【コラム】詐欺罪とはどのような犯罪か

詐欺をする猫 刑事事件

【はじめに】
 詐欺罪は、刑法に定められた財産犯の一つであり、社会的にも注目度の高い犯罪類型です。刑法第246条において、「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」と規定されており、その成立には「欺く」「錯誤」「財産の処分」「因果関係」の四要件が求められます。
 近年では、振り込め詐欺やネット詐欺、保険金詐欺、さらには訴訟を悪用した詐欺的行為に至るまで、その手口は多様化・高度化しています。本稿では、詐欺罪の成立要件を確認するとともに、典型的な事例、法定刑と量刑の考え方、示談の影響などについて実務の視点も交えて解説いたします。

1 詐欺罪の成立要件
  詐欺罪が成立するためには、以下の要件が必要です。

(1)欺罔行為(ぎもうこうい)
  加害者が被害者をだます行為です。虚偽の説明、身分の詐称、虚構の事実の提示などがこれに該当します。積極的な虚偽の表示に限らず、真実を知りながらそれを秘匿することも含まれます。

(2)錯誤
 被害者が欺罔行為を信じてしまうことです。すなわち、事実に反する認識を持ち、それに基づいて財産の処分を行う心理状態に至っている必要があります。

(3)処分行為
 被害者が自己の財産を処分する行為(例:相手に渡すこと)です。詐欺罪は、窃盗や強盗とは異なり、被害者が自発的に財産を移転する点に特徴があります。この点は、詐欺と窃盗の本質的な違いを示すものです。

(4)因果関係
 欺罔行為によって錯誤が生じ、錯誤に基づいて財産の処分が行われたという一連の因果関係が認められることが必要です。

 加えて、加害者には財産的利益を不法に得る意図、すなわち「不法領得の意思」が必要です。


2 典型的な詐欺の事例

(1)特殊詐欺
 いわゆる「オレオレ詐欺」「還付金詐欺」「キャッシュカード詐欺」などが該当します。電話や郵便を用い、被害者に対して家族や公的機関を名乗って金銭を要求する手口です。組織的に実行されることが多く、いわゆる「かけ子」「受け子」「出し子」などが役割分担して関与しています。

(2)インターネット詐欺
 オークションサイトやフリマアプリを用いて、実際には商品を発送する意思がないにもかかわらず代金を受け取る行為が典型です。また、偽サイトを作成して利用者からクレジットカード情報や送金を騙し取る事例もあります。

(3)無銭飲食・無賃乗車
 飲食代や交通費の支払い能力・意思がないにもかかわらず、それを隠して飲食や移動のサービスを受けた場合にも、詐欺罪が成立し得ます(刑法第246条第2項)。

(4)保険金詐欺・結婚詐欺
 架空の事故を装って保険金を請求する事例や、結婚の意思がないのに相手を信じさせて金銭を詐取する事例も詐欺罪に該当します。

3 法定刑と量刑判断
 詐欺罪の法定刑は、「10年以下の懲役」のみであり、罰金刑は規定されていません(刑法第246条)。したがって、有罪が確定すれば原則として懲役刑が科され、被害弁償や示談が成立していない場合、実刑判決となる可能性が高まります。

量刑においては、以下の事情が考慮されます。

  • 被害額の多寡
  • 犯行態様の悪質性(計画性・組織性の有無)
  • 初犯か否か
  • 被害者の処罰感情
  • 示談の有無・被害弁償の程度

 これらの事情を総合考慮して、執行猶予が付されるか、直ちに服役を要するかが決定されます。

4 示談の影響
 詐欺罪において、被害者との示談は非常に重要です。示談が成立し、被害弁償が完了している場合、次のような処分の軽減が見込まれます。

  • 捜査段階における不起訴処分(起訴猶予)
  • 公判請求後の執行猶予付き判決
  • 実刑判決が避けられない場合でも量刑の減軽

 反対に、被害者の処罰感情が強く、示談もなされていない場合は、厳罰が科される可能性が高くなります。したがって、早期に弁護人を通じて誠実な謝罪と被害回復を行うことが、処分に大きく影響することになります。

【おわりに】
 近年の社会情勢を踏まえれば、誰しもが詐欺の加害者にも被害者にもなり得る時代です。万が一、詐欺罪に関する疑いをかけられた場合や、被害に遭われた場合には、速やかに法律専門家に相談されることをお勧めいたします。

※近年増加しつつあるのが特殊詐欺ですが、比較的厳しい処分傾向にあります。絶対に加担しないようにしましょうね。

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