支払が遅れた分の遅延損害金と、裁判所が命じる付加金。使える場面と期限が違います
支払われていない残業代を請求するとき、求められるのは残業代そのものだけではありません。上乗せが二つあります。支払が遅れたことに対する遅延損害金と、裁判所が会社に命じる付加金です。遅延損害金は、在職中は年3%で、退職した後は原則として年14.6%に上がります。付加金は、未払いの割増賃金と同じ額まで命じられることがあります。
ただし、この二つは性質が全く違います。とりわけ付加金は、期限や会社が支払った時期によっては、求められないことがあります。順に整理します。
この記事の結論
- 残業代の支払が遅れると、月ごとの給料日の次の日から遅延損害金が加わります。令和2年4月1日以降に支払日が来た分は、在職中は年3%、退職後は原則として年14.6%です。
- 会社が、支払われていない賃金があるかどうかを合理的な理由で裁判所などで争っている場合は、退職後でも年14.6%を使えません。解雇の無効を争う人も、在職中と同じ割合で計算します。
- 付加金は、未払いの割増賃金と同じ額を上限に、裁判所が判決で会社に支払を命じるものです。労働審判(裁判所での話合いを中心にした手続)では命じられません。
- 付加金は、それぞれの給料の支払日から3年以内に請求しなければ求められません。事実を調べる最後の審理が終わるまでに会社が全部払えば命じられず、額が減ることもあります。
上乗せできるものは二つ。性質が全く違う
遅延損害金は、支払が遅れれば法律上当然に生じるものです。これに対して付加金は、裁判所が命じて初めて生じるもので、命じるかどうかも、いくらにするかも裁判所が決めます。まず、この違いを表で見比べておきます。
| 遅延損害金 | 付加金 | |
|---|---|---|
| どんなものか | 支払が遅れたことに対する損害金 | 割増賃金などを支払わなかった会社に対し、裁判所が命じる上乗せ |
| 額 | 未払額に年3%(退職後は原則として年14.6%)を掛けた額 | 未払いの割増賃金と同じ額が上限。裁判所が減らすこともある |
| いつから | それぞれの給料の支払日の翌日から | 判決の確定(不服を申し立てられなくなること)を待って、払う義務が生まれる |
| 生じ方 | 支払が遅れれば法律上当然に生じる | 働く人の請求を受けて、裁判所が命じたときだけ生じる |
遅延損害金 ― 在職中は年3%
遅延損害金は、月ごとの給料日の次の日から数え始めます。割合は、遅れが始まった時点の法定利率によります(民法第四百十九条第1項)。法定利率は、令和2年4月1日に施行された民法の改正で年3%とされました(民法第四百四条第2項)。3年ごとに見直されますが、法務省の発表では、令和8年4月1日から令和11年3月31日までも年3%のままです。
ですから、令和2年4月1日以降に支払日が来た残業代の遅延損害金は、在職中なら年3%です。それより前に支払日が来た分は割合が違いますが(年6%又は年5%)、残業代そのものが時効(改正前の分は2年)にかかっていることがほとんどだと考えられます。
どのくらいの額になるか(計算の目安)
未払いの残業代が10万円で、支払日から1年が過ぎた場合、年3%なら遅延損害金は3000円です。年14.6%なら1万4600円になります。実際には月ごとに支払日が違うので、月ごとに日数を数えて計算します。
退職後は原則として年14.6%に上がる
会社を辞めた人には、別の法律に特別な定めがあります。会社が退職した人の賃金を退職の日までに払わなかったとします。その場合、退職の日の翌日からは、年14.6%の割合で上乗せして払うことになります(賃金の支払の確保等に関する法律第六条第1項、同法施行令第一条)。法律では「遅延利息」と呼んでいますが、遅延損害金と同じく、支払が遅れたことに対する上乗せです。
退職の日より後に支払日が来る賃金は、その支払日の翌日からです。残業代もこの賃金に含まれますが、退職金(退職手当)は除かれています。つまり、在職中の期間は年3%、退職した日の翌日からは年14.6%と、二段階に分けて求めることになります。
ただし、年14.6%が使えない場合が定められています(同法第六条第2項、同法施行規則第六条)。天災地変、会社の破産手続の開始、法令の制約で支払の資金を確保しにくいこと、などです。そして、会社が、支払われていない賃金があるかどうかを、合理的な理由で裁判所や労働委員会(労使の争いを扱う公的な機関)で争っている場合も、これに当たります。こうした事情がある期間は、在職中と同じ割合に戻ります。
この「合理的な理由で争っている」に当たるとして、退職後も年14.6%を付けなかった裁判例があります。もっとも、その判断には具体的な理由が示されておらず、疑問だとの指摘もあります。会社がこれを持ち出してきたら、働く側からは、支払わないことに合理的な理由がないと主張していくことになります。例えば、要件を満たさない固定残業代を理由に支払わなかった、理由を何も説明しなかった、といった事情です。
解雇の無効を争うときは注意
年14.6%は、退職していることが前提です。解雇された人が「解雇は無効で、自分は今も社員だ」と主張しながら、この割合を求めると、主張が食い違ってしまいます。このときは、年14.6%ではなく、在職中と同じ割合を使って計算します。
付加金 ― 裁判所が命じる上乗せ
付加金は、労働基準法第百十四条が定める制度です。対象は、会社が割増賃金(時間外・休日・深夜の残業代)、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇の期間の賃金を支払わなかった場合です。このとき、裁判所は、働く人の請求により、未払金とは別に、それと同じ額の付加金の支払を会社に命じることができます。
最高裁判所は、この制度の趣旨をこう説明しています。払うべきものを払わない会社に、罰として金銭の負担を負わせ、払うよう仕向けること。あわせて、支払われなかったことによる働く人の損害を埋め合わせることです(最高裁判所平成27年5月19日第三小法廷決定・民集69巻4号635頁)。
付加金について知っておきたいこと
- 請求しなければ命じられません。訴えの中で、残業代と併せて付加金も求めておく必要があります
- 対象は、労働基準法で割増賃金を支払うべき残業の分です。会社の所定労働時間を超えても1日8時間・週40時間に収まる残業(法内残業)の分は、対象になりません
- 命じるかどうか、いくらにするかは裁判所の判断です。会社の違反の程度や態様、働く人が受けた不利益などが考慮され、未払額の3割や5割にとどめた裁判例もあります。同じ額が上限です
- 会社が付加金を払わなければならなくなるのは、判決の確定を待ってからです。付加金そのものにも、支払が遅れれば損害金が加わります。数え始めは判決が確定した日の次の日で、割合は年3%です

付加金が求められなくなる三つの場面
一つ目は、期限を過ぎた場合です。条文では、付加金を求められるのは違反があってから5年の間とされ(労働基準法第百十四条ただし書)、当分の間は3年です(同法附則第百四十三条第2項)。残業代の場合、違反の時とは、それぞれの給料の支払日です。この期間は、時効と違って途中で止めたりやり直したりできないと考えられています。
残業代そのものは、会社に請求を申し入れるなどして、時効の完成を先に延ばせる場合があります。けれども、付加金はそうはいきません。訴えを起こした時から3年を超えてさかのぼる月の分には、付加金は命じられないことになります。
二つ目は、審理が終わるまでに会社が支払った場合です。付加金は、裁判所が命じて初めて生じます。そのため、事実関係を調べる最後の審理(事実審の口頭弁論)が終わるまでに、会社が未払いの割増賃金を全部払えば、裁判所はもう付加金を命じられません。第一審の判決に不服が申し立てられ、高等裁判所で審理が続いている間(控訴審)に払った場合も同じです(最高裁判所平成26年3月6日第一小法廷判決・労働判例1119号5頁)。一部だけ払われた場合は、命じられる付加金の額が残りの額までに減ります。
三つ目は、労働審判で解決する場合です。労働審判は、裁判官と、労働の分野の専門家である労働審判員が、原則として3回以内の期日で審理する手続です。付加金を命じるのは「裁判所」とされていますが、労働審判を行うのは、裁判官と労働審判員でつくる労働審判委員会です。そのため、労働審判では付加金の支払は命じられません。
それでも労働審判の申立てで付加金を求めておく意味
労働審判に異議が出されると、事件は訴訟に移ります。このとき、労働審判を申し立てた時に訴えを起こしたものとみなされます(労働審判法第二十二条第1項)。申立ての時点で付加金も求めておけば、申立ての時を基準に3年の期限を守れます。そのため、実務では労働審判の申立てでも付加金を求めておくのが通例です。
請求する前に確かめておくこと
手元で確かめておくこと
- 退職した日(年14.6%の起点になります)
- それぞれの月の給料の支払日(遅延損害金の起点になり、残業代と付加金の期限もここから数えます)
- 未払いの残業のうち、1日8時間・週40時間を超えた分がどれだけか(付加金の対象になる部分です)
- 一番古い未払いの月から3年が迫っていないか
どの手続を選ぶかで、上乗せの見込みも変わります。労働審判は早く解決しやすい手続ですが、上で見たとおり付加金は望めません。訴訟なら付加金を命じてもらえる可能性がありますが、時間がかかります。事実関係を調べる最後の審理が終わるまでに会社が全部払えば、付加金は命じられなくなります。どちらがよいかは、未払いの額、証拠の状況、期限との関係を見て決めることになります。
要点の整理
この記事で確かめたこと
- 遅延損害金は支払日の翌日から付き、令和2年4月1日以降の分は在職中年3%
- 退職した日の翌日からは原則として年14.6%。会社が合理的な理由で争っている場合などは除かれる
- 付加金は、未払いの割増賃金と同じ額を上限に、裁判所が判決で命じるもの
- 付加金は各支払日から3年以内に請求が必要で、最後の審理が終わるまでに会社が全部払えば命じられない
- 労働審判の申立てでも、訴訟に移る場合に備えて付加金を求めておく意味がある
よくある質問
残業代の遅延損害金は何%ですか。
令和2年4月1日以降に支払日が来た残業代なら、在職中は年3%です。法定利率は3年ごとに見直されますが、令和11年3月31日までは年3%と決まっています。退職した後は、退職の日の翌日から原則として年14.6%になります。
退職したら、残業代の遅延損害金は必ず年14.6%になるのですか。
必ずではありません。会社が、支払われていない賃金があるかどうかを合理的な理由で裁判所などで争っている場合には、使えないと定められています。会社が破産した場合なども同じです。また、解雇の無効を主張しながら残業代を求める場合は、在職中と同じ割合で計算します。
付加金を請求すれば、残業代が2倍になりますか。
必ず2倍になるわけではありません。付加金は裁判所が命じるもので、命じるかどうかも額も裁判所が決めます。未払額の3割や5割にとどめた裁判例もあります。法内残業の分は対象外です。事実関係を調べる最後の審理が終わるまでに会社が全額を払えば、命じられなくなります。
労働審判でも付加金はもらえますか。
労働審判では、付加金の支払は命じられません。命じられるのは訴訟の判決です。ただ、労働審判に異議が出て訴訟に移る場合に備えて、申立ての段階から付加金を求めておくのが通例です。
裁判の途中で会社が残業代を払ってきたら、付加金はどうなりますか。
事実関係を調べる最後の審理(事実審の口頭弁論)が終わるまでに会社が未払分を全部払うと、付加金は命じられなくなります。これが最高裁判所の判断です。高等裁判所で審理が続いている間に払った場合も同じです。一部だけの支払なら、付加金の上限は残りの額までに下がります。

弁護士に相談するとき、用意しておくもの
弁護士に相談するときは、給与明細(支払日が分かるもの)を用意してください。退職した方は、退職日が分かる書類(離職票や退職届の控えなど)も必要です。働いた時間が分かる記録もあれば持って行ってください。一番古い未払いの月が分かれば、付加金の期限まで残りどのくらいか、どの手続を選ぶのがよいかを早めに検討できます。
本稿は、未払いの残業代に上乗せして請求できる遅延損害金と付加金について、一般的な考え方を整理したものです。実際に認められるかどうかや額は、退職の有無、支払日、会社の対応、選ぶ手続などによって異なります。個別の事案については、資料に基づく検討が必要です。

