自営業の方の休業損害 ― 確定申告の所得だけで決まるわけではありません

オフィスで、机に向かって仕事をしている三人 交通事故

休業中も出ていく費用を加える。所得の変動が大きいときの考え方

自営業や個人事業主の方が交通事故で働けなくなったとき、休業損害の計算は会社員の場合より厄介になります。売上げも経費も月によって動きますから、事故が収入にどう響いたのかを、いくつもの資料から確かめる必要があるためです。

そのため、いくらをどう出すかで保険会社と衝突しやすい分野です。もっとも、押さえるべき骨組みは決まっています。この記事では、その骨組みと、申告の数字だけでは決まらない場面を整理します。

計算の骨組み

自営業の方の休業損害は、原則として、現実に収入が減った場合に認められます。求め方は次のとおりです。

基本の計算

  • まず、事故の前の所得に、加えられる固定経費を足す
  • その合計を365で割って、1日当たりの額を出す
  • その額に、休んだ日数を掛ける

土台になる年の数字は、確定申告書から拾います。大事なのは、そこで止まらないことです。

経費を足せる

仕事を休んでも支払が続く費用については、所得に加えて1日当たりの額を計算できる場合があります。休んでいる間も出ていくお金だからです。ここを足さないまま計算すると、金額が実際より低く出ます。

加えられるもの ― 休業中も出ていく費用と、青色申告特別控除

次の費目のうち、事業を維持するために要るもので、休業している間も支払を免れなかった部分は、固定経費として加えられることがあります。

固定経費の例

  • 店舗や事務所の家賃
  • 電話やインターネットの費用
  • 事業用の保険料
  • 設備や車両の減価償却費
  • 税金や公的な負担金、建物や設備の修繕費
  • 水道光熱費、団体の会費、研修の費用
  • 販売の促進にかかる費用、支払手数料
  • 取引先との付き合いのうち、冠婚葬祭の費用やお歳暮などの贈り物

もう一つ、見落とされやすいものがあります。青色申告で所得から差し引いた青色申告特別控除です。控除を差し引く前の額を土台にすべきだという考え方があるため、控除した分を加えて計算することがあります。

足すと、どれだけ違うか

前年の所得が400万円、固定経費が50万円、青色申告特別控除が65万円という事案であれば、土台になる額は合計515万円です。これを365で割ると、1日当たり約1万4110円になります。所得の400万円だけで計算すると約1万959円ですから、1日当たり約3151円の差が積み上がっていきます。

机が並んだ事務所の様子
休んでいる間も出ていく費用は、計算に組み入れられます。

前年の所得を使うのが適切でないとき

前年の所得金額を使うのが、いつも正解とは限りません。

前年だけが特に好調あるいは不調だった場合には、数年間の実績をならして1日当たりの額を求める方法も検討されます。

申告した所得をそのまま使えない場合、たとえば赤字だった方や開業して間もなく事故に遭った方については、国の賃金の統計(賃金センサス)を参考にすることもあります。前年の所得がゼロに近いからといって、休業損害がゼロになるわけではありません。

「減収がない」と言われたときの三つの主張の形

保険会社から、「事故の前年と事故のあった年の所得がほぼ同じであるため、休業損害は認められない」と反論されることがあります。

確定申告の数字だけでは、事故による影響を測れない場合があります。こうした反論に対する主張の形として、次の三つがあります。

一 ご家族が代わりに事業を回していた

ご親族が本人に代わって事業を維持していた場合には、事故の後の所得を実質的にその方の働きによるものととらえ、本人の休業損害を認める余地があります。どなたが、いつから、どこまで担っていたのかを具体的に示していくことになります。

二 事故の前に受けた仕事をこなしていただけ

事故の後に仕事の量を増やせず、事故の前に受注していた仕事だけを続けていた、という場合です。このような事情があるときに、一定の休業損害を認める余地があるとした裁判例が紹介されています。

三 年ごとの所得の変動が大きい

もともと年によって所得が大きく動く事業では、事故の後に減収が出ていないのが、本当に収入が失われていないからなのか、それとも別の要因によるものなのかを見分けるのが難しくなります。こうした事案について、算定した休業損害のうち一定の割合を認めた裁判例が紹介されています。その裁判例は、事故前3年の申告額に固定経費を加えた額を土台にしていますので、複数の年を見ることも許されていることになります。

争いになりやすいが、諦める分野ではない

自営業の方の休業損害は、論点が多く、示すのに手間がかかります。ですから、保険会社が主張どおりの額を簡単に認めない傾向にあります。

もっとも、この分野には裁判例が数多くあります。土台の額の出し方も、前年の所得だけが正解というわけではありません。事案に合わせて、複数の年の平均を使うのか、統計を使うのか、固定経費をどこまで足すのかを慎重に検討し、資料をそろえて示していけば、認められる余地はあります。

まず、事故の前の数年分の確定申告書、帳簿、経費の内訳を確かめてください。これらがそろっていれば、前年の所得、数年間の平均額、固定経費のどれを計算に用いるべきかを検討しやすくなります。

よくある質問

自営業の休業損害は、どう計算するのですか。

まず、事故の前の所得に、加えられる固定経費を足します。その合計を365で割って1日当たりの額を出し、それに休んだ日数を掛けて求めます。

確定申告の所得の額だけで決まるのですか。

決まりません。事業を維持するために要る費用で、休業している間も支払を免れなかった部分は、加えられることがあります。また、青色申告特別控除については、控除を差し引く前の額を土台にすべきだという考え方があるため、控除した分を加えて計算することがあります。

どんな費用を加えられますか。

たとえば、店舗や事務所の家賃、電話やインターネットの費用、事業用の保険料、設備や車両の減価償却費、税金や公的な負担金、建物や設備の修繕費などです。事業を維持するために要るもので、休業している間も支払を免れなかった部分が対象になります。

赤字だった年に事故に遭いました。請求できませんか。

できないとは限りません。申告した所得をそのまま使えない場合には、国の賃金の統計(賃金センサス)を参考にすることもあります。

所得が年によって大きく動きます。前年の数字で決まってしまうのですか。

そうとは限りません。前年だけが特に好調あるいは不調だった場合には、数年間の実績をならして1日当たりの額を求める方法も検討されます。

「所得が減っていないから休業損害はない」と言われました。

確定申告の数字が動いていない理由を示していくことになります。ご親族が代わりに事業を維持していた場合、事故の後に仕事の量を増やせず前に受注した分だけを続けていた場合、年ごとの所得の変動が大きい場合について、一定の休業損害を認める余地があるとした裁判例が紹介されています。


自営業で事故に遭われた方へ

自営業で事故に遭われた方へ

事故の前年とその前の数年分の確定申告書、経費の内訳が分かる帳簿をご用意ください。あわせて、休んでいた間に誰が仕事を回していたか、新しい仕事を受けられなかった事情があるかを書き留めておいてください。土台の額の出し方は、その事情によって変わります。

本稿は、自営業や個人事業主の方が交通事故に遭われた場合の休業損害について、一般的な考え方を整理したものです。挙げた金額は計算の例であり、実際の額は、所得の状況、経費の内容、休業の期間によって異なります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

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