むちうちで14級9号 ― 逸失利益は「5年分」で決まりなのか

医療従事者が資料を確認している場面 交通事故

労働能力喪失期間の考え方と、5年を超えて認められた事案の見方

むちうちで後遺障害の14級9号が認定され、保険会社から示された賠償額を見ると、逸失利益(将来の収入が減ることへの補償)が「5年分」で計算されている。まだ痛みが残っているのに、なぜ5年なのか。そう疑問に思われるのは自然なことです。

この5年という数字は、法律に書かれた決まりではありません。多くの裁判例がその程度に制限してきたという、実務の目安です。もっとも、目安であるということは、動かすには理由が要るということでもあります。この記事では、その仕組みと、実際に5年を超えて認められた事案の見方を整理します。

そもそも、何年分が原則なのか

逸失利益は、後遺障害が残ったために働く力が落ち、将来の収入が減ることへの補償です。ですから「いつからいつまでの分か」という期間を決める必要があります。

この期間は、症状固定の日から数え始めます。症状固定とは、治療を続けても症状の改善が見込めないと判断された状態のことです。期間の終わりは、67歳とするのが原則です。事故のときにまだ年少で働き始めていない方は原則として18歳から、大学に進むことを前提とする場合は大学を出るときから数えます。67歳を過ぎている方の場合は、簡易生命表という統計であと何年生きるかの見込みを出し、その半分を期間とします。

むちうちでは短く認定される例が多い

ところが、むちうち(外傷性頚部症候群など)の場合は、この原則どおりにはなりません。12級なら10年ほど、14級なら5年ほどに短く認定される例が目立ちます。年月が経つにつれて症状が消えたり軽くなったりすることが見込まれる、という理由からです。

「5年」は基準ではなく、目安である

働く力が低下する期間をどこまで賠償に含めるかについて、むちうちの14級では5年前後、12級では10年前後とする裁判例が多くあります。ただし、具体的な症状によって認められる期間は変わります。

つまり、5年は出発点の目安であって、そこから動かないと決まっているわけではありません。期間をどうするかは、その方の症状や仕事への影響など、個別の事情を基に判断されます。5年で区切るのが妥当でないという具体的な事情を示せれば、それより長い期間が認められる可能性はあります。

ただし、正直に申し上げると、むちうちの14級9号で5年を超える期間が認定された例は多くありません。反対に、5年より短い期間(例えば3年)とされた例もあります。5年という数字は、被害者の側から見て有利にも不利にも動き得るものだとお考えください。

5年を超えて認められた事案は、何が違ったのか

数は少ないものの、5年を超える期間を認めた裁判例はあります。その事案の内容を見ておくと、どのような事情が検討の材料になり得るのかを考える手がかりになります。

7年と認めた事案

首と腰の痛みでそれぞれ14級9号が認定され、併せて14級とされた男性の事案です。判決が何を重くみたのかは、判文からは明らかではありません。もっとも、この裁判例を取り上げた書籍は、勤め先で現場の仕事に従事していたこと、日常的に腰痛があってコルセットを手放せなかったことが重くみられた可能性を指摘しています。

15年と認めた事案

信号待ちで停まっているところに追突された女性の事案です。判決は、症状固定から約9年10か月が経った時点でも症状が和らいだ様子がうかがわれないことを挙げ、そこからさらに約5年、合計15年としました。症状固定から長い年月を経た時点でも症状が緩和した様子がうかがわれなかったことが、判断の材料となりました。

示す価値のある事情

  • 仕事の内容と、症状が仕事にどう差し支えているか
  • コルセットなど、体を支える器具を使い続けていること
  • そのほか、通院や投薬の経過を確認できる資料
  • 症状固定の後も症状が和らいでいないことを具体的に説明できる事情
  • 事故そのものの大きさ(車の壊れ方など)
肩や首の動きを確かめている診察の様子
「まだ痛い」という説明にとどめず、「いつから、何をするときに、どのような支障があるか」を具体的に整理しておくと、事情を説明しやすくなります。

交渉で通るか、裁判まで行くか

5年を超える期間は、示談交渉の段階では保険会社に認められる例が少ないと考えられます。ですから、「主張すれば延びます」と申し上げることはできません。見通しを甘く見積もらないことが、かえってご本人のためになります。

裁判を起こすかどうかを考えるときは、逆の見方も必要です。交渉の段階で5年が前提になっているのであれば、裁判では5年より短くされる事情がないかどうかも、併せて確かめておく必要があります。5年より長い期間を求めて裁判を起こした結果、かえって5年より短い期間と判断される可能性もあるためです。

仕事や生活にどう差し支えているかを記録しておくことは、事情を具体的に説明するための材料になります。裏づけとなる資料があるかどうかも、交渉や裁判の見通しを考えるうえでの材料の一つです。

よくある質問

むちうちの14級9号だと、逸失利益は必ず5年分になるのですか。

いいえ。5年は法律上の決まりではなく、多くの裁判例がその程度に制限してきたという実務の目安です。労働能力を失う期間は、具体的な症状に応じて判断されます。

逸失利益の期間は、本来は何年までなのですか。

症状固定の日から67歳までが原則です。事故のときにまだ年少で働き始めていない方は原則18歳から、大学に進む前提の場合は卒業時から数えます。67歳を過ぎている方は、簡易生命表であと何年生きる見込みかを出し、その半分を期間とします。

なぜ、むちうちだけ短くされるのですか。

年月が経つにつれて症状が消えたり軽くなったりすることが見込まれる、という考え方によります。そのため、12級なら10年ほど、14級なら5年ほどに短く認定される例が目立ちます。

5年を超えて認められた例はありますか。

あります。7年とした事案と、合計15年とした事案があります。前者について判決が何を重くみたのかは判文からは明らかではありませんが、書籍は現場での仕事の内容やコルセットを手放せなかったことが重視された可能性を指摘しています。後者は、症状固定から約9年10か月を経ても症状が和らいだ様子がうかがわれないことから、さらに約5年を加えたものです。もっとも、こうした例は多くありません。

5年より短くされることもありますか。

あります。例えば3年とされた例もあります。期間は事情次第で上にも下にも動きますので、裁判を検討する際は、短くされる事情がないかも併せて確かめる必要があります。


5年分の提示を受けた方へ

5年分の提示を受けた方へ

まず、後遺障害の認定票と保険会社から届いた賠償額の一覧をご用意ください。併せて、仕事のどの場面で困っているか、コルセットなどの器具や投薬を続けているかを書き留めておいてください。これらの事情や資料は、5年と異なる期間を主張できるかどうかを検討するための材料になります。

本稿は、むちうちで後遺障害14級9号が認定された方に向けて、逸失利益の期間についての一般的な考え方を整理したものです。実際の判断は、症状の内容、仕事への影響、治療の経過などによって異なります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

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