【コラム】性的姿態等撮影罪とはどのような犯罪か

盗撮する猫 刑事事件

 2023年7月13日から、新たに「性的姿態等撮影罪」と呼ばれる法律上の犯罪が施行されました​。これは、いわゆる盗撮や、他人の性的な画像を無断で撮影・流布する行為を取り締まるために新設されたものです。近年の刑法改正に伴い、従来は各都道府県の迷惑防止条例などで対処していた盗撮行為に対し、全国一律の厳しい罰則が設けられました​。本コラムでは、一般の皆さんに向けてこの性的姿態等撮影罪について分かりやすく解説し、トラブルに巻き込まれないためのアドバイスをお届けします。

法改正の背景と「性的姿態等撮影罪」とは

 性的姿態等撮影罪は、正式には「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(令和5年法律第75号)の中で定められた犯罪です​。刑法そのものの改正(令和5年法律第66号)と同時に制定され、盗撮行為の処罰を強化する目的があります。従来、盗撮は都道府県ごとの迷惑防止条例で罰せられていましたが、地域により罰則にばらつきがある、不明な場所で撮影された場合に処罰が困難(例:航空機内での盗撮)といった課題がありました​。また、児童(18歳未満)に対する盗撮は児童ポルノ禁止法で処罰されるケースもありましたが、成人被害の場合に全国統一の法律がないという問題も指摘されていたのです。
 このような背景から、2023年の刑法改正では、他人の性的な姿を無断で撮影する行為全般に刑事罰を科すこととなりました。

条文の要点と処罰対象となる行為

 法第2条に規定された「性的姿態等撮影罪」では、主に次のような行為が犯罪となります​

  • ひそかな盗撮行為
     正当な理由なく、ひそかに人の性的な部位(性器、肛門、その周辺、臀部、胸部)やそれらを覆う下着等、通常は衣服で隠され人目に触れない部分を撮影する行為​
     典型例として、電車やエスカレーターで女性のスカートの中を盗撮することなどが該当します​。
  • 性的行為中の無断撮影
     相手が性交やわいせつな行為をしている最中に、その様子を本人に無断で撮影する行為​。例えば、性交渉中に相手に知らせず動画を撮るようなケースです​。
  • 意識のない人の撮影
     相手が泥酔・昏睡状態など、拒否の意思を示せない状況に乗じて性的な姿を撮影する行為​。泥酔者の下着姿を撮影するといった行為がこれに当たります​。
  • 欺罔(ぎもう)手段による撮影
     性的な行為ではないと偽ったり、「他人には見せない」などと嘘をついて安心させた上で、性的な姿態を撮影する行為​。
  • 未成年者に対する撮影
     正当な理由なく、13歳未満の児童の性的姿態等を撮影する行為、または13歳以上16歳未満の未成年者について、自身より5歳以上年長者がその性的姿態等を撮影する行為​。
     たとえ本人の同意があっても、この年齢に該当すれば処罰対象です​。例えば、15歳の少女が同意していても、20歳の成人がその裸や下着姿を撮影すれば犯罪となります。

 以上のような行為は典型的な処罰例とされています​。さらに今回の新法では、これら撮影によって得た画像・動画を提供する行為や、第三者提供目的でデータを保管する行為も犯罪とされました​。つまり、盗撮画像を他人に見せたりネットに投稿する「提供罪」、提供しようとストックしておく「保管罪」も新設されています。加えて、盗撮をライブ配信する行為や、その配信映像を録画保存する行為も処罰対象です​。スマートフォンやSNS上で盗撮動画を拡散させるような行為は、これら提供罪などに該当し得る点に注意が必要です。

故意・過失や同意の有無はどう扱われるか

 性的姿態等撮影罪は故意犯のみが処罰されます。過失(うっかり撮れてしまった場合)では犯罪になりません​。例えば、景色を撮影中にたまたま通行人の下着が写り込んでしまったような場合、それ自体で処罰されることはありません​。ただし、そのように偶然写ってしまった映像であっても、面白半分で第三者に送りつけたりSNSに投稿すると提供罪等が成立する可能性がありますし、不要な誤解を招かないためにもデータは消去することが望ましいとされています。

 一方、この犯罪が成立するには「正当な理由がないのに」という要件もあります​。正当な理由とは、社会的に見て相当な目的・方法で行われる撮影であれば処罰しないという趣旨です。法務省のQ&Aでは、以下のようなケースが正当な理由の例として挙げられています​。

  • 医師が救急搬送された意識不明の患者について、治療上必要な範囲で上半身裸の姿を撮影する場合​(医療目的で必要かつ適切な撮影)。
  • 親が自宅の庭で上半身裸で水遊びをする幼い我が子を成長記録として撮影する場合(家庭内での通常の育児記録)。

 いずれも社会的相当性があるケースであり、このような正当な理由がある撮影は処罰されません​。つまり、被写体本人の明確な同意がある場合本人自らが公の場で積極的に露出している場合(例えば自分で自撮りしてインターネットに公開しているような状況)は、「ひそかに撮影」に当たらず本罪は成立しないと考えられます。ただし、未成年者の場合は注意が必要です。上述の通り13歳未満や大幅に年上の者が関与する13〜15歳の場合、たとえ本人が「撮っていいよ」と同意しても法律上は処罰対象となります​。未成年者は保護が優先されるため、同意の有無に関係なく処罰範囲が定められている点に留意してください。

科せられる刑罰の重さ

 性的姿態等撮影罪に対して定められた法定刑は、「3年以下の拘禁刑」または「300万円以下の罰金」です​。この3年以下の懲役・300万円以下の罰金という罰則は、以前の迷惑防止条例と比べて格段に重いものです​。例えば東京都の迷惑防止条例では盗撮の罰則は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」(常習の場合でも2年以下の懲役または200万円以下の罰金)でした​。新法施行により、盗撮行為は全国どこでも一律に懲役刑を含む厳しい処罰が科されることになったといえます。

 また、この法律では未遂(未遂罪)も処罰されます。実際に撮影できなかった場合でも、撮影しようと試みた時点で犯罪が成立し得るのです。例えばスカート内にカメラを差し向けたが周囲に気付かれて未遂に終わった場合でも、性的姿態等撮影罪の未遂として処罰対象となり得ます​。なお、盗撮行為に伴って他の犯罪(住居侵入や強要、わいせつ行為など)があれば、それらは別途成立しうることも覚えておきましょう​。

 量刑のイメージとしては、初犯であれば執行猶予付き判決や罰金刑となるケースも考えられますが、悪質な場合や前科がある場合には実刑(刑務所収容)も十分あり得る重罪です。また、児童が被害者のケースでは児童ポルノ関連法や他の性犯罪と併せて厳正に処罰される傾向があります。いずれにせよ前科が付けば社会的信用を失い、就職や学校生活にも重大な影響を及ぼします。盗撮行為は「軽いいたずら」では決して済まない重大な犯罪となったことを認識してください。

被害者の救済手段(削除要請・告訴・支援など)

 もしあなたや身近な人が盗撮被害に遭ってしまった場合、泣き寝入りせずに取れる手段がいくつかあります。被害者のプライバシーや尊厳を回復するため、以下のような救済手段を知っておきましょう。

  • 警察への通報・被害届提出
     まずは速やかに警察に相談し、被害届や告訴状を提出することが重要です​。性的姿態等撮影罪は親告罪(被害者の告訴が必要な犯罪)ではありませんが、被害者からの通報があれば警察も本格的に捜査に乗り出します​。盗撮は証拠が肝心ですので、もし盗撮されたことに気付いたらその場で110番したり、周囲の協力を仰いで加害者を特定できるよう努めましょう。加害者のスマホやカメラが押収されれば、裁判所の手続きにより記録された性的画像の消去命令が出される制度も新たに設けられています(押収物に記録された性的姿態の影像の消去等)​。警察に届け出ることで、違法画像が拡散する前に物理的にデータを押さえ込むことが期待できます。
  • 違法画像・動画の削除要請
     既にインターネット上に流出してしまった場合は、早急に削除を働きかける必要があります。リベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)に基づき、プロバイダやサイト管理者に対して送信停止措置を依頼することが可能です​。具体的には、違法にアップロードされた画像・映像の削除をサイト運営者に請求したり、裁判所に対し投稿削除の仮処分命令を申し立てる方法があります​。早い段階で対応できれば、被害拡大を最小限に食い止められるでしょう。

加害者にならないために知っておくべきこと

 一般市民の立場で最も大切なのは、「自分が加害者になってしまう」事態を防ぐことです。性的姿態等撮影罪の成立により、私たちは日常生活で何に気を付けるべきなのでしょうか。以下に加害者とならないためのポイントをまとめます。

  • 盗撮は犯罪と強く自覚する
     スマートフォンの普及で誰でも簡単に写真や動画を撮れますが、だからといって盗撮行為は決して許されません。興味本位で他人のスカート内を撮ったり、更衣室やトイレをこっそり覗き撮ったりすれば即犯罪です。たとえ相手に気付かれなくても、後日カメラの記録や防犯カメラ解析等から発覚するケースもあります。盗撮は見つかれば人生を棒に振りかねない重大犯罪であると認識しましょう。
  • 同意のない性的撮影はしない
     プライベートな関係であっても、相手の合意なく性的な写真や動画を撮影することは厳禁です。交際相手との性交渉を無断で録画したり、酔った友人の服をはだけさせて写真を撮るような行為は犯罪になります​。親しい仲だからといって油断せず、必ず相手の明確な同意を得てから撮影してください。万一同意を得て撮影しても、後述の通りそのデータを第三者に見せれば別の罪(提供罪)に問われます。
  • 人に頼まれても違法行為に加担しない
     他人から「面白い動画を撮って」と持ちかけられて盗撮を実行したり、インターネット上で「盗撮画像を買い取ります」といった誘いに乗ることも絶対にやめましょう。犯罪の共犯・教唆として自分も処罰される可能性があります。また、友人間で盗撮データを回し見する行為も、新法の下では違法データの提供・所持として処罰対象になり得ます​。軽い気持ちで加担した行為が取り返しのつかない結果を招くことを肝に銘じてください。
  • 違法画像・動画を「見ない・持たない・広めない」
     インターネットやSNS上で盗撮やわいせつ画像が出回っていても、決して安易にダウンロードしたり拡散したりしないでください。知らずにリツイート等をした場合でも、被害者に与える苦痛は大きく、削除要請を無視して拡散を続ければ民事上の責任やアカウント停止等の措置を受ける可能性があります。また、新法では違法な盗撮映像と知りながらそれを記録保存する行為も処罰されます​。違法と知りつつデータを保管していると、発覚時に「性的姿態等影像記録罪」(第6条)として3年以下の懲役等に処せられる恐れがあります​。興味本位でも違法なコンテンツには関わらないことが身を守ることにつながります。
  • 未成年者とのやりとりに注意
     SNSなどで安易に未成年者にわいせつな要求をしないでください。16歳未満の子にみだりに性交やわいせつな行為を持ちかければ、それ自体が「誘因行為」として犯罪になります​。特に、SNSを通じて裸の写真を送るよう要求する行為は厳しく罰せられます​。逆に未成年の側であっても、年上の人に誘われて自分の性的な写真を送ることは様々な法律問題を引き起こします。大人も子どもも、ネット上でやりとりする内容には十分注意し、不適切な誘いは毅然と断りましょう。
  • スマホ機能の悪用を避ける
     スマートフォンには消音カメラアプリや高性能ズーム機能など、悪用すれば盗撮に使われかねないものもあります。こうした機能をインストール・使用すること自体が直ちに違法ではありませんが、少しでも「やましい意図」があるなら最初から使わないことです。特に公共の場でスマホを使用する際は、周囲から疑われるような不審な動きをしないことも大切です。もし偶然にでも他人の性的姿態が撮れてしまった場合は、前述の通りデータを早めに消去し、他人に見せないよう徹底しましょう​。不用意な一枚の写真が重大な事態を招く可能性を常に意識してください。

 以上の点を心得ていれば、性的姿態等撮影罪の加害者となるリスクを大幅に減らすことができます。要は「相手のプライバシーや人権を侵すような撮影行為はしない」「違法な画像データに関与しない」というシンプルな心がけです。スマホやSNSが身近な今だからこそ、一人ひとりがモラルと法知識を持って行動することが求められています。

スマートフォン・SNS利用時の注意点

最後に、スマートフォンやSNSを利用する上で特に注意すべきポイントを整理します。現代社会では誰もが高性能なカメラと世界中に発信できるSNSを手にしています。その利便性ゆえに起こりうるトラブルを未然に防ぎましょう。

  • SNSへの投稿内容に細心の注意を
     他人の写真や動画をSNSにアップロードする際は、それが本人の了承を得たものか十分確認しましょう。特に水着や肌の露出が多い写真などはデリケートです。本人の意に反する性的な写真を投稿すればプライバシー侵害になるだけでなく、性的姿態等撮影罪の提供罪など刑事罰に繋がるおそれがあります。また、悪ふざけで友人のセクシーな写真を許可なくネットに載せると、後でトラブルになることもあります。SNSは不特定多数が見る場であることを忘れず、投稿前に「これは他人を不快にさせないか」「違法性はないか」を今一度考えてください。
  • 「消える写真」でもリスクは残る
     最近はSNSで一定時間で消える画像(いわゆるストーリー機能や専用アプリ)が人気ですが、だからといって危険な写真を送ってよいわけではありません。スクリーンショットで保存されたり、別のデバイスで録画されたりすれば証拠は残ります。一度ネット上に出回った画像は完全に削除するのが困難であり、将来どこで誰に見られるかわかりません​。送信前に「この写真が他人に漏れたら困らないか」慎重に考え、少しでも迷いがあるものは送らない決断も必要です。
  • 見知らぬ人とのやりとりに警戒
     SNSやマッチングアプリで知り合った相手から裸の写真を要求されたり、「会ったら◯◯円あげる」などと言われた場合、それは犯罪の誘いかもしれません​。昨今、若年層を狙った「自画撮り被害」が問題になっています。巧みな言葉で裸の画像を送らせ、それをネタに脅迫する(いわゆるセクストーション)事件も起きています。決して応じないことはもちろん、そうした要求を受けたら速やかに大人や警察に相談してください。逆に大人の側も、冗談半分でも未成年にわいせつなメッセージを送れば取り返しのつかない結果になります。ネットの向こうにいるのが誰であっても、節度あるコミュニケーションを心がけましょう。
  • プライバシー設定とセキュリティ
     SNSのアカウント設定を見直し、知らない人に自分の投稿が見られないよう非公開設定にする、フォロワーを限定するなどの対策も有効です。自分が被写体となった写真についても、勝手に撮られてネットに載せられる危険はゼロではありません。心配であれば、一緒に写った友人に投稿時は自分が写った部分をスタンプで隠すよう頼む、タグ付けを許可制にする等、自衛策を取りましょう。被害に遭わないためには、「撮られない・拡散されない」環境作りも大切です。

まとめ
 性的姿態等撮影罪の成立によって、私たちの身の回りの「写真を撮る・見せる」行為の一部は明確に法律違反となりました。一般市民としては、最新の法律動向を踏まえて適切に行動することが求められます。本コラムで解説したとおり、他人の性的プライバシーを侵す行為は厳しく罰せられますし、被害に遭った場合には救済の道があります。スマホやSNSを正しく使い、互いの尊厳を守り合うことで、安心・安全な社会を築いていきましょう。

※盗撮がやめられない場合、性障害に関する専門機関に相談することが必要かと思います。一人で悩む前に、まずはご相談ください。

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