外貌醜状は、逸失利益と慰謝料の二つを並べて考えます
事故で顔に傷跡が残り、後遺障害の重さを示す等級が認定された。ところが賠償額の提示を見ると、事故がなければ将来得られたはずの収入の減り(逸失利益)が入っていない。理由は「傷跡が残っても働く力が落ちたわけではない」というものだった。毎朝、鏡を見るたびに気持ちが沈むのに、それは損害ではないのか。
顔や首など、人目に触れる部分に傷跡が残る後遺障害を、実務では外貌醜状と呼びます。この後遺障害は、痛みや動きの制限とは違って、そのまま働く力の低下に結び付きにくいため、金額の立て方が争いになりやすいところです。この記事では、逸失利益と慰謝料の二つに分けて整理します。
外貌醜状とは、どういう後遺障害か
外貌醜状というのは、顔や首といった、服で覆われず人の目に入る箇所に、傷の跡が残ってしまう後遺障害です。線状の傷跡、あざ、へこみなどがこれに当たります。
自賠責保険の等級は、傷跡の程度に応じて三つに分かれます。いちばん重いのが7級12号で、外貌に著しい醜状が残ったと評価される場合です。次が9級16号で、相当程度の醜状が残ったと評価される場合。そして12級14号が、醜状が残ったと評価される場合です。
争いになりやすい理由
むちうちの痛みや関節の動きの制限であれば、仕事に差し支えることが説明しやすいところです。ところが、痛みやしびれといった症状を伴わない傷跡の場合、仕事の面でどう困っているのかが数字に表れにくい。だから、逸失利益をいくらと見るのかが争いになりやすくなります。保険会社から「等級どおりの割合では認められません」と言われるのは、この理由からです。
逸失利益を判断する四つの見方
外貌醜状について逸失利益が認められるかどうかは、次の四つを踏まえて判断されます。
考慮される事情
- 事故のときの仕事と、事故の後の仕事
- 実際に収入が減っているかどうか
- 今の仕事の種類と本人の年齢からみて、これから配置が変わったり職を移ったりする場面で不利になるか
- 傷跡の場所、内容、程度
裁判例では、事故のときの職業、事故の後の職業、将来の転職の可能性が、働く力を失ったかどうかの判断で重視されています。傷跡の場所や程度も踏まえて、働く力が失われたかどうかとその程度が判断されます。
請求する側は、まず等級どおりの割合から始める
この記事で参照した本では、被害者の側から請求する段階では、等級に応じた通常の割合を基礎として計算する方法が説明されています。7級であれば56%、9級であれば35%、12級であれば14%です。保険会社からは「減収が示されていないので、この割合ではない」と反論が来ますが、そこから四つの見方に沿って具体的な事情を述べていく、という順番になります。
認められた事案を、四つの見方ごとに並べる
どういう事情があれば認められるのか。裁判例を見方ごとに挙げます。ご自身に当てはまるものがあるかどうかを確かめてください。
参考・仕事の内容が関わった事案
- 東京高等裁判所平成28年12月27日判決・交通事故民事裁判例集49巻6号1335頁。舞台俳優と衣料品店の店員をしていた男性の顔面12級14号について、働く力が5%落ちたものとして、その影響が42年間続くと判断し、逸失利益を認めた(治療を続けても症状の大きな改善が見込みにくくなった時点、いわゆる症状固定のときに25歳)
- 神戸地方裁判所平成28年10月26日判決・交通事故民事裁判例集49巻5号1264頁。地方公共団体の嘱託職員などとしてカウンセリングの仕事をしていた兼業主婦(事故時37歳)の顔面9級16号について、喪失率25%、喪失期間29年の逸失利益を認めた
参考・職場での扱いが変わった事案
- 東京地方裁判所平成27年2月13日判決・交通事故民事裁判例集48巻1号231頁。営業の仕事をしていた男性(症状固定時40歳)の事案。顔の傷跡9級16号のほか、右手首、左膝の痛み、左膝の手術跡などの後遺障害もあり、全体として8級と認定された事案で、上司や顧客から傷跡を指摘されたこと、外回りの営業から内勤に変わったこと、人事の評価が下がったこと、収入が減ったことなどを踏まえ、併合8級全体について働く力が20%落ちたものとして、27年分の逸失利益を認めた
参考・将来への影響が考えられた事案
- 東京地方裁判所平成23年3月29日判決・判例タイムズ1375号164頁。営業を担当していた女性(症状固定時58歳。後に転職)の事案。顔の傷跡7級12号と嗅覚の障害12級があり、全体として6級と認定された事案で、転職を余儀なくされたことなどを考慮し、併合6級全体について働く力が30%落ちたものとして、11年分の逸失利益を認めた
- 名古屋地方裁判所平成24年11月27日判決・交通事故民事裁判例集45巻6号1370頁。小学生の女児(症状固定時12歳)の顔面12級について、進学先や職の選び方、働き始めた後の扱いの面で不利を受けるおそれは否めないとして、働く力が5%落ちたものとして、49年分の逸失利益を認めた
参考・傷跡の場所と程度が関わった事案
- 名古屋地方裁判所平成26年5月28日判決・交通事故民事裁判例集47巻3号693頁。空港のラウンジで接客の仕事をしていた女性(症状固定時33歳)について、化粧をしても正面から見てそれと分かる、右の頬から右の耳に至る9センチメートルの線状の跡などで9級16号とされた事案で、喪失率35%、喪失期間34年の逸失利益を認めた
並べてみて分かること
人と接する仕事や、容姿が仕事の内容に関わる仕事では、認められやすい傾向にあります。また、実際に収入が減っている場合や、配置が変わった、役職が下がったといったこれに近い状況がある場合も、認められやすくなります。また、年齢が若く、将来の進学や就職、転職への具体的な影響が見込まれることを、有利な事情として考慮した裁判例もあります。傷跡が髪や衣服で隠せるかどうかも見られる点です。
逸失利益が認められないとき、慰謝料はどうなるか
逸失利益が認められなかった場合には、後遺障害慰謝料を増額して認めた裁判例が多くあります。また、逸失利益を減らして認めた場合に増額した例もあります。参照した本では、数十万円から200万円程度を増額した裁判例が紹介されていますが、金額は個別の事情によって変わります。
参考・傷跡を考慮して慰謝料を認め、又は増額した裁判例
- 大阪地方裁判所平成27年7月17日判決・自保ジャーナル1956号60頁。顔の傷跡で9級とされた37歳の会社員の事案。逸失利益を認めないことを踏まえ、9級の目安である690万円を上回る900万円の後遺障害慰謝料を認めた(以下の裁判例には、顔や首ではなく脚に残った傷跡についてのものも含めています)
- 千葉地方裁判所平成24年8月28日判決・自保ジャーナル1882号137頁。ほかの後遺障害に対する慰謝料へ、傷跡の分として150万円が加えられました。本人は22歳の大学生で、開放骨折の後、左のすねと太ももに傷跡が残り、12級とされた事案です。働く力そのものへの影響は否定されました
- 東京地方裁判所平成14年11月25日判決・自保ジャーナル1498号13頁。足に手のひらの大きさに至らない傷跡が残った10歳の女児について、150万円の慰謝料を認めた
ただし、自動的に増えるわけではありません
逸失利益が認められなければ必ず慰謝料が増えるというものではありません。増額を求めるには、収入の減りという形には直接表れないけれども、働く力に間接的な影響が生じている事情を示す必要があります。その等級で普通に見込まれる心の痛みでは評価しきれない部分が問題になります。
したがって、進め方としては、逸失利益を諦めて慰謝料の増額だけを求めるのではなく、示談の交渉の場で、逸失利益と慰謝料のそれぞれについて、仕事と暮らしへの影響を資料とともに説明していくことになります。

何を述べれば伝わるのか
傷跡が残ったことだけを述べても、保険会社や裁判所に損害の内容が十分に伝わらないことがあります。例えば、次のような具体的な事情を整理して伝えることが考えられます。
具体的に述べること
- 傷跡がどこにあるのか(正面から見えるか、化粧で隠れるか)
- その程度(長さ、大きさ、へこみの深さ)
- 衣服や髪で隠れる場所であっても、本当に影響がないのか
- 年齢と性別
- 仕事の内容(人と接するか、容姿が関わるか)
- 事故の後の変化(仕事を辞めた、配置が変わった、精神科に通っている、など)
写真も大切です。一目で分かる傷跡であるならば、そのことを言葉で述べるだけでなく、写真を添えて示すことになります。
よくある質問
顔に傷跡が残りました。逸失利益は請求できないのですか。
請求できる場合があります。傷跡は、それだけでは働く力の低下に結び付きにくいため争いになりやすい損害項目ですが、事故のときと後の仕事、収入が減ったかどうか、将来の異動や転職への影響、傷跡の場所と程度を踏まえて判断されます。認めた裁判例は複数あります。
どのような仕事だと認められやすいのですか。
人と接する仕事や、容姿が仕事の内容に関わる仕事では、認められやすい傾向にあります。舞台俳優と衣料品店の店員をしていた方の顔面12級14号について喪失率5%を認めた裁判例、空港のラウンジで接客をしていた方の9級16号について喪失率35%を認めた裁判例があります。
収入は減っていません。それでも認められますか。
収入が減っていることは有利な事情ですが、それがなければ認められないというものではありません。配置転換や降格も、傷跡が仕事に影響したことを示す事情として考慮されることがあります。また、年齢が若く、将来の進学や就職への具体的な影響が見込まれる場合には、それが有利な事情として考慮された裁判例もあります。小学生の女児の顔面12級について喪失率5%、喪失期間49年を認めた裁判例があります。
逸失利益が認められなければ、慰謝料が増えるのですか。
増額を認めた裁判例は多くありますが、自動的に増えるわけではありません。等級に応じて通常想定される事情を超えて、働く力へ間接的に影響しているといえる事情が必要です。逸失利益を諦めて慰謝料だけを求めるのではなく、示談の交渉の場で、逸失利益と慰謝料のそれぞれについて、仕事と暮らしへの影響を資料とともに説明していくことになります。
増額されるとして、どのくらいですか。
相場としては、数十万円から200万円程度とされています。顔の傷跡で9級とされた37歳の会社員の事案で、逸失利益を認めないことを踏まえ、9級の目安である690万円を上回る900万円を認めた裁判例があります。
等級が付かなかった場合はどうなりますか。
自賠責保険の後遺障害等級が認められなかった事案でも、傷跡が残っていることについて慰謝料を認めた裁判例があります。足に手のひらの大きさに至らない傷跡が残った10歳の女児について、150万円を認めたものです。

傷跡について、逸失利益を否定された方へ
傷跡が分かる写真、事故の前後の仕事の内容と収入が分かるものをそろえてください。後遺障害の診断書と認定の通知も、検討に必要となることがあります。そのうえで、仕事の内容、職場での扱いの変化、傷跡の場所と程度を、事故の前と後に分けて時系列で整理し、保険会社への回答や弁護士への相談の際に示せるようにしてください。
本稿は、顔面などに傷跡が残った後遺障害(外貌醜状)について、逸失利益と慰謝料の一般的な考え方と裁判例の傾向を整理したものです。認められるかどうか、その割合や期間、増額の幅は、傷跡の場所と程度、仕事の内容、年齢、事故後の変化などによって異なります。個別の事案では、傷跡の場所と程度、仕事の内容、事故の後の変化を踏まえた検討が必要になります。

