場合です。同乗した方の側も、危険を承知したうえで乗ったとみられるためです。

どれだけ減るかは、事故の原因と危険の大きさによって決まります。実際には、10%から30%ほどに収まることが多いところです。もっとも、保険会社の側から50%という主張が出ることもあります。その場合は、減額の根拠となる事実、拠りどころとしている裁判例、割合の出し方を書面で示すよう求めてください。

ここは人身傷害保険にも影響します

事故の型そのものによる減額とは違い、危険を引き受けたと評価される場合には、わざと危険を招いた、あるいは容易に避けられたのに著しく不注意だった、として、ご自身やご家族が契約している人身傷害保険から支払を受けられないと判断されることがあります。自分の保険を使うつもりであれば、その約款を確かめ、こうした場合に支払わないとする定めが当てはまるのかを保険会社に問い合わせておいてください。

無償同乗で、とりわけ減額が問題になる三つの場面

実際に問題になるのは、次の三つです。

一つ目は、飲酒運転です。運転する方が飲んでいることを知りながら同乗した場合には、減額される可能性が高くなります。飲酒運転は厳しく取り扱う方向で進んできていますので、そのように見ておいた方が現実的です。割合は、飲んだ量、事故に至るまでの運転の様子、運転していた方との関係などによって決まります。

二つ目は、無免許運転や免許停止中の運転です。それを知りながら乗っていた場合は、飲酒運転と同じく減額される可能性が高くなります。ただし、運転者との間柄によっては、本当に知らなかったということもあり得ます。その場合は、運転者の年齢をいつ知ったのか、これまでに何回ぐらい乗せてもらったのか、車は誰のものかを整理して、知らなかった経緯を説明できるようにしておいてください。

年齢から知っていたと評価される場合があります

運転していた方が17歳で、乗っていたのが普通自動車だったとしましょう。普通自動車の免許は18歳からですから、17歳では取ることができません。そうすると、免許を取れない年齢だと分かっていたのですから、無免許であることも知っていたと判断される可能性があります。

三つ目は、危険な運転です。あおり運転、制限速度を50キロ以上も超える速度、ドリフト走行のほか、信号を無視する運転、定員を超えて人を乗せること、原動機付自転車に2人で乗ることなども挙げられます。いずれも、ぶつかる危険が明らかに高い運転です。

ただし、飲酒運転や無免許運転とは違い、こちらは同乗した方自身が運転者と一緒になってその運転を容認していた、あるいは「もっと飛ばせ」「信号は気にするな」といった具体的な指示をしていた、という場合に減額される傾向にあります。単に乗っていただけでは違います。

実際に、減額を否定した裁判例があります。制限速度を70キロ超える速度で走り、片手運転で前をよく見ていなかったために前の車へぶつかった事故でしたが、その速度を出したのは運転者が突然加速したためであって、同乗していた方があおったわけではない、と判断されました(札幌地方裁判所平成22年12月3日判決・自保ジャーナル1844号34頁)。

並んだ車
「乗っていた」ことと「危険を引き受けた」ことは、同じではありません。

運転していたのがご家族だったとき

運転していた方がご家族である場合は、友人や知人の車に同乗していた場合とは扱いが変わります。被害者側の過失という別の考え方によって、運転していた方の過失が考慮されることになるためです。ここに当たり得るのは、配偶者、ご両親、お子さんといった方です。

この点について、最高裁判所昭和42年6月27日第三小法廷判決・民集21巻6号1507頁は、幼児が被害者となった事案について、民法第七百二十二条第2項でいう被害者の過失には、被害者本人の過失だけでなく、広く被害者側の過失も含まれるとしました。そして、ここでいう被害者側の過失とは、被害者を監督する立場にある父母や、その家庭で家事に従事している人のように、被害者と身分の上でも暮らしの上でも一体とみられる関係にある人の過失をいう、と判示しています。

この考え方からすると、家族としての関係があるうえに、一緒に住んでいる、家計を一つにしているといった事情もそろっている場合には、被害者側の過失が認められやすくなります。

家族が同乗していた場合、対人賠償が使えないことがあります

見落とされやすい、しかし手取りに直結する点です。自動車保険の約款では、その車の対人賠償の対象にならない方が定められており、そこには次のような方が挙げられています。

対人賠償の対象にならない方(約款の定め)

  • 記名被保険者(保険証券に主な補償の対象者として書かれている方)
  • 契約している車を運転していた方、またはその父母、配偶者、子
  • 被保険者の業務に従事している最中の使用人
  • 被保険者の使用者の業務に従事している最中のほかの使用人(被保険者が契約している車をその使用者の業務に使っている場合に限られます)

ですから、例えば夫が運転する契約車に同乗していた妻が、夫の過失による事故でけがをした場合、約款の内容によって、妻は対人賠償の対象外となることがあります。この場合は、人身傷害保険、自賠責保険、そしてほかに関わった車があればその側への請求という順に、使える道を確かめていくことになります。なお、この一覧に挙がっていない兄弟姉妹などについては、当然に対象外になるものではありません。

つまり、ご家族の車に乗っていて事故に遭ったときは、まず証券を開いて、人身傷害保険が付いているかどうか、そして自分がその車の対人賠償の対象外に当たるのかどうかを確かめることが出発点になります。

シートベルトをしていなかったとき

もう一つ、よく持ち出されるのがシートベルトです。

道路交通法第七十一条の三は、シートベルトを着けていない人を運転者席以外の座席に乗せて自動車を運転してはならないと定め、幼児についてはチャイルドシートの使用を定めています(同条第2項・第3項)。道路交通法の改正により、チャイルドシートの使用は平成12年4月1日から、後部座席のシートベルトは平成20年6月1日から義務付けられました。運転者と助手席については、それより前から義務とされています。

ここで押さえておきたいのは、この義務を負っているのが運転者だということです。前の席であれ後ろの席であれ、乗せてもらっている側が道路交通法上の義務を負っているわけではありません。また、後部座席の不着用については、今のところ一般道路では違反点数が付かず、高速道路や自動車専用道路だけが対象です。

それでも、事故の後にシートベルトを着けていなかったことが分かると、保険会社からそれを理由とする減額が主張されることがあります。

裁判例の傾向

助手席でシートベルトを着けていなかった事案では、減額を認めた裁判例が多くみられます。後部座席については、認めた例と否定した例が混在しています。もっとも、否定した例の中には平成20年6月1日の義務化より前のものも相当数あり、義務化された後は、義務化の経緯や、シートベルトが命を守るのに役立つという今の社会の受け止め方から、減額が認められる傾向にあります。

割合は個別の事情によって変わりますが、ここで参照した裁判例では5%から30%ほどでした。

割合を決めるときにみられる事情

  • 事故の内容
  • 事故の前後の乗車の姿勢と座っていた位置
  • 症状と治療の経過
  • 誰に請求しているのか(同乗していた車の運転者か、相手方の運転者か)

反対に、減額を否定する方向に働く事情もあります。シートベルトを着けていなかったことがけがの結果に影響していないといえる場合、相手方の過失が著しく大きい場合、そして病気や妊娠のため、健康や治療の面からシートベルトを着けることが適切でないなど、法令上着けなくてよいとされる場合です。チャイルドシートの場合も、これと同じ枠組みで考えてよいとされています。

ですから、「着けていなかったのだから仕方がない」と受け止める前に、事故がどのように起きたのかと、同じ車に乗っていたほかの方のけがの程度を確かめる意味があります。追突された事故で、シートベルトを着けていた運転者のけがと治療期間がほぼ同じであれば、着けていなかったことが結果を変えたとはいえない、という主張ができるためです。

よくある質問

友人の車に乗せてもらっていました。無償だから減らされると言われましたが、本当ですか。

無償で乗っていたということだけでは減らされません。実務の基本的な考え方は、それだけで直ちに賠償額を減らすことはしない、というものです。友人、恋人、職場の同僚、知人といった間柄であれば、直ちに応じる必要はなく、ほかに減額の根拠となる事情があるのかを確かめることになります。

どういう場合なら減らされるのですか。

事故が起こることが予想できる状況であえて乗った場合や、運転者をあおって危険を招いた場合です。飲酒運転、無免許運転や免許停止中の運転をそれと知って乗っていた場合が典型です。危険な運転については、一緒になって容認していたか、具体的に指示をしていたかがみられます。

減らされるとしたら、どれくらいですか。

おおむね10%から30%ほどが多いところです。保険会社から50%という主張が出ることもありますが、その根拠を確かめる必要があります。

夫が運転する車に乗っていて、夫の過失で事故になりました。請求できますか。

夫の車の対人賠償は、通常は使えません。約款で、運転していた方やその父母、配偶者、子はその車の対人賠償の対象外とされているためです。人身傷害保険、自賠責保険、ほかに関わった車があればその側への請求という順に確かめることになりますので、まず証券をご覧ください。また、暮らしを一つにしているご家族の場合、運転していた方の過失が考慮されることもあります。

シートベルトをしていませんでした。減らされますか。

助手席の場合は認められる例がほとんどです。後部座席については認めた例と否定した例が混在していますが、平成20年6月1日の義務化より後は認められる傾向にあります。割合は5%から30%の範囲です。ただし、着けていなかったことがけがの結果に影響していない場合や、相手方の過失が著しく大きい場合には否定されます。

妊娠していてシートベルトを着けられませんでした。

病気や妊娠のため、健康や治療の面から着けることが適切でないなど、法令上着けなくてよいとされる場合には、減額を否定する方向に働きます。医師の説明が分かるものがあれば、併せて用意してください。


同乗していて事故に遭われた方へ

同乗していて事故に遭われた方へ

弁護士に相談するときは、運転していた方との間柄が分かるもの、ご自身とご家族の自動車保険の証券、そして相手方の保険会社から届いた書面を用意してください。誰の保険から受け取れるのかが、間柄によって変わります。シートベルトのことを言われている場合は、同じ車に乗っていた方のけがの内容と治療期間も分かると、争いやすくなります。

本稿は、他人の運転する車に同乗していて事故に遭った方に向けて、一般的な考え方を整理したものです。減額されるかどうか、またその割合は、事故の状況や運転者との関係、けがの内容によって異なります。保険から受け取れる範囲は約款によって決まります。個別の事案については、保険証券などの資料に基づく検討が必要です。

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