決め手は就業規則の書き方ではなく、会社の指示の下に置かれていたかどうかです
始業時刻より前の着替えや朝礼、お客さんを待っている時間、夜勤の仮眠、会社の研修。会社から「仕事ではないから給料は出ない」と言われていても、それで決まるわけではありません。会社から義務付けられていたり、呼ばれればすぐに対応しなければならなかったりすれば、法律上の「労働時間」に当たります。労働時間に当たれば、その時間も給料を求められる時間として数えます。
反対に、本当に自由にしてよい時間であれば、職場にいても労働時間には当たりません。ここでは、最高裁判所の判断を手がかりに、どこで線が引かれるのかを場面ごとに見ていきます。
この記事の結論
- 労働時間かどうかは、就業規則の書き方ではなく、会社の指示の下に置かれていたと客観的にいえるかで決まると、最高裁判所が示しています。
- 始業前の制服への着替えや朝礼も、会社から義務付けられていたり、そうせざるを得なかったりすれば、常識的に見て必要な時間の範囲で労働時間に当たります。
- 何もしていない待機や仮眠の時間でも、電話や警報にすぐ対応するよう求められ、仕事から離れられる保障がなければ、労働時間に当たります。
- 研修や勉強会は、参加が義務付けられていたり、出ないと不利益があったりすれば労働時間に当たります。本当に自由参加であれば当たりません。
分かれ目は「会社の指示の下に置かれていたかどうか」
最高裁判所は、労働基準法上の労働時間を、働く人が会社の指示の下に置かれている時間(法律の言葉では「指揮命令下に置かれている時間」)と定義しています。当たるかどうかは、その人の行動を客観的に見て決まります。労働契約や就業規則、労働組合と会社の取決め(労働協約)に何と書いてあるかで決まるものではありません(最高裁判所平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁〔三菱重工業長崎造船所事件〕)。
つまり、就業規則に「着替えは勤務時間に含めない」と書いてあっても、それだけでは決まりません。実際に会社が着替えを義務付けていれば、その時間は労働時間に当たり得ます。
厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日に定められた、労働時間の適正な把握のための措置に関するもの。以下「ガイドライン」)も、同じ考え方に立っています。会社から義務付けられていたか、そうせざるを得なかったかなどの事情から、一つ一つ判断するとしています。
会社のはっきりした指示がなくても、労働時間になることがあります。決まった時刻の外で働いているのを、会社が知りながら止めなかった場合がその例です。仕事の量が多く、残業が当たり前になっていた場合もそうです。こうした場合には、黙って指示していた(黙示の指示)と認められることがあります。他方で、会社が知らないところで本人が勝手に仕事をしていた時間は、労働時間とは扱われません。
| 労働時間に当たりやすい場合 | 当たりにくい場合 | |
|---|---|---|
| 着替え・保護具の装着 | 決められた制服や保護具を、職場の更衣室などで身に着けるよう義務付けられている | 着替えるかどうかが本人の自由に任されている |
| 朝礼・点呼・体操・ミーティング | 参加が強制されている、出ないと不利益がある | 本当に自由参加である |
| 待機(手待ち) | 指示があればすぐに仕事に就かなければならない | 休憩として、仕事から離れることが保障されている |
| 夜勤の仮眠 | 仮眠室で待機し、警報や電話にすぐ対応する義務がある | 別の担当者が対応する体制で、仮眠中の人には実質的に対応する義務がない |
| 研修・勉強会 | 参加が義務付けられている、仕事に欠かせない、出ないと不利益がある | 参加するかどうかが自由で、出なくても不利益がない |
始業前の着替え・朝礼と終業後の後片付け
会社から義務付けられた着替えや準備は、常識的に見て必要な時間の範囲で、労働時間に当たります。先ほどの最高裁判所の事件では、造船所で働く人が、作業服と保護具を身に着けるよう義務付けられていました。しかも、それを決められた更衣所で行うよう定められていました。怠れば処分を受けたり、仕事をさせてもらえなかったりしたうえ、評価が下がって賃金が減ることもありました。
最高裁判所は、次の時間を労働時間に当たると判断しました。始業前の着替えと、更衣所から準備体操の場所までの移動の時間。それに、終業後に作業服などを脱ぎ終えるまでの時間です。
もっとも、同じ日に言い渡された同じ造船所の別の判決では、事業所の門から更衣所までの移動は労働時間に当たらないとされました。終業後の入浴なども同じです。入浴は会社から義務付けられておらず、入浴しなければ通勤が著しく難しいともいえなかったからです(最高裁判所平成12年3月9日第一小法廷判決・裁判集民事197号75頁)。同じ職場の中の行動でも、義務付けがあるかどうかで結論が分かれるわけです。
朝礼、点呼、ミーティング、職場の体操も同じ考え方です。参加を強いられていたり、出ないと不利益に扱われたりするなら、労働時間に当たります。本当に自由参加のものなら当たりません。ガイドラインは、会社の指示で行う職場での後片付け(清掃など)の時間も、労働時間として扱うよう求めています。

何もしていない待機の時間(手待ち時間)
仕事が来るのを待っている時間でも、指示があればすぐに仕事に就かなければならない状態なら、労働時間です。これを手待ち時間といいます。例えば、店員がお客さんの来店を待っている時間や、タクシーの客待ちの時間です。休憩時間に電話番や来客の当番を任されていれば、その時間も労働時間です。
本当の休憩時間とは、働く人が権利として仕事から離れられる時間をいいます。一人で給油所を任され、食事中でもお客さんが来れば中断せざるを得なかった事案があります。敷地の外に出ることもできませんでした。この事案で、休憩とされていた時間も労働時間に当たるとした裁判例があります。
住み込みのマンション管理員の例
マンションに住み込んで働く管理員について、最高裁判所が判断した例があります。会社は、決まった時間の外にも、照明の点灯や消灯、ごみ置場の扉の開け閉めを指示していました。住民からの求めにはその都度応じるよう、マニュアルにも書いていました。
判決は、平日については、朝7時から夜10時までの間を労働時間としました。昼の1時間の休憩は除かれます。管理員室の隣の居室で過ごしていた時間も、この中に含まれます。ただし、病院への通院や犬の散歩に使った時間は、仕事と関係のない私的な行為として差し引くべきだとしています。休日とされていた日曜日と祝日については、指示された仕事に実際に就いた時間だけが労働時間だとしました(最高裁判所平成19年10月19日第二小法廷判決・民集61巻7号2555頁)。何を指示されていたかで、同じ居室での時間の扱いが変わるわけです。
夜勤の仮眠時間
仮眠の時間であっても、警報や電話にすぐ対応する義務があれば、眠っている時間も含めて労働時間に当たります。ビル管理会社の技術系の従業員が、24時間勤務の途中に仮眠時間を与えられていた事案です。従業員は、仮眠中も持ち場の仮眠室を離れられませんでした。警報が鳴ったり電話が入ったりすれば、すぐに起きて対応しなければなりませんでした。
最高裁判所は、実際に起こされるのが何か起きたときだけでも、仮眠時間は労働時間に当たると判断しました。そうした事態がほとんど起こり得ないとまではいえません。そのため、仮眠の時間全体について、仕事から解放されていたとはいえない、という理由です(最高裁判所平成14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁〔大星ビル管理事件〕)。
反対に、仮眠中の対応の義務が形だけなら、労働時間とは認められません。警備員が複数で泊まり込み、仮眠をとる人とは別に起きている人が対応していた事案があります。仮眠中の人が実際に出動したこともありませんでした。この事案では、仮眠時間は労働時間に当たらないとされました(東京高等裁判所平成17年7月20日判決・労働判例899号13頁)。結論を分けたのは、勤務の体制と、実際にどのくらい対応を求められていたかという事実です。
労働時間に当たればいくら支払われるのか
大星ビル管理事件で最高裁判所は、労働時間に当たれば、通常は労働契約でも賃金を支払う時間とされていると考えるのが相当だとしました。ただ、この事件では、仮眠時間の対価としては泊まり勤務の手当を支払う約束だったと解釈しています。そのうえで、仮眠時間が法定の時間外労働や深夜労働に当たるなら、会社は労働基準法に基づいて割増賃金を支払う義務を負うと判断しました。
今の労働基準法では、法定の労働時間は原則として1日8時間・1週40時間です(第三十二条)。これを超えた分が、割増賃金の付く時間外労働です。
研修や勉強会の時間
研修や勉強会は、参加が業務として義務付けられていれば労働時間です。ガイドラインも、次の時間を労働時間として扱うよう求めています。参加が業務上義務付けられている研修や教育訓練を受ける時間。会社の指示で、仕事に必要な学習をしていた時間です。
出席が強制されておらず、本当に自由参加の研修なら、時間外に行われても労働時間にはなりません。ただし、建前は自由参加でも、事実上参加を強いられているときは別です。出なければ評価が下がる場合や、仕事を進めるうえで研修や資格の取得が欠かせない場合には、労働時間と認められることになります。勉強会への出席が前提とされ、賃金や賞与の査定にも関わっていたことから、その時間を労働時間とした裁判例もあります。
健康診断の時間は
年に一度の一般的な健康診断の時間は、当然に会社が賃金を負担すべきものとはされていません。労使で話し合って決めるものとされ、賃金を支払うことが望ましいとされています。これに対し、有害な業務に就く人が受ける特別の健康診断の時間は、労働時間です。時間外に行われれば、割増賃金の対象になります。
労働時間に当たる時間の数え方
労働時間に当たる時間が分かったら、その日の労働時間に足して数えます。合計が1日8時間又は1週40時間を超えた分が、割増賃金の付く時間外労働です。
会社の決めた勤務時間(所定労働時間)が8時間より短い職場では、所定の時間を超えても8時間に収まる分があります。これを法内残業といいます。法内残業の分には、法律上の割増はありません。賃金の額は就業規則などの定めによりますが、定めがなくても、通常の時間あたりの賃金は支払われるべきものとされています。
ただし、例外もあります。変形労働時間制が採られている職場では、時間外労働の数え方が変わります。また、一部の業種で常時10人未満の人を使う事業場には、1週44時間までとする特例があります(労働基準法施行規則第二十五条の二)。変形労働時間制については、別の記事「『うちは変形労働時間制だから残業代は出ない』と言われたら」で整理しています。
自分の場合について書き出すこと
どの場面でも、結論を分けるのは「会社から義務付けられていたか」「すぐに対応しなければならなかったか」という事実です。次のことを、できるだけ具体的に書き出しておいてください。
書き出しておくこと
- その行為(着替え、朝礼、待機、仮眠、研修)が、就業規則、マニュアル、上司の指示などでどう決められていたか
- しなかった場合にどうなったか(注意、処分、遅刻の扱い、査定への影響など)
- 待機や仮眠の間に求められていた対応(電話、警報、来客)と、実際に対応した回数
- その時間が毎日何時から何時までだったか
働いた時間を示す記録が手元にないときの集め方は、別の記事「タイムカードがなくても残業代は請求できるのか」で整理しています。
要点の整理
この記事で確かめたこと
- 労働時間かどうかは、就業規則の書き方ではなく、会社の指示の下に置かれていたかで客観的に決まる
- 義務付けられた着替えや朝礼は、常識的に見て必要な時間の範囲で労働時間に当たる
- 待機や仮眠も、すぐ対応する義務があり、仕事から離れられる保障がなければ労働時間に当たる
- 研修は、参加の義務付けや不参加の不利益があれば労働時間に当たる
- 労働時間に当たる時間は1日の合計に足し、8時間・40時間を超えた分に割増賃金が付く
よくある質問
始業前の朝礼は労働時間になりますか。
参加が強制されていたり、出ないと不利益に扱われたりするなら、労働時間に当たります。本当に自由参加のものなら当たりません。朝礼に出ないと遅刻扱いになる、注意を受けるといった事情があれば、書き留めておいてください。
制服への着替えの時間に給料は出ますか。
決められた制服や保護具を、職場の更衣室などで身に着けるよう義務付けられているとします。その場合は、常識的に見て必要な時間の範囲で労働時間に当たり、賃金の対象になります。着替えるかどうかが本人の自由なら、労働時間にはなりません。
仮眠時間なのに電話番を頼まれています。残業代は出ますか。
仮眠の間も電話や警報にすぐ対応する義務があるなら、眠っている時間も含めて労働時間に当たると、最高裁判所は判断しています。その時間が法定の時間外労働や深夜労働に当たれば、割増賃金の対象です。ただし、対応の必要がまず生じない体制なら、結論は変わり得ます。
休憩時間に電話番をしていました。休憩といえますか。
電話や来客があればすぐに対応しなければならない状態なら、休憩ではありません。手待ち時間として、労働時間に当たります。休憩といえるのは、仕事から離れることが権利として保障されている時間です。
就業規則に「着替えは労働時間に含まない」と書いてあります。もう無理でしょうか。
就業規則の書き方だけで決まるわけではありません。最高裁判所は、労働時間かどうかは、会社の指示の下に置かれていたと客観的にいえるかで決まるとしています。就業規則などの定めで決まるものではない、ということです。実際に着替えが義務付けられていたかどうかを確かめてください。

弁護士に相談するとき、用意しておくもの
弁護士に相談するときは、就業規則や業務マニュアルのうち手元にあるものと、給与明細を用意してください。問題の時間(着替え、朝礼、待機、仮眠、研修など)について、何を指示されていたか、しなかったらどうなったか、毎日何時から何時までだったかを書いたメモもあると役立ちます。指示が書かれたメールや掲示物の写しがあれば、それも持って行ってください。
本稿は、残業代の対象となる労働時間に当たるかどうかについて、一般的な考え方を整理したものです。実際の判断は、指示の内容、勤務の体制、職場の実態によって異なります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

