けがの賠償は、運転していた人以外にも求められる ― 車を貸した人・名義を貸した人・会社

駅のホームに停まっている列車と、行き交う乗客 交通事故

運行供用者責任という仕組み。友人に貸した車、社員のマイカー、路上駐車のとき

ぶつかってきた車の運転者に、支払う力がない。任意の保険にも入っていない。こういうとき、諦めるほかないのでしょうか。

そうとは限りません。自動車損害賠償保障法は、けがや死亡について、運転していた人だけでなく、その車を自分のために走らせていたといえる人にも、原則として責任を負わせています。運行供用者責任と呼ばれる仕組みです。ただし、加害者の側が、⑴自分にも運転者にも運転上の落ち度がなかったこと、⑵被害者か第三者に故意又は過失があったこと、⑶車に構造上の欠陥も機能の障害もなかったことを全て証明したときは、責任を免れます(自動車損害賠償保障法第三条ただし書)。三つとも証明しなければならないため、実際に免れられることはほとんどありません。車の修理費だけという事案には使えませんが、けがをされた方は、運転していた人以外にも請求できる場合があります。この記事では、誰がこれに当たるのか、どういう事案で認められてきたのかを整理します。

どういう人が責任を負うのか

運行供用者に当たるかどうかは、2つの面から判断されます。その車の走行を支配していたか(運行支配)、そしてその走行から利益を得ていたか(運行利益)です。裁判例と、法律上の一般的な考え方は、この2本立てで見ています。

運行支配について、最高裁判所が重くみているのは、その車を実際に管理できる立場にあったか、そして危険な使われ方をしないよう見張るべき立場にあったか、という点です(最高裁判所昭和50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1818頁)。

運行利益の方は、緩やかに考えられています。走行そのものから金銭を得ていなくてもよく、その走行を全体として外から眺めたときに、その人のために行われていたと見えれば足りるとされています(最高裁判所昭和46年7月1日第一小法廷判決・民集25巻5号727頁)。

実際は支配の方が重い

この2つを見るとき、走行を支配している人は、通常、何らかの利益も得ていると考えられます。そのため、実際の判断では支配の方に重きが置かれ、利益はそれを補う形で見られると指摘されています。

車を貸した人 ― 貸した後も責任が及ぶことがある

友人に車を貸し、その友人が事故を起こした。この場合に貸した人が責任を負うかどうかは、貸した経緯と、事故の時点でもなおその車の使われ方に口を出せる状態だったかどうかから判断されます。二人の間柄、何のために貸したのか、どれだけの間貸していたのか、返す約束の日が来ていたのかといった事情が、その材料になります。

無償で貸していた場合は、比較的認められやすいと考えられています。もっとも、必ず認められるわけではありません。

否定された例もあります

2時間後に返す約束だったにもかかわらず、借りた人が約1か月にわたって使い続け、その間に起こした事故について、貸した人の責任を否定した判例があります(最高裁判所平成9年11月27日第一小法廷判決・裁判集民事186号227頁)。貸してから長く経っていたことは、貸した人の支配がなお及んでいたかを判断する材料の一つになります。ただし、期間の長さだけで結論が決まるわけではありません。

名義を貸した人 ― 別居でも責任を負った例

自分は乗っていないが、車の名義だけを貸していた。この場合も、なぜ名義を貸すことになったのか、実際に誰がその車を持ち、どこに置き、誰が面倒を見ていたのかが問われます。

近年の判例

兄から名義を貸してほしいと頼まれ、弟がこれを承諾した事案があります。兄は生活保護を受けており、自分の名義で車を持つと保護を受けられなくなるおそれがあると考えて、弟に頼んだものでした。その後、兄が事故を起こしました。最高裁判所は、兄と弟が住まいも家計も別にしていたにもかかわらず、弟の責任を認めました(最高裁判所平成30年12月17日第一小法廷判決・民集72巻6号1112頁)。

つまり、同居していないから責任がない、とは言えません。同居しているかどうかだけでなく、名義を貸した経緯、二人の間柄、車を誰が管理していたかが併せて見られます。

事務所で仕事をしている様子
誰の名義で、誰が費用を出し、どこに置いていたか。そこを調べます。

社員のマイカー ― 会社に請求できる場合

従業員が自分の車で事故を起こしたとき、勤め先に責任を問えるかは、次のような事情から判断されます。

見られる事情

  • その車が仕事に使われ続けていたこと
  • 会社がその使用を知っていた、あるいは後押ししていたこと(燃料代を出していた、駐車場を用意していたなど)
  • 電車やバスでの通勤が難しい場所だったこと

従業員が自分の車をどう使うかに、会社は基本的に関わりません。ですから、原則としては責任は否定されます。もっとも、上のような事情を積み上げて、その車が日常的に会社の仕事に使われていたといえる場合には、認められる傾向にあります。

止まっていた車でも「運行」になることがある

自動車損害賠償保障法は、運行によって生じた損害について責任を負わせています。では、駐車や停車をしていた車はどうなるのか。

この点は、走行との時間的・場所的なつながりや、何のために止めていたのかといった事情から、その駐車や停車が前後の走行と一体といえるかによって判断されます。止まっていただけで直ちに運行と評価されるわけではありませんが、こうした事情から認められる場合があります。

違法駐車の車の持ち主に責任が認められた例

駐車の禁じられた区域に軽貨物自動車が止まっていました。幅3・2メートルの道のうち1・39メートルを塞ぐ形です。自転車で来た被害者が、その脇をすり抜けようとして体勢を崩し、路上へ倒れました。そこへ、対向車線から中央線をまたいで走ってきた普通貨物自動車が来て、被害者は亡くなりました。裁判所は、道を塞いで止めていた軽自動車の保有者にも運行供用者としての責任があると判断しました(東京地方裁判所平成7年9月27日判決・交通事故民事裁判例集28巻5号1425頁)。

なお、走行と事故との間には、賠償の対象とするだけのつながり(相当因果関係)が必要だとするのが、裁判例と一般的な考え方です。止まっていた車の位置が事故につながったといえるかどうかが、争点になります。

接触していない事故でも

ぶつかっていなくても、責任が認められることがあります。

最高裁判所は、車が歩行者の予想を大きく外れる危険な動きをし、そのために歩行者が避け方を見失って転び、ぶつかったのと変わらない事態でけがをしたといえる場合には、その走行とけがとの間に賠償の対象とするだけのつながりを認め得るとしています(最高裁判所昭和47年5月30日第三小法廷判決・民集26巻4号939頁)。

ですから、避けようとして転んでけがをした事案でも、相手の車がどう動いたのか、転ぶまでにどういう経過をたどったのか、車との距離はどうだったのかを示していければ、請求できる可能性があります。

よくある質問

運転していた人にお金がありません。ほかに請求先はありますか。

運転していた人以外にも請求できる場合があります。自動車損害賠償保障法は、けがや死亡について、その車を自分のために走らせていたといえる人にも、原則として責任を負わせています。ただし、加害者の側が、⑴自分にも運転者にも運転上の落ち度がなかったこと、⑵被害者か第三者に故意又は過失があったこと、⑶車に構造上の欠陥も機能の障害もなかったことを全て証明したときは、責任を免れます(自動車損害賠償保障法第三条ただし書)。三つとも証明しなければならないため、実際に免れられることはほとんどありません。車を貸した人、名義を貸した人、勤め先が責任を負うかどうかは、車の使われ方や管理の状況によって決まります。

友人に貸した車での事故です。貸した人に責任はありますか。

貸した経緯と、事故の時点でもなお車の使われ方に口を出せる状態だったかから判断されます。二人の間柄、貸した目的、貸していた期間、返す約束の日が来ていたかが材料になります。無償で貸していた場合は比較的認められやすいと考えられていますが、2時間の約束が約1か月に及んだ事案で貸主の責任を否定した判例もあります。

名義を貸しただけの人にも請求できますか。

できる場合があります。なぜ名義を貸すことになったのか、二人の間柄はどうか、実際に誰が車を管理していたのかから判断されます。兄弟が住まいも家計も別にしていた事案で、名義を貸した弟の責任を認めた最高裁判所の判例があります。

社員が自分の車で事故を起こしました。会社に請求できますか。

原則としては否定されます。従業員が自分の車をどう使うかに、会社は基本的に関わらないためです。もっとも、その車が仕事に使われ続けていて、会社もそれを知っていた、あるいは燃料代や駐車場という形で後押ししていたといえる場合には、認められる傾向にあります。

駐車していた車が原因の事故です。請求できますか。

できる場合があります。走行との時間的・場所的なつながりや駐車の目的から、その駐車が前後の走行と一体といえるかで判断されます。道を塞いで止めていた車の脇をすり抜けようとして体勢を崩し、対向車にひかれて亡くなった事案で、保有者の責任を認めた裁判例があります。

ぶつかっていませんが、避けようとして転びました。

請求できる可能性があります。最高裁判所は、車が歩行者の予想を大きく外れる危険な動きをし、ぶつかったのと変わらない事態でけがをしたといえる場合には、走行とけがとの間に賠償の対象とするだけのつながりを認め得るとしています。


相手に支払う力がないと言われた方へ

相手に支払う力がないと言われた方へ

まず、交通事故証明書など、事故の車と当事者を確かめられる資料をそろえてください。車の持ち主と運転していた人が違えば、そこが手がかりになります。相手の車の車検証の写しが手元にない場合は、どうすれば取れるかを弁護士か保険会社に尋ねてください。あわせて、相手が誰から車を借りたのか、名義は誰か、仕事で使っていたのかを分かる範囲で書き留めておいてください。誰に請求できるかは、当事者の関係に加え、車がどう使われ、どう管理されていたかを確かめて判断します。

本稿は、交通事故でけがをされた方の相手方に支払う力がない場合の請求先について、運行供用者責任を中心に一般的な考え方を整理したものです。この責任は、けがや死亡についての賠償に関するもので、車の修理費だけという事案には及びません。誰にどこまで請求できるかは、車の所有と管理の状況、貸借の経緯、就業の状況によって異なります。個別の事案では、資料に基づく検討が必要です。

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