損害賠償命令の申立手数料は2000円、審理は原則4回以内
犯罪の被害に遭ったときは、刑事裁判に参加する制度と、加害者に賠償を求める制度を分けて検討します。対象になる事件や、申出の時期が異なるためです。
どちらにも制度があります。刑事裁判の手続に加わる被害者参加の制度と、その刑事裁判をした裁判所に賠償の判断までしてもらう損害賠償命令の制度です。特に後者は、手数料が一律2000円、審理は原則として4回以内と、負担を軽くする工夫が置かれています。この記事では、この二つを順に説明します。
この記事の結論
- 故意に人を死傷させた罪や性犯罪などの被害者は、検察官に申し出て裁判所の許可を得れば、刑事裁判に参加して被告人に質問などができます。
- 損害賠償命令は、刑事裁判をした地方裁判所に賠償の判断までしてもらう制度で、手数料は2000円、審理は原則として4回以内です。
- 損害賠償命令は弁論の終結までに申し立てる必要があります。過失運転致死傷罪など過失による交通事故の事件では使えませんが、危険運転致死傷罪は対象です。
- 決定に異議が出ると通常の民事訴訟に移り、申立ての際に裁判地を指定していなければ、加害者の住所地を受け持つ裁判所で審理されます。
被害者参加の制度 ― どういう事件で使えるのか
刑事の裁判に被害者の側が加わる仕組みは、刑事訴訟法第三百十六条の三十三から第三百十六条の三十九までに置かれています。対象の犯罪は決まっており、どの事件でも参加できるわけではありません。
対象になる事件
- 人を死なせたり傷つけたりした罪のうち、わざとした行為によるもの
- 性的な自由を侵す罪(刑法第百七十六条、第百七十七条及び第百七十九条)
- 仕事の上の不注意などで人を死なせたり傷つけたりした罪(刑法第二百十一条)
- 逮捕又は監禁の罪(刑法第二百二十条)、略取・誘拐や人身売買などの罪(刑法第二百二十四条から第二百二十七条まで)
- 二つ目から四つ目までに挙げた罪の犯罪行為を含む罪
- 自動車の運転で人を死なせたり傷つけたりした行為についての罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の第四条、第五条、第六条第3項及び第4項)
- 一つ目から五つ目までに挙げた罪の未遂罪
被害者本人とその法定代理人が申し出られます。配偶者、直系の親族、兄弟姉妹にも申出が認められる場合があります。親族が申し出るには、本人の死亡、又は心身の重大な故障という事情が必要です。これらの方が委託した弁護士も申出を行えます。
申出は検察官へ早めに
申出の相手は、裁判所ではありません。まず検察官に対して行います。形式は書面でも口頭でも構いません。
時期に上限はありません。起訴された後なら、裁判が続いている限りいつでも申し出られますし、控訴や上告の段階から加わることもできます。それでも早く動くべき理由があります。許可を得るのが遅れると、裁判の前段の整理がどこまで進んでいるのかについて検察官と打合せをする機会も、その分だけ遅れてしまうのです。加わる見込みがあるなら、早い段階で申し出ておいてください。
申出を受けた検察官は、自分の意見を添えて裁判所へ回します。裁判所は、被告人や弁護人の言い分も聴いたうえで、犯罪の性質や、被告人との関係などの事情を考えて、加わってもらってよいかを判断します(刑事訴訟法第三百十六条の三十三第1項)。実務では、その事情として、法廷が荒れないか、犯罪の証明の妨げにならないか、被告人が身を守るうえで不利にならないか、といった点が見られます。
| 制度 | 目的 | 申出・申立て |
|---|---|---|
| 被害者参加 | 刑事裁判に参加して質問や意見陳述をする | 検察官に申し出る |
| 損害賠償命令 | 対象の刑事事件について賠償の判断を求める | 係属する地方裁判所へ弁論終結までに申し立てる |
参加すると何ができるのか
弁護士に委託する場合の委託事項を並べると、この制度で何ができるのかが見えてきます。
できること
- 公判期日に出席すること
- 検察官がその権限をどう使うかについて、こちらの考えを伝え、必要に応じて、その対応の理由の説明を受けること
- 証人に尋問すること
- 被告人に質問すること
- 弁論として意見を述べること
ここで、思い描いていたものと実際が食い違いやすい点を先に申し上げます。証人に問える範囲は、二重に絞られています。第一の絞りは、犯罪そのものの事実は対象外で、刑をどう決めるかに関わる事柄に限られるという点です。しかも、その中でも、示談がまとまっているか、謝罪があったか、といった周辺の事情は入りますが、なぜその犯行に至ったのか、何を狙っていたのかという中核の部分は入っていません。第二の絞りは、その事柄のうち、既にされた証言の信用性を争うために必要な事項に限られるという点です。ですから、「どうしてこんなことをしたのか」を証人に問い詰める場ではない、ということになります。
被告人本人への質問についても枠があります。後で述べる二種類の意見を述べるために必要だと言える範囲で、しかも行き過ぎない程度において認められる、という建て方です。
二つの「意見陳述」は性質が違う
混同されやすいので、はじめに整理します。一方は、被害を受けた側の気持ちや心境を述べるもので、刑事訴訟法第二百九十二条の二に置かれています。こちらは、刑の重さを決める材料として扱われます。例外として、書面を出す形で済ませられる場合もあります。
他方は、弁論として意見を述べるもので、被害者論告と呼ばれています。証拠を調べ終え、検察官が意見を述べた後に、こちらが起訴された事実の枠の中で述べます。位置付けは、あくまで主張です。ですから、これ自体が証拠になることはありません。また、書面を出して済ませることもできません。
なお、この弁論では、どれだけの刑にすべきかについても述べられます。起訴された事実に対して法律が定めている刑の幅の中に収まっていれば、検察官が述べた重さより重い内容を述べても差し支えありません。
法廷での負担を軽くする手立ても用意されています。付添いの人を置くこと、被告人や傍聴人との間に仕切りを設けることができます。なお、被害者参加人が法廷の外の場所から映像と音声でつないで公判期日に加わる方法は、今の法律には定めがありません。令和7年の法改正(令和7年法律第三十九号)で、この方法を認める定め(刑事訴訟法第三百十六条の三十四第5項)が設けられ、令和9年3月31日までの間で政令が定める日から使えるようになる予定です。
損害賠償命令は刑事記録を利用する
ここからが、多くの被害者にとって切実な、賠償の話です。
この制度は、刑事の裁判をしている裁判所に、賠償の判断まで担ってもらうものです。被害を受けた側が被告人に対する賠償の申立てをしておくと、その裁判所は、有罪を言い渡した後、賠償についても審理して決定を出せます。根拠は、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法と略されます)の第七章に置かれています。
この制度の値打ちは、刑事の手続で積み上がったものを土台にできるところにあります。刑事事件を担ってきた裁判所が、その訴訟記録を自ら取り調べてくれるのです。被害の事実を示す負担は、これで大きく軽くなります。

負担を軽くする工夫
- 申立ての手数料は、一律2000円(収入印紙)
- 審理の期日は、特別の事情がある場合を除いて4回以内で終結
- 口頭弁論を経ずに、審尋という方法で審理することもできる
- 裁判は、適法な異議の申立てがなければ確定判決と同じ効力を持つ
- 仮執行の宣言を付けることもできる
審尋によって審理する場合、その手続は公開されません。相手方と顔を合わせることへの不安がある場合は、進め方を弁護士に相談してください。
審尋は、裁判所が当事者の言い分を聴くなどして審理する方法です。仮執行の宣言は、裁判が確定する前にも、差押えなどによって支払を実現する手続へ進めるようにする定めです。
使えない事件と間に合わない時期
使い勝手のよい制度ですが、範囲と時期に制限があります。ここを外すと使えません。
まず対象です。被害者参加の制度の対象事件のうち、刑法第二百十一条の罪(業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪)と、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の過失の罪(過失運転致死傷罪など。同法第四条、第五条、第六条第3項及び第4項)は除かれています。つまり、過失による交通事故の事件では、この制度は使えず、通常の民事の手続で請求することになります。これに対し、危険運転致死傷罪は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪に当たるため、対象になります(犯罪被害者保護法第二十四条第1項第1号)。
次に時期です。申立ては、その被告事件が係属している裁判所に対してしなければならず、その裁判所は地方裁判所に限られます。そして、弁論が終結するまでに申し立てる必要があります。控訴審や上告審から申し立てることはできません。
ですから、刑事の裁判が始まってから弁護士に相談するのでは、間に合わないことがあります。被害者参加の申出と併せて、早い段階で検討しておくべきものだとお考えください。
弁論終結は、刑事裁判で証拠調べや検察官・弁護人などの意見陳述を終え、判決前の審理を締めくくる時点です。判決を待ってから申し立てると間に合わないため、裁判の日程を確認してください。
進み方 ― 有罪の言渡しの直後から
有罪の言渡しがあれば、裁判所は原則として、そのまま間を置かずに賠償の審理の期日を開かなければならないとされています。刑事の判決を聞いた足で、そのまま賠償の話に入る、という運びです。
第1回の期日で、申立てをした側が、損害の中身を具体的に述べ、これを示す証拠を出します。述べて、証拠を出して、裁判所が必要な範囲で調べて判断する。この流れそのものは、普通の民事の裁判と変わりません。
違うのは、最初の期日について、刑事の訴訟記録を裁判所が自ら取り調べることが定められている点です。そこへ、刑事事件を担ってきた裁判所がそのまま賠償の審理を担うという事情が重なります。刑事の審理を通じて裁判所が抱いた見方が、賠償の審理へそのまま持ち込まれるのです。被害の事実を示す負担が軽くなるのは、この二つが噛み合っているからです。
異議が出されたら通常の民事訴訟に移る
決定に不服がある場合、当事者の双方が、決定書の送達を受けた日、又は口頭で告知された日から2週間のうちに、異議の申立てをすることができます。
異議が適法に出されると、出された判断は効力を失います。ただし、後で述べる仮執行の宣言が付いている部分は例外です。そして、損害賠償命令の申立てをした時に、普通の民事の訴えが起こされていたものとして扱われます(犯罪被害者保護法第三十九条第1項)。こちらが出した申立書が訴状の代わりになり、その送達も訴状を送ったものと扱われる、という形です。ですから、賠償を認める判断が出ても、相手が異議を出せば、普通の民事の裁判を続けることになります。
裁判地を指定しないと遠方の裁判所に移ることがある
実務で最も注意を要する点を申し上げます。通常の民事の訴訟に移る場合、どの裁判所で審理されるのかは、申立てをするときにあらかじめ指定しておいた裁判地によって決まります。ただし、どこでも自由に選べるわけではありません。その請求について民事の訴訟を起こす場合に選べる土地の中から指定する、という仕組みです。
この指定をしていないと、相手方、つまり加害者の住所地を管轄する裁判所へ自動的に移ってしまいます。遠方の裁判所で手続が進むことがあるため、負担も考えて裁判地を検討してください。申立ての段階で、指定できる裁判地と指定の要否を確認します。
なお、仮執行の宣言については扱いが違います。相手が異議を出しても、この宣言は効力を保ちます。ここは、被害を受けた側にとって大きな意味を持つところです。
申立てが却下される場合
使えない場面もあります。次に挙げる場合、裁判所は申立てを退けることになります。見込みを立てるうえで押さえておいてください。
却下される場合
- 申立てそのものが法の要件を欠いていると認められた場合
- 事件の移送や併合が行われた結果、刑事の裁判が地方裁判所ではない裁判所で審理されることになった場合
- 刑事の裁判が、管轄違い、無罪、免訴、公訴棄却の判決や決定、あるいは家庭裁判所へ移すという決定で終わった場合
- 有罪とされた罪が、この制度の対象に入っていなかった場合
三つ目からお分かりのとおり、この制度は有罪の言渡しがあることを前提としています。無罪となれば、この手続では判断してもらえません。その場合は、改めて通常の民事の訴訟を検討することになります。
費用のこと
最後に、費用について触れておきます。
一定の要件を満たす場合、被害者参加の弁護士については、国が費用を負担する仕組みがあります(国選被害者参加弁護士)。この場合、報酬と費用の支払は法テラスが担当します。
ただし、この仕組みで賄われる仕事の範囲には限りがあります。加害者側との示談のやり取り、この記事で説明してきた賠償の申立て、報道機関への対応といったものは、その範囲の外にあります。
これとは別に、令和8年1月13日から、犯罪被害者等支援弁護士制度(法テラスの犯罪被害者等法律援助)が始まっています(総合法律支援法第三十条第1項第九号)。同日以降に被害に遭った方が対象です。対象になる罪は、故意の犯罪行為で人を死亡させた罪(未遂を含む)、不同意性交等や不同意わいせつなどの性犯罪(この二つは未遂を含みます)、故意の犯罪行為で負傷し治療期間が3か月以上となった場合や障害等級第1級から第14級に当たる後遺障害が残った場合などです。
援助を使えるかは資産の額でも決まります。原則の基準額は300万円です。本人の資産だけでなく、配偶者の分も合算して、この額以下かを確かめます。対象になる資産には、現金や預貯金、株式などがあります。配偶者自身が加害者であるなど、配偶者分を含めない取扱いもあります。
被害に伴う療養費等のうち、今後1年間で必要と認められる費用は、資産の計算から控除する取扱いがあります。被害に関する給付金にも、計算に入れないものがあります。金額だけで判断せず、控除の対象を確認してください。
この援助で弁護士に任せられる仕事には、警察・検察庁への同行や、賠償請求、示談の交渉も含まれます。原則無料ですが、賠償金や支払を命じる判決などを得た場合や、実費が所定額を超えた場合には、費用負担が生じることがあります。
どちらの仕組みも使えないときに、示談のやり取りや賠償の申立てを頼むのであれば、別に報酬が必要になります。この点は、依頼をする前にはっきり確かめておいてください。何がどの仕組みで賄われ、何が別になるのか。ここを曖昧にしたまま進めると、後で費用について行き違いが生じます。
要点の整理
制度を選ぶときに確かめること
- 被害者参加と損害賠償命令は、目的と対象事件を分けて確認します。
- 刑事裁判で申立期限を確かめ、相手方が異議を出したときの民事訴訟も検討します。
- 弁護士費用の援助は、対象となる被害、資力、援助される仕事の範囲を確認します。
よくある質問
刑事の裁判に、被害者として出ることはできますか。
対象になる事件であれば、加わりたいという申出ができます。対象となる罪名を本文の一覧で確認してください。申出の相手は裁判所ではなく検察官で、書面でも口頭でも構いません。起訴後、刑事裁判が続いている間に申し出られますが、早めに検討してください。
加害者に賠償させるには、別に民事の裁判を起こさなければなりませんか。
対象になる事件であれば、刑事の裁判をした裁判所に賠償の判断までしてもらう損害賠償命令の申立てができます。手数料は一律2000円で、審理は原則として4回以内です。刑事の訴訟記録が職権で取り調べられますので、立証の負担も軽くなります。
交通事故の事件でも、損害賠償命令の申立てができますか。
過失運転致死傷罪など、過失による交通事故の事件ではできません。業務上過失致死傷罪や重過失致死傷罪、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の過失の罪は、この制度の対象から除かれているためです。その場合は、通常の民事の手続で請求することになります。これに対し、危険運転致死傷罪は故意の罪として対象になります。
いつまでに申し立てればよいですか。
その刑事事件を審理している地方裁判所に対して、弁論が終結するまでに申し立てる必要があります。控訴審や上告審から申し立てることはできません。刑事の裁判が進んでから相談すると間に合わないことがありますので、早めに検討してください。
加害者が異議を出したら、どうなりますか。
仮執行の宣言が付けられたものを除いて裁判の効力が失われ、通常の民事の訴訟が提起されたものとみなされます。このとき、申立てのときに裁判地を指定していないと、加害者の住所地の裁判所へ移ってしまいますので、申立ての段階で、指定の要否を確認してください。
弁護士の費用はどうなりますか。
一定の要件を満たす場合、被害者参加の弁護士について国が費用を負担する仕組みがあり、報酬と費用の支払は法テラスが担当します。ただし、加害者側との示談のやり取りや賠償の申立てなどは、その範囲の外です。令和8年1月13日以降の被害で、故意に人を死亡させた罪や性犯罪などに当たり、資力の要件を満たす場合は、示談交渉や損害賠償の請求も含めて原則無料で弁護士の援助を受けられる犯罪被害者等支援弁護士制度があります。依頼の前に、どの仕組みが使えるかと費用の範囲を確かめてください。

弁護士に相談するときに持って行くもの
弁護士に相談するときは、警察や検察庁から受け取った書面、担当の検察官の名前と連絡先、事件の番号が分かるものを用意してください。加害者が起訴されたのかどうか、起訴されたのならどの裁判所で審理されているのかも、分かる範囲で整理しておいてください。あわせて、けがの治療にかかった費用、休んだ期間、壊された物など、被った損害を書き出しておいてください。損害賠償命令の申立てには時期の制限がありますので、裁判の日程が分かる書面も先にそろえておいてください。
本稿は、犯罪の被害に遭った方が刑事の手続に加わる制度と、損害賠償命令の制度について、一般的な考え方を整理したものです。使える制度は事件の罪名や手続の進み具合によって異なり、認められる賠償の範囲も事案によって変わります。個別の事案については、資料に即した検討が必要です。

