時間単価・残業した時間・割増率の三つに分けて考える
「残業代が支払われていない」と気付いても、いくら請求できるのかは、給与明細を見ただけでは分かりません。会社に尋ねても「うちは固定給だから」と言われて終わってしまうこともあります。
もっとも、残業代の計算は、思いつきで決まるものではありません。法律は、三つの数を掛け合わせる形で計算方法を定めています。順に押さえれば、自分の残業代がどのように組み立てられるのかは追うことができます。
この記事の結論
- 残業代は、時間単価に残業した時間と率を掛けて出します。率は割増の分だけでなく、もとの賃金を含めたもので、時間外労働なら125%以上です。
- 月給の時間単価は、通常の労働に対する月の賃金を、月の所定労働時間数(月ごとに違う場合は1年間の1か月平均)で割って求めます。
- 家族手当・通勤手当・住宅手当などが時間単価の計算から外れるかどうかは、手当の名前ではなく、支給の基準で判断されます。
- 法定休日の労働は35%以上、月60時間を超える時間外労働は50%以上の割増で、60時間超の率は令和5年4月から中小企業にも適用されています。
残業代は三つの数を掛け合わせた額
労働基準法第三十七条は、法律の定める労働時間を超えて働かせたときや、休日・深夜に働かせたときに、割増賃金を支払わなければならないと定めています。額の出し方は、ふだんの労働に対して支払われている賃金を1時間当たりに直し、それに割増の分を含めた率を掛けるという形です。
ここから、残業代の計算式は次のようになります。
残業代の計算式
残業代 = 時間単価 × 残業した時間 × 割増の分を含めた率
ここでいう率は、割増の部分だけでなく、もとの賃金の分(100%)を含めたものです。法律の枠を超えた時間外労働であれば125%以上、法定休日の労働であれば135%以上を掛けます。以下では、上乗せされる部分を「割増率」(25%など)と呼びます。
三つのうち一つでも分からなければ額は出ません。逆に言えば、確かめる先は三つに絞られます。時間単価は給与明細と就業規則から、残業した時間は勤務の記録から、割増率は法律と就業規則から求めます。
ここで注意していただきたいのは、残業させることが適法かどうかと、残業代が発生するかどうかは、別の問題だということです。会社は、残業をさせるには、労働者の過半数で組織する労働組合(それがなければ労働者の過半数を代表する者)と書面で協定を結び、労働基準監督署に届け出なければなりません(いわゆる三六協定。労働基準法第三十六条第1項)。この協定がないのに残業をさせていた場合、残業をさせたこと自体は法律に反します。しかし、そのことによって残業代が消えるわけではありません。協定がなくても、働いた分の残業代は発生します。
また、「残業した時間」とは、実際に働いた時間から、契約で決められた労働時間(所定労働時間)を差し引いた時間です。この「実際に働いた時間」は、判例上、会社の指揮命令の下に置かれていた時間と理解されています。
時間単価は月給を「月平均所定労働時間」で割って出す
月給で働いている方の場合、時間単価は、月ごとに定められた賃金を、その月の所定労働時間数で割って求めます。月によって所定労働時間数が違う場合は、1年間の1か月平均の所定労働時間数で割ります(労働基準法施行規則第十九条第1項第四号)。多くの会社は月ごとに所定労働時間数が違いますので、以下では1年間の平均で割る方法を説明します。
時間単価の計算式
時間単価 = 月ごとに定められた賃金 ÷ 月平均所定労働時間数
分母となる月平均所定労働時間数は、次の順に計算します。就業規則とその年のカレンダーがあれば、自分でも出すことができます。
分母を出す三つの手順
- その年の日数から、年間の休日の日数を引く(=年間の労働日数)
- 年間の労働日数に、1日の所定労働時間を掛ける(=年間の所定労働時間)
- 年間の所定労働時間を12で割る(=月平均所定労働時間数)
ここでいう1日の所定労働時間とは、始業の時刻から終業の時刻までの時間から、休憩時間を差し引いたものです。午前9時から午後5時までで休憩が1時間であれば、7時間となります。
1年間の平均で割る場合、この分母は月ごとに変えるのではなく、1年を通した平均として出します。うるう年や祝日の並びによって、年ごとに少しずつ違う数字になります。分母が小さければ時間単価は上がり、分母が大きければ下がりますから、休日の数え方は結論に直結します。就業規則に休日の定めが見当たらない場合や、シフト表で指定するとだけ書かれている場合は、実際の勤務の実態やシフト表から休日を割り出すことになります。
「休日」と「休暇」は別のものです
休日とは、契約の上で初めから働く日とされていない日を指します。年次有給休暇や慶弔休暇のような休暇は、これとは違い、本来は出勤する日であったところを、申出などによって出勤しなくてよいことにした日です。時間単価の分母を出すときに数えるのは休日だけであり、休暇や欠勤は数えません。会社によっては「夏季休暇」と呼びながら就業規則の上では休日として定めている例もありますので、呼び名ではなく定め方を見る必要があります。
月給に入っていても計算に入れない手当がある
時間単価の分子は、給与明細の「支給額合計」ではありません。法律は、次のものを計算の基礎から外すと定めています(労働基準法第三十七条第5項、同施行規則第二十一条)。
時間単価の計算から外れるもの
- 家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
外れる理由は項目によって違います。たとえば家族手当は、働く人の個人的な事情に応じて払われるものです。同じ時間だけ残業をした二人の間で、扶養する家族がいるかどうかによって残業代が変わってしまうのは、つじつまが合いません。
ただし、外れるかどうかは、手当の名前では決まりません。見るのは支給の基準です。

たとえば住宅手当です。家賃や住宅ローンの額に応じて支給額が決まる形であれば、計算から外れます。しかし、持ち家なら一律4万円、賃貸なら一律2万円というように住まいの形ごとに定額で支給する形や、住居にかかる費用と関係なく全員に同じ額を支給する形は、ここでいう住宅手当には当たらず、計算に入ります。通勤手当や家族手当についても、同じ見方をします。
また、皆勤手当のように、遅刻や欠勤がなかったことに対して支払われる手当は、労働日数に着目したものですから、通常の労働に対する賃金として計算に入ります。
逆の注意もあります。ある手当が残業代の前払いとして有効に定められていると認められる場合には、その手当は時間単価の計算に入りません。「営業手当」や「業務手当」といった名前で毎月定額が支払われている場合は、その手当が何に対して支払われているのかを確かめる必要があります。
割増率は働いた時間帯と日によって変わる
三つ目の要素が割増率です。同じ1時間の残業でも、それが何時で、何曜日かによって率が変わります。
まず、所定労働時間を超えて働いたとしても、原則として1日8時間・週40時間という法律の枠を超えていない部分については、法律上の割増はありません。午前9時から午後5時まで(休憩1時間)の契約で午後6時まで働いた場合の1時間がこれに当たります。もっとも、割増がないというだけで、働いた分の賃金そのものは支払われなければなりません。就業規則でこの部分にも割増を定めている会社では、その定めに従います。
これに対し、原則として1日8時間又は週40時間を超えて働いた部分には、25%以上の割増が必要です。なお、常時10人未満の労働者を使う商業、保健衛生業、接客娯楽業などの事業場では、週の枠を44時間とする特例があります(労働基準法施行規則第二十五条の二第1項)。さらに、午後10時から午前5時までの時間帯は深夜労働として、25%が上乗せされます。両方が重なれば、合計で50%の割増になります。
休日については、法定休日と、それ以外の休日を分けて考えます。会社は、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならず(労働基準法第三十五条第1項)、この休日を法定休日といいます。4週間を通じて4日以上の休日を与える形も認められています(同条第2項)。法定休日に働かせた場合の割増は35%以上です。
休日労働の割増率は35%で据え置かれます
法定休日の労働については、1日8時間を超えても、その週の労働時間が40時間を超えても、その月の残業が60時間を超えても、割増率は35%のままです。時間外労働の割増が重ねて発生することはありません。ただし、深夜の時間帯に及んだ場合は、深夜の25%が上乗せされ、合計60%となります。
週休2日の会社で、法定休日ではない側の休日(法定外休日)に働いた場合は、法律上の休日労働ではありません。そのため、就業規則に割増の定めがなければ休日の割増は付きません。しかし、その週の労働時間が40時間を超えていれば、時間外労働として25%以上の割増が必要になります。土曜日に出勤した分がどちらに当たるのかは、就業規則の定め方によって変わります。
就業規則に法定休日が何曜日であるかを定めていない会社も少なくありません。その場合、週の最後の日を法定休日として扱う考え方のほか、週休2日制の成り立ちから日曜日を法定休日と見た裁判例もあります。毎週決まって休んでいた曜日があるときは、実際の勤務ぶりに即して、その日を法定休日と見たうえで計算することもあります。
月60時間を超えた分は割増率が上がる
1か月の時間外労働が60時間を超えた場合、その超えた部分については、50%以上の割増が必要になります(労働基準法第三十七条第1項ただし書)。この60時間には、法定休日に働いた時間は含めません。
この割増は、以前は大企業だけに適用されていましたが、令和5年4月1日から、中小企業にも適用されています。それより前の期間について請求する場合には、会社の規模によって率が変わることがあります。
なお、労使協定を結んでいる会社では、60時間を超えた分の引上げ部分(25%)の支払に代えて、有給の休暇を与える仕組みを採ることができます(労働基準法第三十七条第3項)。この休暇を実際に取得した場合、引上げ部分の支払が要らなくなるのは、取得した休暇に対応する時間の分だけです(労働基準法施行規則第十九条の二第3項)。その分についても、通常の時間外労働として払われる125%の部分は請求できます。年次有給休暇とは別のものですので、混同しないようにしてください。
率が逆になる場面があります
時間外労働が月60時間を超えている状況では、時間外労働の割増(50%)が、法定休日労働の割増(35%)を上回ります。休日に働いた方が率が低くなるという、見た目には不自然な結果になりますが、法律上はそう定められています。
手元でそろえておきたい資料
相談の前に、次のものを集めておくと、計算の見通しが早く立ちます。全てがそろわなくても構いません。足りない部分は、会社に開示を求めたり、残っている記録から組み立てたりする方法があります。
集めておきたいもの
- 給与明細(手当の内訳が分かるもの。できる限りさかのぼって)
- 就業規則と賃金規程(始業・終業の時刻、休憩、休日、手当の支給基準)
- 雇用契約書又は労働条件通知書
- 働いた時間の記録(タイムカード、勤務管理の画面、入退館の記録、業務用のメール、日報、シフト表など)
- 自分で付けていた出退勤のメモや手帳
働いた時間の記録が手元にないという方も少なくありません。その場合でも、パソコンの起動と終了の時刻、業務用メールの送信時刻、建物の入退館の記録などから組み立てられることがあります。会社に対して記録の開示を求めることも考えられます。
また、残業代には請求できる期間の制限があります。時間が経つほど請求できる範囲は狭くなりますので、思い当たることがあれば、記録が残っているうちに確かめておくことをお勧めします。
よくある質問
会社が三六協定を結んでいません。残業代は請求できないのでしょうか。
請求できます。協定がないのに残業をさせていたのであれば、残業をさせたこと自体が法律に反しますが、それによって残業代が消えるわけではありません。働いた分の残業代は発生します。
通勤手当が月に3万円あります。時間単価は上がりますか。
通勤の距離や実費に応じて額が決まる通勤手当であれば、時間単価の計算から外れます。もっとも、名前が通勤手当であっても、通勤の実費と関係なく一律に支払われているのであれば、計算に入る余地があります。支給の基準を確かめてください。
土曜日に出勤した分は35%増しになりますか。
その土曜日が法定休日に当たるかどうかで変わります。法定休日であれば35%以上、法定外休日であれば休日の割増は付きませんが、その週の労働時間が40時間を超えていれば時間外労働として25%以上の割増が必要になります。
タイムカードがない職場でした。諦めるほかないでしょうか。
タイムカードがなくても、パソコンの操作記録、業務用メールの送信時刻、入退館の記録、日報、シフト表、自分で付けていたメモなどから働いた時間を組み立てられることがあります。まず、どのような記録が残っているかを確かめてください。

残業代が支払われていないとお考えの方へ
弁護士に相談するときは、給与明細、就業規則、働いた時間の記録を用意してください。手当の内訳と休日の定めが分かれば、請求できる範囲と額の見込みを立てやすくなります。記録が手元にない場合は、そのことも初めに伝えてください。
本稿は、残業代の計算の考え方について一般的な説明をしたものです。実際の額は、賃金の定め方、所定労働時間や休日の定め、働いた時間の記録、勤務の形態(変形労働時間制、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制など)、管理監督者に当たるかどうかによって変わります。個別の事案については、就業規則や給与明細を確認したうえでの検討が必要です。

